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第三章、更に甘い唇にたくさんのキス

8、明かされた真実

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 クリスマスモード全開な婚活会場。場の雰囲気のムードもあるのかいつもより会員達は盛り上がっているように見える。ケーキもたくさんならび、日和の職場の人間もいるが肝心な日和の姿がどこを見渡しても見つからない。いつもなら一瞬で日和を見つけられるのに、どこに行ったんだろうか。なんだかざわざわと胸騒ぎがする。


「日和」


 トイレにでも行ってるのか?


「おい、日和はどこへ行った。全然見当たらないんだが」


 日和の職場の人間、綾乃に聞いてみると困った顔をして口を開いた。


「あ~、日和はさっき男性のかたに話があるとか言われて連れてかれちゃいました」
「は? まさかあの時のケーキ屋にいた男か!?」
「そ、そうですね」


 くそったれ! あれほど俺以外の男には気をつけろと言ったのに。とくにあの男、一瞬しか見ていないが可愛い身なりをしていたが日和を見る目になんだか違和感を感じた。これは男の勘ってやつだが、男に対して気をるけることに越したことはないのに。日和は自分がどれだけ男を虜にしてしまう色香を放っているのか全く分かっていない。ましては最近は自分に抱かれまくっているからか大人の女の魅力が溢れ出してしまっている。


(まぁ俺のせい、なんだけどな)
「どこに行ったか分かるか?」
「それはちょっと分からないですね~、なにせいきなり連れていかれちゃったんで」
「そうか、ありがとな。少し日和を探してくる」


 会場内には日和の姿は見当たらない。会場を飛び出し部屋の扉を一箇所ずつ勢いよく開け中を見渡すがなかなか見つからない。


「っくそ! どこ行ったんだよ!」


 物品倉庫、自分が前に日和を連れ込んだ場所。まさかと悪い予感が一瞬頭によぎり勢いよく扉を開けた。


「ひより!!!」


 目の前には見たくもない無惨な光景。泣きじゃくる日和に、男が覆いかぶさっている。考える余地もない。洸夜は日和に覆いかぶさっている悠夜を殴り飛ばした。


「日和っ!!!」


 今にも倒れてしまいそうな真っ青な顔、急いで自分の着ていたジャケットを日和に羽織らせ、ガタガタと震えている小さな身体を力強く抱きしめた。唇はき切れて血が滲んでいる。怖かっただろう……一気に湧き上がる怒りはすでに身体からはみ出している。殴り殺してしまいたい。今にでもあの男を何度も殴りたい情動が拳を震わせる。けれど今は日和が第一優先だ。とにかく日和を強く抱きしめた。


「日和、もう大丈夫だ。大丈夫、遅くなってごめんな。もう大丈夫だ」


 何度も大丈夫を繰り返す、日和を落ち着かせるために、自分を落ち着かせるために。背中をゆっくりさする。何度も何度も大丈夫を繰り返した。


「いってぇな! 何すんだよクソ兄貴!!!」
(は? 兄貴?)


 こいつは何を言っているんだ? 洸夜に殴り飛ばされた悠夜は怒りで顔を真赤にし、日和を抱きしめている洸夜に殴りかかってきた。


「きゃぁっ」


 日和の悲鳴と共にバキッと骨と骨が強く当たった音がした。


「っいってぇな……てめぇ、殺されてぇの?」


 口の中に鉄の味がジワジワ広がる。


「はっ、何が殺されてぇだよ。母親一人守れなくて、好きな女も守れないような男にできるわけないじゃん。日和さんの唇柔らかかったなぁ」


 悠夜は洸夜を見下すように嘲笑った。
 怒りは身体からはみだすどころかもう爆発した。自分を嘲笑う悠夜に飛びつき胸ぐらを掴む。


「てめぇ、さっきからなにふざけたこと言ってんだ。日和にしたことも……許さねぇぞ」
「何も知らないで気楽に生きてきた坊っちゃんがうるせーよ」


 三人しかいない暗い部屋に悠夜の地割れするかのような怒鳴り声が響いた。怒りに満ちた目を洸夜に向けてくる。その瞳はどこか悲しげな色も混じっているように見えた。


「はぁ? どういうことだよ!」
「ははっ、本当に何も知らないんだ。可愛そうだから教えてあげるよ」


 乾いた笑みを浮かべたと思ったら、すぐに洸夜を睨みつけ口を開いた。


「お前の母親の名前は?」


 ……は? 突然の母親の名前はって……悠夜がなにを考えているのか全く分からない。


「俺を捨てた母親の名前なんか忘れたよ」


 もう思い出したくはない。悠夜の胸ぐらを掴む手に更に力が入る。日和が見ていなかったらボロボロに殴っていたかもしれない。


「やっぱり何にも知らないんだ。お前の母親は子供を捨てたんじゃない、DVしてくる旦那から逃げたんだよ」


 ……は? 何を言っているんだ?
 驚きで掴んでいた手の力が抜け落ちた。


「母さんはDVを受けてたんだよ。お前の父親にな。お前は会社の跡取りだから可愛く育てられたのかもしれないけどね」


 ……母さん? 父親? DV? 急な情報量が頭の中を駆け巡り何がなんだか分からない。自分は今地に足がちゃんとついているのだろうか? 身体がクラリとする。


「悠夜さんはもしかして、コイツの兄弟……なの?」


 日和の声でハッとした。自分の母親と悠夜の母親は同一人物ということだろうか?


「日和さんのほうが頭の回転が早いんだね。母さんはDVを受けていた男から逃げた後に俺を妊娠していることに気がついたんだ。つまり僕とコイツは正真正銘の血の繋がった兄弟ってこと」


 ドカンと大砲で身体を撃ち抜かれたような衝撃。立っているのが精一杯だ。自分を捨てた母親は父親からの暴力から逃げるためだった。そして日和を犯そうとしていたこの男が自分の血の繋がった弟……ということは淫魔、なのか……
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