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11.解明
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「お前さんの方から来るとは思わなんだわ」
議長はにっこりと笑う。今日の出で立ちは髪が蛍光ピンク、肌は真っ白で、水色のストライプ、瞳は黒だった。ソラも負けずににこやかに笑う。
「んで? 話って?」
ソラは真っすぐに議長を見る。
「…私とともに墜落して来たあの船は…あの船は私とセットなのです」
「…あ?」
議長とシイラは目を丸くする。
「私はロボットなのです」
「…え?」
ソラが衝撃の告白をしていた一方、キムはイライラとした毎日を送っていた。
「おんや? まーた食べてないねー」
原因の一つがこのモイストの存在だった。彼は自分と同じ種類の人間であったことが分かっている。なのに、この腑抜け具合がキムのイライラを助長していた。
「…うるさい」
「うるさいじゃないよー。こーんなうんまいモンどうして残すかな。俺この星に落ちてきてまず感動したのは、料理の美味しさだったのに。それともアナタ、宇宙食のほうが美味しいとかいう?」
それだったらアナタ、味覚障害起こしてるのかもしれないよーと言うモイストに、キムはたまらず怒鳴りつける。
「うるさいと言っているだろう!」
「うわ。恐っ」
そう言いつつ、モイストは全く怖がってはいない。第一、ここの食事が不味いなどと一度も思ったことがない。それどころか、懐かしいと感じたぐらい美味しかった。…そう、祖父と暮らしていたあの頃に食べていた味とどこか似ていた。だからこそキムは食べたくない、いや食べられないのだ。
「早くそれを持って出ていけ!」
頼むから出ていってくれと、キムは願ったが、モイストは皿の中にあったホクホクのジャガイモをフォークでさして、キムの目の前に持ってくる。
「アナタねぇ、今さら反抗期って年でもないでしょ? はい、アーン」
美味しいよーとフォークをヒラヒラとさせるモイストをキムはギッとにらみ付けた。
「うるさい!」
キムはそう言ってその手を振払う。
「イタタタ…って、何をカリカリとしてるのかな?」
「俺にかまうなっ! 頼むから…っ、頼むからほっておいてくれっ!」
そんなキムの姿を見て、モイストは腰に手を当てて、フゥとため息を吐く。
「…何を苛立ってるのかな?」
「さぁね」
「普通、こーんなのんびりとしたとこにきたら、心も体ものんびりしない?」
モイストの言葉に、キムはキュッと拳を握りしめた。その通りだ。だが、それはとりもなおさず、忌み嫌っていたはずの祖父との田舎暮しが、実は充足したものだったと今さらながら認識せざるをえないことになる。
今さらそんなことをどうして認められる?
だが、モイストがそんなキムの心中など知るはずもなく。
「ホンット困った人だねぇ…っと」
モイストが窓に目をやる。つられて外を見て、キムは後悔する。村人があれから毎日やってきては、綺麗に花を並べているのだ。またガラス自体は特殊な防弾ガラスだが、上部の小さな窓は開け放たれており、濃厚な草花の匂いや、土の匂いが風がそよぐとともに、病室内に充満する。それがまた、祖父との暮らしを思い出させ、段々とこの星のすべてが自分の全てを否定しているような感覚に陥ってくるのだ。
「どうしてほっといてくれないんだ…」
そう呟くキムにモイストは驚いたように振り向いた。
「どうしたの?」
そののほほんとした声にキムはとうとうキレた。
「もうたくさんだ! ウンザリだ! 一体お前らなんなんだよ!」
「救助隊隊長さんと村人さんだけど」
戯けて返すモイストに、キムは手元にあった皿を投げ付ける。
「ふざけるなっ!」
「うわぁ!」
さすがのモイストも驚いて、横に避ける。窓の向こうでは村人達が驚いていた。
「お前らに俺の何が分かるっていうんだ?! 俺が間違っているとでも言いたいわけかっ?!」
キムがそう怒鳴ると、モイストは真面目な顔をした。
「俺にはそんな権利さらさらないよ?」
「じゃあ、人の神経を逆撫でするな!」
キムはそう言うと、また皿を投げ付ける。村人は慌てて窓を叩くが、モイストは手を挙げて村人を制して問いかけた。
「なんで神経を逆撫でされてるって思ってちゃってるの?」
「そ…! それは…!」
言葉に詰まるキムにモイストはさらに問いを重ねる。
「ねぇ、それになんで俺がアナタが間違っているとか思ってるって思うの?」
キムは唇を噛み締めて俯いてしまう。答えてしまえば何かが崩れ落ちそうだった。そんなキムにモイストは片眉を上げた。
「俺にはアナタを断罪する権利はないよ? あるとすれば…」
一旦言葉を切るモイストにキムはのろのろと顔を上げる。断罪を待つ罪人のような表情で。
「…あるとすればアナタ自身だけだし。だから、アナタ自身が何かを間違ってるって気付いたんじゃないの?」
モイストのその言葉でキムの何かが切れてしまった。
キムは傷の痛みも忘れて、モイストに飛びかかった。モイストは、まさかキムが起き上がれると思っていなかったために反応が遅れてしまう。慌てて防戦するが、まるで狂人のような様子のキムに戸惑いが出てしまい、殴り倒されてしまう。
「うっわ…!」
さらに馬乗りになられて殴り掛かられる。
「黙れ黙れ黙れー! お前らに何がわかるって言うんだ!」
キムは散々殴りつけた後、モイストの銃を奪い、モイストに銃を突き付ける。モイストは必死で抵抗して、なんとかキムを蹴りつけると、ベッドの影に転がり込む。キムは一回だけモイストに向かって銃を放ち、モイストが怯んだ隙に病室から逃げ出した。
暫くしてベッドの影から這い出てきたモイストは自分の怪我の具合を検分する。少し口の中が切れているのと、腕を擦りむいてしまったようだ。
「あー…やっべー…」
思わず肩をすくめながらカーロスへと無線を繋ぐ。その間に窓の向こうの心配そうな村人たちに、笑顔を見せて手を振り大したことはないということを示した。
『はい?』
「え~っとぉ、モイストなんだけどー…」
『なにかありましたか?』
「……キムちゃん逃げちゃった」
テヘと言うモイストに無線の向こうのカーロスは黙ったまま。
「……怒ってる?」
恐る恐る問いかけると、平静な声で返事が返ってくる。
『モイストさんが逃さはったいうことは、ほかの誰でも同じ結果やったでしょう』
「うっわ、俺ってば信用されまくり?」
『アホなことを言うてんと、早よキムさんを確保して下さい』
「もちろん」
『それで、お怪我は?』
「へ?」
『怪我はないと思うてよろしいですか?』
「あ、うん。大丈夫よー」
『キムさんも?』
「……それはちょっとわかんない」
『それでは双方なるたけ怪我のないように頑張って下さい』
「了解さー」
ヘラリと笑って無線をきると、今度は部下達に連絡を取り確保体制に入らせる。
「……やりすぎちゃったかなー…」
モイストの部下たちは一癖も二癖もあるような人間ばかりだ。それゆえ、連合に居た時もあちこちで持て余され、固まってできたはぐれ部隊だった。
だが、モイストというこれまた癖のありすぎるリーダーを得て、部隊は押しも押されぬ地位を得る。
「俺もお節介な人になっちゃったもんだ」
部隊をまとめていたのは、自分が他人とは相容れれぬという思い。どこかズレた自分を抱えつつ、ズレているからこそ、しっかりとした地位を得ようとのその共通の思いだけでまとまっていただけだったのだ。
だから一見団結しているようでも、ほとんどが個人プレーで、好き勝手に動いていただけだった。
だが。
「ここの星ってば、どーんな人間もあっさりと受け入れちゃうんだからたまんないよね」
どれだけ自分達が他人からズレていると見せても、この星の人間たちはいいやん、いいやんと笑ってあるがままを受け入れたのだ。ほぼ初めてといっていいほどの体験にモイストたちは狼狽えた。自分達のアイデンティティがぐらつきまくっていたところであの議長の一言でノックアウト。
「他人のために頑張るのって結構楽しいんだって知らなかったんだよね…」
だから、つい自分と重なるようなキムにちょっかいをかけまくってしまったのだ。
「でもあの様子だと、キムちゃんってばこういうトコに経験ありだったのかなぁ…だったら悪いコトしちゃったかも」
そう呟いたところで、部下の一人が救急セットを持って駆け付けてきた。
議長はにっこりと笑う。今日の出で立ちは髪が蛍光ピンク、肌は真っ白で、水色のストライプ、瞳は黒だった。ソラも負けずににこやかに笑う。
「んで? 話って?」
ソラは真っすぐに議長を見る。
「…私とともに墜落して来たあの船は…あの船は私とセットなのです」
「…あ?」
議長とシイラは目を丸くする。
「私はロボットなのです」
「…え?」
ソラが衝撃の告白をしていた一方、キムはイライラとした毎日を送っていた。
「おんや? まーた食べてないねー」
原因の一つがこのモイストの存在だった。彼は自分と同じ種類の人間であったことが分かっている。なのに、この腑抜け具合がキムのイライラを助長していた。
「…うるさい」
「うるさいじゃないよー。こーんなうんまいモンどうして残すかな。俺この星に落ちてきてまず感動したのは、料理の美味しさだったのに。それともアナタ、宇宙食のほうが美味しいとかいう?」
それだったらアナタ、味覚障害起こしてるのかもしれないよーと言うモイストに、キムはたまらず怒鳴りつける。
「うるさいと言っているだろう!」
「うわ。恐っ」
そう言いつつ、モイストは全く怖がってはいない。第一、ここの食事が不味いなどと一度も思ったことがない。それどころか、懐かしいと感じたぐらい美味しかった。…そう、祖父と暮らしていたあの頃に食べていた味とどこか似ていた。だからこそキムは食べたくない、いや食べられないのだ。
「早くそれを持って出ていけ!」
頼むから出ていってくれと、キムは願ったが、モイストは皿の中にあったホクホクのジャガイモをフォークでさして、キムの目の前に持ってくる。
「アナタねぇ、今さら反抗期って年でもないでしょ? はい、アーン」
美味しいよーとフォークをヒラヒラとさせるモイストをキムはギッとにらみ付けた。
「うるさい!」
キムはそう言ってその手を振払う。
「イタタタ…って、何をカリカリとしてるのかな?」
「俺にかまうなっ! 頼むから…っ、頼むからほっておいてくれっ!」
そんなキムの姿を見て、モイストは腰に手を当てて、フゥとため息を吐く。
「…何を苛立ってるのかな?」
「さぁね」
「普通、こーんなのんびりとしたとこにきたら、心も体ものんびりしない?」
モイストの言葉に、キムはキュッと拳を握りしめた。その通りだ。だが、それはとりもなおさず、忌み嫌っていたはずの祖父との田舎暮しが、実は充足したものだったと今さらながら認識せざるをえないことになる。
今さらそんなことをどうして認められる?
だが、モイストがそんなキムの心中など知るはずもなく。
「ホンット困った人だねぇ…っと」
モイストが窓に目をやる。つられて外を見て、キムは後悔する。村人があれから毎日やってきては、綺麗に花を並べているのだ。またガラス自体は特殊な防弾ガラスだが、上部の小さな窓は開け放たれており、濃厚な草花の匂いや、土の匂いが風がそよぐとともに、病室内に充満する。それがまた、祖父との暮らしを思い出させ、段々とこの星のすべてが自分の全てを否定しているような感覚に陥ってくるのだ。
「どうしてほっといてくれないんだ…」
そう呟くキムにモイストは驚いたように振り向いた。
「どうしたの?」
そののほほんとした声にキムはとうとうキレた。
「もうたくさんだ! ウンザリだ! 一体お前らなんなんだよ!」
「救助隊隊長さんと村人さんだけど」
戯けて返すモイストに、キムは手元にあった皿を投げ付ける。
「ふざけるなっ!」
「うわぁ!」
さすがのモイストも驚いて、横に避ける。窓の向こうでは村人達が驚いていた。
「お前らに俺の何が分かるっていうんだ?! 俺が間違っているとでも言いたいわけかっ?!」
キムがそう怒鳴ると、モイストは真面目な顔をした。
「俺にはそんな権利さらさらないよ?」
「じゃあ、人の神経を逆撫でするな!」
キムはそう言うと、また皿を投げ付ける。村人は慌てて窓を叩くが、モイストは手を挙げて村人を制して問いかけた。
「なんで神経を逆撫でされてるって思ってちゃってるの?」
「そ…! それは…!」
言葉に詰まるキムにモイストはさらに問いを重ねる。
「ねぇ、それになんで俺がアナタが間違っているとか思ってるって思うの?」
キムは唇を噛み締めて俯いてしまう。答えてしまえば何かが崩れ落ちそうだった。そんなキムにモイストは片眉を上げた。
「俺にはアナタを断罪する権利はないよ? あるとすれば…」
一旦言葉を切るモイストにキムはのろのろと顔を上げる。断罪を待つ罪人のような表情で。
「…あるとすればアナタ自身だけだし。だから、アナタ自身が何かを間違ってるって気付いたんじゃないの?」
モイストのその言葉でキムの何かが切れてしまった。
キムは傷の痛みも忘れて、モイストに飛びかかった。モイストは、まさかキムが起き上がれると思っていなかったために反応が遅れてしまう。慌てて防戦するが、まるで狂人のような様子のキムに戸惑いが出てしまい、殴り倒されてしまう。
「うっわ…!」
さらに馬乗りになられて殴り掛かられる。
「黙れ黙れ黙れー! お前らに何がわかるって言うんだ!」
キムは散々殴りつけた後、モイストの銃を奪い、モイストに銃を突き付ける。モイストは必死で抵抗して、なんとかキムを蹴りつけると、ベッドの影に転がり込む。キムは一回だけモイストに向かって銃を放ち、モイストが怯んだ隙に病室から逃げ出した。
暫くしてベッドの影から這い出てきたモイストは自分の怪我の具合を検分する。少し口の中が切れているのと、腕を擦りむいてしまったようだ。
「あー…やっべー…」
思わず肩をすくめながらカーロスへと無線を繋ぐ。その間に窓の向こうの心配そうな村人たちに、笑顔を見せて手を振り大したことはないということを示した。
『はい?』
「え~っとぉ、モイストなんだけどー…」
『なにかありましたか?』
「……キムちゃん逃げちゃった」
テヘと言うモイストに無線の向こうのカーロスは黙ったまま。
「……怒ってる?」
恐る恐る問いかけると、平静な声で返事が返ってくる。
『モイストさんが逃さはったいうことは、ほかの誰でも同じ結果やったでしょう』
「うっわ、俺ってば信用されまくり?」
『アホなことを言うてんと、早よキムさんを確保して下さい』
「もちろん」
『それで、お怪我は?』
「へ?」
『怪我はないと思うてよろしいですか?』
「あ、うん。大丈夫よー」
『キムさんも?』
「……それはちょっとわかんない」
『それでは双方なるたけ怪我のないように頑張って下さい』
「了解さー」
ヘラリと笑って無線をきると、今度は部下達に連絡を取り確保体制に入らせる。
「……やりすぎちゃったかなー…」
モイストの部下たちは一癖も二癖もあるような人間ばかりだ。それゆえ、連合に居た時もあちこちで持て余され、固まってできたはぐれ部隊だった。
だが、モイストというこれまた癖のありすぎるリーダーを得て、部隊は押しも押されぬ地位を得る。
「俺もお節介な人になっちゃったもんだ」
部隊をまとめていたのは、自分が他人とは相容れれぬという思い。どこかズレた自分を抱えつつ、ズレているからこそ、しっかりとした地位を得ようとのその共通の思いだけでまとまっていただけだったのだ。
だから一見団結しているようでも、ほとんどが個人プレーで、好き勝手に動いていただけだった。
だが。
「ここの星ってば、どーんな人間もあっさりと受け入れちゃうんだからたまんないよね」
どれだけ自分達が他人からズレていると見せても、この星の人間たちはいいやん、いいやんと笑ってあるがままを受け入れたのだ。ほぼ初めてといっていいほどの体験にモイストたちは狼狽えた。自分達のアイデンティティがぐらつきまくっていたところであの議長の一言でノックアウト。
「他人のために頑張るのって結構楽しいんだって知らなかったんだよね…」
だから、つい自分と重なるようなキムにちょっかいをかけまくってしまったのだ。
「でもあの様子だと、キムちゃんってばこういうトコに経験ありだったのかなぁ…だったら悪いコトしちゃったかも」
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