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11.少女(偽)とゴーレム(偽)歩みよる

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「まず、一番大事なトコや。お前、ホンマにネクロマンサーとちゃうやんな?」
 リンがそれはそれはもう疑わしそうに聞くと、ハーディは首がもげるのではないかというほどに横に振った。
『違います! 違うんですぅ!』
「あー、わかったわかった。じゃあ、なんでそんな誤解を受けとるねん」
『それが本当にワタクシわからないのです。一体どうしてでしょう?』
「アタシが知るかい」
 ハーディはうーんうーんとしばらく考え込んだ後、あ…と声を上げる。
『もしかして…なのですが…』
「言うてみ」
『その…ワタクシ、幽霊さんとお話しできるのはご存知ですよね?』
「うん」
『実はワタクシ、死んだと自覚のない方や、死んだと認めたくない方とお話しして、心残りを解決して差し上げて、あの世へ行けるように努力していたのです。ですが、たまに体がないと心残りが解消されないような望みの方もいらっしゃいまして』
「たとえば?」
『お子さんに多いのですが…遊び足りないなどの理由でなのです。でもそのままだと、悪霊になったり、魂が摩耗してしまい消滅したりしますので、なんとかしたくて…』
「あー…」
『そこで、ワタクシ特技を生かしまして『生ける土』でお体をお作りして、心残りを解消できるようにしていました』
「ほほぅ」
『ところがそうやって、体を作ってあげたお子さん達の幽霊さんと一緒に遊んでいるところを見た方がおられまして、お声をかける前に何やら叫びながらきた道をお戻りになったことがありました。つい最近のことです』
「何の遊びしてたんや?」
『英雄ごっこなのでございますが、ワタクシが唯一の大人ということで英雄役をいたしまして、お子さん達はその部下という役回りでした。目撃なさった方がそれを誤解されたのではないかと…』
 リンはハーッと長いため息を吐いて、眉間を押さえた。
「……言っていい?」
『……どうぞ』
「マヌケ」
 ニッコリスッパリと言われ、ハーディは膝を抱えて落ち込んでいる。
『……その通りです』
「で? なんでその体になったワケ?」
『実を申しますとその…お子さんの幽霊さんは入っていただけるのですが、ある程度以上の年齢の方はワタクシが作った体に入っていただけないのです』
 膝を抱えたままいじけた様子のハーディの話にリンは眉をひそめた。
「なんでやねん?」
『それがわからないのです。皆さん言葉を濁されるばかりで……。それで、ものは試しと申しますから、母と一緒に試作したこのゴーレムに入って、自分で原因が何かを確かめてみようと思い立ちまして』
「ふんふん」
『入ってみましてすぐに、住居を襲撃されてしまいまして、慌ててこの体のまま逃げ出してしまったのです』
「……」
『リンさん?』
「お前って、バカ?」
 リンは笑顔のまま、まったくもって情け容赦なく突っ込んだ。
『! ひどい! ひどいですぅぅ!』
「いや、ビックリしたわぁ。アタシ、アンタがその体に入ったのは、もっと深刻な理由だとばっかり思てたんやもん。間が抜けてるにもほどがあるわぁ」
 ハハハーと乾いた笑いをこぼしながら言われ、ハーディはわっと泣き伏せる。
『もっと言い方というものがあるんのではないかと思いますー!』
「やかましい! 話進まんやろ!」
『うぅ…』
「それで、お前ホンマに死霊を操ったことはないねんな?」
『ありません! そんな無茶をしてしまうと魂が摩耗して消滅してしまいます! そんなこと…そんなことは…!』
 俯いてブルブルと震えだしたハーディの様子にリンは驚いて顔を覗き込んだ。
「ハーディ?」
『……ワタクシ、母が死んだとき…母の体を作り、この世にとどまっていてほしいと願ったのです』
「……なんやと?」
 リンは険しい顔になる。
『母は何も言わずただ笑った後、入ってくれました。これでひとりぼっちにならずにすむと思いました。その時は』
「……なにがあってん」
 ハーディは俯いたまま、膝の上でキュッと拳を握りしめた。
『体がだめになりそうになる度に新しく体を作りました。でも、だめでした。母は…母は体だけでなく魂も消滅してしまったのです』
「なんで?」
 リンが驚くと、ハーディは少しだけ顔を上げ、リンを見た後、また俯く。
『所詮、生身の体ではありません。人間というのは魂と肉体が一致しなければ生きていけません。母はそれを教えようとしたのでしょう。消滅する前にワタクシに言いました』
「なんて?」
『ワタクシが作る『生きた土』の体は万能ではないと。仮の肉体にはなっても永遠ではないと。それをよく覚えておきなさいと』
 ますます俯くハーディにリンはなんと声をかければいいのかわからない。
「そうか…」
 ハーディは握りこんでいた手をゆっくりと開き、見つめている。
『ですからワタクシ、幽霊さん達がどれだけご家族にお会いしたいと言われても、それだけはできないと申しあげています』
「なんで?」
『お会いすれば心残りはなくなるでしょうけども、残されたご家族はどうですか? 一度の離別だけでなく、二度も離別を体験しなければならないのです……とても…とても辛かったのです…辛かった…』
「ハーディ…」
 肩を震わせるハーディ。ゴーレムの体は涙が出ないけれど、多分泣いているんだろう。リンはそう思うとたまらず、その俯いている頭を胸に抱きしめた。
『リンさん?』
 震える声で名を呼ばれ、リンは目を閉じるとゆっくりと息を吐き出す。
「よーがんばった」
『……』
「一人で泣いたんやろ?」
『はい…』
 ハーディは俯いたままコクリと頷いた。リンはそっと両手を添えて顔を上げさせる。
「寂しかったやろうな」
『はい…寂しかった…でも…』
「でも?」
『また誰かを失うことが怖くて…外に出られなかったのです。誰かと知り合うのが怖かったのです。大事な誰かを失うのはもう嫌だったのです』
「アホやなぁ」
 リンはそういうと、グンと顔を近づけた。
『どうしてですか』
 ハーディの真っすぐな視線をリンは揺らぐことなく受け止める。
「失うことを知っていて怖がるやつは、いいやつなんや。失う怖さを知っているやつは優しい。でも、失うだけやないことも覚えろ」
『失うだけ…じゃない、ですか?』
 不思議そうな声にリンは笑いかけた。
「そうや。生きてたら、失うこともあるけど得ることも多い、失う怖さを知っているから得ることの大切さや、楽しさがわかるんや」
『大切さと楽しさ…』
「そうや。お前はなんも知らんだけや。体を取り返したら外に出ろ。お前なら得るものが優しく迎えてくれるわ」
 リンはハーディの額に自分の額をコツンと当てる。
『そうでしょうか。本当に?』
「あぁ。このリン様が保証したろ」
 おそるおそるハーディは、リンの手に自分の手をそっと重ねてきた。
『では先ず、教えてくれませんか?』
「あ?」
 意味が分からなくてリンがキョトンとした顔になると、ハーディは重ねて聞いてくる。
『リンさんが教えてくださいませんか?』
「アタシィ?」
『はい。ダメですか?』
 ジッと見つめられ、リンは戸惑う。
「なんでアタシ?」
『だって、外へ出るのを手伝ってくれると言ってくれたではないですか』
 ゴーレムと見つめ合うなんて経験がない…というか、経験したことがある人間の方がないだろうなと思いつつ、リンはハァとため息をついた。
「あー…わかったわかった。最初の約束通り、旅の間だけな」
『本当ですか?』
「あぁ」
『嬉しいです!』
 明るい声でそういうと、リンの手をパッと離して両手を広げかけたハーディに、リンはビシィッと指を突きつける。
「抱きつくなよ!」
『あ』
 そのままで固まるハーディをリンはギロリと睨みつけた。
「抱きつこうとしてたんやな」
 ハーディは両手を上げたり下げたりして、言い訳を試みようとしているが。
『……すみません』
「本当にもう」
 リンはため息を吐くと、仕方なさそうに笑い、ハーディの頭を手でペシリと叩いた。
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