日記

Onfreound

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患者

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 人生初の病院暮らしをしているが、あまりにも暇だし、トイレにも自由に行けない生活が普通にしんどい。課題に追われる生活から逃れたと思ったら、どこにも逃げられない生活がやってきてしまったのである。
 お陰で某スマホ版レースゲームのレートをカンストさせたり、追いきれなかった配信を見返したりは出来たが、様々な人や物に囲まれ、機械に繋がれ、偶に痛みや吐き気に襲われることの代わりにはならない。
 親からも「健康だけが取り柄」と言われたように、私はヒョロヒョロとした体型のくせに無駄に健康で、多少調子を崩しても翌日には治っていたし、インフルエンザと埃アレルギーのこと以外で病院のお世話になることはなかった。だから、当日朝に呼吸が少ししんどいと思っても、なんとかなるだろうと思っていた。
 教室の移動でさえ息切れするので保健室で寝続け、仕方なく診察を受けたのは午後3時頃。すでに左の肺は縮みきっていて、結構酷い状態だったそうだ。
 管を通すとかとても痛いとか言われた手術は気づいたら終わったが、人から久々に向けられた心配そうな目線には妙な気色悪さを感じた。
 その後個室に運ばれ、翌日には容態が安定していると言われ4人部屋に移され1日過ごし、今に至る。
 高齢の患者が殆どの院内で、高校生は異様なのだろう。看護師からはやたらと自分の年齢を尋ねられた。
 それだけだったが。
 まぁ、変に追及されては、こちらから出せるものがないのでお断りだ。というか、話は出来ない。
 隣の老人はイヤホンなしで過激なニュース動画を垂れ流すし、いびきが大きく昨夜は寝れなかった。正面の老人は便に行けず、何かに出している音が聞こえる。
 まぁ私も頻尿で迷惑かけたり手拭き用の紙がうまく取れなかったり、人に色々言えるような立場ではない。だが、対等な対人関係とか、社会性とか、そういったものを理解できていない者にとって、他者を受け入れる姿勢になるのは難しい。
 看護師についてもで、関西弁混じりで強くあたってくる人、息を切らしながら面倒臭そうに世話をする人などなど、沢山の人がいるわけで、彼らに命を預けていることは分かるのだが、どうしても人と関わると相手として見てしまう。
 というか、トイレの度に呼ばないといけないのは辛すぎる。尋常でないほどの負債感と居心地の悪さに苦しめられる。トイレぐらい自由に行かせて欲しいものだが、左胸に機械を結び付けているため運んでもらわなければならない。
 肉体的な疲労もあるが、心理的な疲労はでかい。自由に笑うことも話すこともできず、大好きな栄養ドリンクも飲めず、作った話し方で話し続けている。スマホの電源が減ればイヤホンを外さなければならないが、超小音で使わなければならないのが辛い。偶に血圧などの検査が来た時に明かされてくる、予想より先の退院予定を聞く度に辛い。
 病院食は意外と美味しかったが、綿棒もマスクもくれない。マスクは入院初日のものを使い回しているので気持ち悪い。就寝9時は早過ぎて夜中2時にいびきで起こされる。
 そういえば入院したことで初めてクラスLINEとやらを使わなければならなくなった。夏休み前の諸々の行事に関する対応を伝えなければならなかったので、長々とした文を貼り付けた。おそらくこれ以降使うことはないだろう。
 家族に前向きなメッセージを送り、寝る。

 翌日になる。
 機械を何かに括り付けることでトイレには自由に行けるようになった。
 唯一空いていた斜め前の席には高熱の老人が入っている。前の老人は脳梗塞で数日後からリハビリらしい。隣は唸り声をあげていて怖い。
 痛みはあまりないが左胸から少しだけ流れる血が目につく。
 何人かの看護師とは適当な話をすれば済むが、髪を洗いに来た奴はそうもいかなかった。私の愛想笑いを無視して色々質問してくるし、セクハラ気味の発言を恥ずかしげもなく話してくる。
 今まで痛み止めの薬を食事の度に渡されてきたのだが、袋で数日分を一気に渡された。
 どうやら奥で知能テストをしているようだが、患者の叫び声が聞こえてくることがある。他怒号、泣き声などなど、飛んでくる音はなかなか激しいものばかりだ。
 横になるしか出来ないことのしんどさは大きい。食後は吐き気がするし、そもそもずっと動いていないからか昼間寝転んでも気持ち悪くなる。しかも横を向けない。これで消灯9時では寝れない。どうせ、いびきで起こされるが。
 明日も続くと考えると辛い。家が恋しくなる。しかし、再び課題に追われる生活になるのも辛い。
 家族に簡単なメッセージを送り、寝る。

 翌日になる。
 今日の病院食は少し口に合わなかった。
 敬遠していたFPSゲームを1日かけてインストールしてみた。BOTは倒せたが、全然勝てない。
 斜め前の老人は10秒に一度咳かスカスカな唸り声をあげる。看護師に手助けされ痰を吐く。隣の老人の携帯の通知音がとてつもなくでかい。過激なニュースの音量は次第に上がっていく。彼らはカーテンを閉めないので、トイレに行こうとする度に倒れている姿が目に入る。
 退院が近いことを告げられる。
 スマホを見ると学校からの連絡が大量に届いている。夏期講習の日程とやらが書いてある。見る気はない。
 横になると相変わらず左胸は痛むが、少し楽になっているかもしれない。
 入院前以来、久々に「しにたい」と呟く。
 LINEは開かずに寝る。

 翌日になる。
 深夜にトイレに行く。
 左胸に繋いでいた管を抜いた。なんかテープを貼っていたのだが、それを剥がす時が1番痛かった。明日退院するかもしれないらしい。ただし、来週また来てなんかするらしい。
 FPSゲームは少し相手を倒せるようになる。しかし勝てなかった。
 ASMRを聴く。ボイス動画を聴く。入院前はいつも聴いていた。音声上なら私は受け入れられている気がする。
 トイレに行った回数をメモする紙があるが、わざと結構書き落としてある。自分は結構な頻度で行くが、少なかった入院当日や2日目に合わせている。
 そういえばクラスメートへのLINEで嘘をついていた。退院の日程的に球技大会には出られないんだ。まぁいいや、知らん。
 周りの老人がずっと寝ていることに気づく。寝転がるとかではなく、飯を食うかトイレに行くか寝るかなのだ。
 自由な時間ばかりだったはずだが、特に何もしていないなぁと思う。いや、それは前から感じていた。何をしているんだろう。
 家族に適当なメッセージを送り、寝る。
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