上 下
63 / 79
EP3

#54

しおりを挟む
 白渡は、学園祭を楽しんでいるのだろうか。当然彼女の気持ちは分からない。

 では、僕はどうなのか。こんな経験が無かったから、今の感情を"楽しい"と呼ぶのか分からない。

 でも、楽しくないとは言えなかった。乱暴に連れ回されているだけなのに、もしかして僕はマゾヒストなのだろうか。

   「...お前、まだ買うの?」

 白渡の鞄には、大量の菓子と小物。他の奴らも買い溜めているのを見ると、下原の高校生は金持ちなのかもしれない。

   「いや、伊折君がおかしいよ。いつ財布の紐を緩めるか、今でしょ!」
 
   「寒さ以前に、伝わるかどうかもギリギリだぞ」

   「でも、あの人はデート資金を稼ぐ為に家庭教師のバイトを始めたんだよ?やっぱり今しかないじゃん」

   「知るか...」

 出典はwikiである。

   「店で出るものならいいけど、手作り感があるものはなんか無理なんだよ」

   「それは、楓ちゃんのせいだったり?」

   「は?...まぁ、あいつも僕も料理は壊滅的だが」

   「...へぇ、なるほどね」

 黒瀬の名が出たせいか、急激に鼓動が速まる。さっき腕を引かれたときに似た、でも、ちょっと違う様な、そんな感覚がする。

 恥ずかしいのか、気まずいのか、ただ驚いただけなのか。そんなことを気にしていて、彼女の違和感には意識が回らなかった。

   「伊折君、外に行こっか。そろそろ昼ご飯の時間だよ」

   「え、結局それは買わないのかよ...気まぐれな奴め」

 手に取っていたアクセサリーを戻し、僕を連れ出す白渡。彼女はいつもの笑顔のまま、呟く。

   「気まぐれじゃないよ。ただ、自分勝手なだけなんだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女子に虐められる僕

大衆娯楽
主人公が女子校生にいじめられて堕ちていく話です。恥辱、強制女装、女性からのいじめなど好きな方どうぞ

おむつオナニーやりかた

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
おむつオナニーのやりかたです

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

処理中です...