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EP3

#53

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   「伊折君、綿飴食べようよ。羊の愛くるしさを感じながら棒まで舐めようよ」

   「...あー、いいぞ」

   「高校の文化祭なのに『の』の字探しなんてやってるらしいよ。見つけてほの字に出来たら良いね」

   「...おー、そうだな」

 向けられる視線はこれまでより鋭く、なかなかに酷い言葉も聞こえてくる。こいつの告白に答えなかったから"クズ"とされたのに、されるがままにするのはさらに駄目だなんて、難しい世界である。

 だが、僕の気力の無さはそのせいでも、当然出店の種類のせいでもない。ずっと、あの時の異様な感覚に動揺し続けていた。

   「伊折君、奇抜な初配信をしそうなVtuberの絵があるキーホルダーが売ってるよ。200万個ぐらいストックしてるのかな」

 流石に他人の視線には気づいているだろうに、白渡はいつも通り話し続ける。か細く見える手で、僕の腕を掴みながら。

 あの感覚は何なのか、という疑問はもちろん。どうして思い出したのかも分からない。1つ言えるのは、何故かそれに懐かしさを感じたという事だ。

   「伊折君、あの店のブラックコーヒー、ポン酢とかに変えとこうよ。麦茶と麺つゆの見分けがつかない連中なんだから、多分いけるよ」

   「...お前、知性の乱高下凄いよな」

 白渡の話が過激なものになったせいだろう。ようやく正気が戻りそうになる。お陰で暴言や蔑みがよりはっきり分かる様になり、辛い。

 ふと、白渡を見る。彼女は相変わらずの笑顔だった。

 周りの目線にも騒めきにも左右されず、今もこうして笑っていて。

   「ほら、行こう?」

 自分が動揺してたのが馬鹿らしくなってたのに、また少し、変な思いがぶり返す。疑問は深まる一方だった。
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