上 下
43 / 79
EP2

#38

しおりを挟む
   『いおりだいまおうをたおせ!』

 僕が黒板に文字を書いていくと、読み上げる声や笑い声、話し声等様々な声が聞こえてくる。

 振り返ると、児童達をしっかり見渡す事が出来る。前の子の机の落書きから、後ろの子の組んだ足まではっきり分かる。そして、不思議そうに黒板を眺める榮子も見える。

 今後授業を受ける時は気をつけよう、そう思いながら、彼らに向かって話し出す。

   「皆んな、大変だ!恐ろしい"いおりだいまおう"が、みんなの住む地球を侵略しに来たぞ!」

 僕が全力で呼びかけると、教室全体が笑いに包まれる。世界の危機なんですが。

   「だ、だけど...僕はいおりだいまおうの事は噂で聞いただけで、奴の姿は知らないんだ。皆んな!奴の似顔絵を描いて、僕に教えてくれ!」

 先生に協力してもらいながら、1人1人に紙を配っていく。全員に渡した後、説明する。

   「皆んなにはいおりだいまおうの似顔絵を描いて欲しい。どんな顔かは分からないから、みんなが思う顔を描いてね。ただし、このタイマーが鳴るまでに描くこと。それと、他の人と話したり、絵を見せ合ってはいけないよ。それじゃ、スタート!」

 陰キャが慣れないことをしているからか、既にしんどい。でもとりあえず、児童達は真剣に顔を描き始めてくれている。

 僕の授業では、オリジナルのゲームをすることにした。基にしたものは一応あるが、ルールは自分で考えた。パクりではない、筈。

 タイマーの音で鉛筆を止めさせ、紙を回収する。

   「皆んな、いおりだいまおうの顔を教えてありがとう!だが...いおりだいまおうは怖い奴なのか?優しい奴なのか?好きなものは?特技は?」

 児童達が再びお喋りを始める。彼らが授業に乗ってくれていて嬉しい。

   「いい?今から皆んなに、誰かが描いてくれたいおりだいまおうの似顔絵を渡すから、その顔を見て奴の性格や特徴なんかを書いて欲しい。いおりだいまおうの事なら、どんな内容でもいいよ。ただし、今回も誰かと話しをしたり、見せ合ったら駄目だからね」

 そう言って、集めたいおりだいまおうの似顔絵をバラバラに配る。そして、顔の隣に設定を書き加えさせる。

 僕のゲームは、前にかいた人の情報を参考にしながら、全員で1つのキャラクターを創り上げるというものだ。特殊な連想ゲームとでも呼べば良いのか。後で担任に説明した時には、子供達の想像力や文章力、論理的思考を云々とか話しておいた。

 当然、そんな事は毛頭考えていない。

 榮子を見る。言ってしまえば無駄な授業だが、普通に取り組んでくれている。

 しかし、正直彼女がここまでどうしていようが関係ない。肝心なのはここからだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

全体的にどうしようもない高校生日記

天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。  ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

行くゼ! 音弧野高校声優部

涼紀龍太朗
ライト文芸
 流介と太一の通う私立音弧野高校は勝利と男気を志向するという、時代を三周程遅れたマッチョな男子校。  そんな音弧野高で声優部を作ろうとする流介だったが、基本的にはスポーツ以外の部活は認められていない。しかし流介は、校長に声優部発足を直談判した!  同じ一年生にしてフィギュアスケートの国民的スター・氷堂を巻き込みつつ、果たして太一と流介は声優部を作ることができるのか否か?!

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-

橋暮 梵人
青春
幼少の頃から日本サッカー界の至宝と言われ、各年代別日本代表のエースとして活躍し続けてきた片桐修人(かたぎり しゅうと)。 順風満帆だった彼の人生は高校一年の時、とある試合で大きく変わってしまう。 悪質なファウルでの大怪我によりピッチ上で輝くことが出来なくなった天才は、サッカー漬けだった日々と決別し人並みの青春を送ることに全力を注ぐようになる。 高校サッカーの強豪校から普通の私立高校に転入した片桐は、サッカーとは無縁の新しい高校生活に思いを馳せる。 しかしそんな片桐の前に、弱小女子サッカー部のキャプテン、鞍月光華(くらつき みつか)が現れる。 「どう、うちのサッカー部の監督、やってみない?」 これは高校生監督、片桐修人と弱小女子サッカー部の奮闘の記録である。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...