キツネと龍と天神様

鈍感な龍曰く

　骨董屋で幸運の金貨という商品を買った。
　男は怪しげながらも、ポケットの中で撫でる。

　必ず幸運が舞い込むと店主が断言したが、男は騙されたのではないかと訝しめていた。

　買ってから幸運な出来事を思い返してみた。
　帰宅途中に一万円札を拾う。男は近くの交番に届けた。
　通勤電車で必ず美人が隣に座る。毎回何とも言えない気持ちになるので、そっと席を立つ。
　役職が一つ空いていたので、打診された。若輩者なので、とやんわりと断った。
　晩御飯を買うために閉店間際のスーパーで、毎回半額シールの弁当が全種類揃っている。毎回小柄な女性が後ろから覗くので、そっと離れて彼女が選んでから買うことにしている。
　誰も読まないだろうというジャンルの本が、何となく入った本屋に売っていたりする。男は店員に取りおいてくれと頼んだ。
　商店街の福引の景品で、宝くじを貰った。男は当選番号を確認していない。

　男の好きなネット小説家が作家デビューして、買った本がたまたまサイン入りだった。
　うん、これは確かに幸運かもしれない、と男は呟く。