キツネと龍と天神様

霧間愁

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しみじみと天神曰く

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 浜辺に少女が独り。
 辺りは薄暗い。

 どれだけ待っているのだろう。暗闇の中、叫んでも波と夜風で自分の声は聞こえない。
 そもそも自分は叫んでいただろうか。声など出しただろうか。
 感覚が判らなくなっていく。

 少女は家から飛び出して、しばらく走った。
 きっかけは買い与えられた好みと違う服だ。違和感を感じ自分好みの服を街で見かけた時から、その家での全てが気に入らない。
 ご飯の味も、起床時間も、褒めてくれる容姿も、入浴の時間帯も、口答えできない自分も、何もかも。
 そして突然爆発した。

 食事中に飛び出してしまって、母さん父さんは怒っているだろうか。
 走ったせいで服が汚れちゃったな。

 人形が着るような服に泥が付いている。少女は自分が走った跡を振り返って見たが、波にさらわれて消えていた。
 そして少女が笑う。

 水平線からゆっくりと太陽が昇り始めた。

 少女はどうでもいいと思うくらい綺麗だと思った。
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