キツネと龍と天神様

霧間愁

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始まりの龍曰く

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 その部屋に、ギターの音色が溢れていた。
 うら若い女が1人、思いつくままに弾いている。中々に達者なようで何時間も疲れ知らずだ。

 部屋には何もない。
 フローリングは綺麗なまま。壁には防音材が丁寧に貼られている。
 未記入が入り混じった楽譜と、HBと2Bの鉛筆が転がって、消しゴム。
 女が気に入っている丈夫な座布団に、ギター立て。
 無理をしまくって買ったMartin。
 使い方のよく解っていない録音機材。


 ぐぅっと腹の虫が鳴って、女は手を止めた。ぼさぼさ髪を掻きむしって、何日使用したか判らない服の匂いを嗅いだ。
 「うぇ」と声を出して脱ぐ。とてとて歩いて、浴室でシャワー。

 まだ半渇きの髪を後ろで縛ると、着替えを探す。
 着ていないだろうと思われるTシャツを見つけ、三枚のシャツをコンビニのビニール袋に入れた。

 と、そんなことをしているうちに玄関が開き、男が入ってくる。
 背後から女の頭を掴むと、鬼の形相で怒気の孕んだ声。

「何日、飯も食わずにこもる気だ?」

 「あ」、と女は小さく声を出してから、謝罪をする。
 連れ出され夕食を食べながら説教が続くが、女は嫌ではなかった。
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