キツネと龍と天神様

霧間愁

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唄謳い龍曰く

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 どうしようもないつまらない物語だ。
 孤独な男が、ただ女に出会って恋をして、そして幸せな結末ハッピーエンド

 その男女にとっては、奇跡のような物語。客観的にすれば、路傍の石の如くなり。

 ぼんやりと男は公園のベンチに座り、独り。眺める先には、夫婦だろうか少し険悪な雰囲気。目線を移動させると、若い男女が腕を組み歩いている。また移動させると、幼い少女が分厚い本を逆さに持って、さらに幼い男の子に文字を教えている……、それを母親たちが微笑ましく見ていた。

 視点を変える。

 二本足の猫が聖書を持って、公園の真ん中噴水で演説をしてた。透明な、でもそこにいると解る存在が樹の上から空に向かって釣りをしている。箒の乗った魔女が、スマホ見ながら飛んでいく。

 男の前に女がやって来る。
「一人で見る路傍の石が、二人なら金剛石に見える物語なら、それは幸せな人生でしょ」
 女は笑顔だ。男はそちらを見ない。

 視点を変えた。
 男はゆっくりと笑った。
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