キツネと龍と天神様

意地悪な龍曰く

　男は穴の中にいた。
　深い仄暗い穴の中だった。

　見上げると、恐ろしく高い位置に穴があるのだ。
　おそらく外は夜なのだろう。差し込んでくる光はない。

　そして、これが夢の中の出来事だと気が付くのにそんなに時間はかからなかった。
　
　灯りになるものを探して自分を弄ると、ポケットの中から銀のライターが取り出せた。
　金属音を鳴らしながら蓋を開け、火を灯す。
　橙色に近い黄色、もしくは朱色に近い赤色が男の手の中で踊りだして、男の居場所を照らしだした。

　床はコンクリートで整備されていて、遮蔽物は何もない。
　行き先を決めれるような道もなかった。
　ライターを少し高く掲げてみたが、その先は暗闇しかなかった。

　男はそれでも何とか歩く方向を決めて、歩き始める。

　この穴の中は男が独りいるだけの様で、男の靴音しか聞こえてこなかった。一歩進むごとに恐怖感が増していく。
　恐怖感に押しつぶされそうになって、足を出せなくなって、男は発狂しそうになる。
　自分が壊れないように、叫んだ。



　叫びながら男が目覚めると、自分の部屋のベッドの上だった。