キツネと龍と天神様

踊るキツネ曰く

　神楽の音が鳴った。

　誰かの為に、誰かと舞い踊る。



　神楽殿の四つの柱に篝火が灯され、演奏と舞の準備が整い始めている。

　小さな焚火の前に僕、キツネは屈んでいた。
　僕の正面にはオオカミさんは目を閉じて静かに立っていた。
　お互いに言葉は発しない。
　神主が音もなく現れ、声なく僕らを誘導してくれた。

　神楽殿の床板は冷たく、吐く息は白かった。焚火から離れた身体が寒さで動かし辛くなっている。

　上手く踊れるかな。
　何千回と舞い続けてきたけれど、毎回、この時ばかりはそう思う。
　上手く踊れたらいいな。
　何万回と同じ舞を続けてきたけれど、結局、いつもそんな事を思う。

　迷いながら舞い続ける。
　そうして舞う中で、オオカミさんを意識すると段々と迷いがなくなって、ただただ踊ることが楽しくなっていく。


　舞うっていうのは、生きることは似てるのよ。と、神楽舞の先生の言葉を思い出していた。