キツネと龍と天神様

霧間愁

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冷淡な天神曰く

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 出世する男には何の後悔も先の憂いもない。
 堅実に実績を重ねて、最年少の役員も目前だ。

 そんな男には恋人がいた。

 顔立ちはあまり良いとは言えない。
 ただよく笑う。笑顔が似合う女だ。
 体型はスリムとは言えない、どちらかというと太っている。
 ただよく食べ、料理が上手い家庭的な女だ。
 背は低く、買い物するときも付き添わないと商品棚に届かない時がある。
 物を渡す時に手に触れるといつも温かさを感じれた。
 仕事の愚痴をきかされるが、あまり要領がいいとは言えない。男が察するに六回に一度はミスをしている、そんな気さえする。
 いつも誰かの為に動いて頑張る姿を素敵だなと男は思っていた。

 そんな恋人を前に、男は緊張していた。
 利き手側のポッケに指輪の入った小さな箱。

 社長を前にしたプレゼンすら緊張すらしなかったが、今は額に汗をかき、肩にはいった力が抜けない。呼吸は浅く、手は冷たい。
 そんな男の様子に、恋人はすぐに気が付いて心配した。

 男は、意を決して口をひらく。
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