キツネと龍と天神様

霧間愁

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休日設定をするキツネ曰く

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「──、ボクはね、何もなしえなかったんだ」
 僕、キツネにその人は寂しそうに言った。
「何かに成りたかった訳じゃないけど、ただ、誰かの為にと思っていただけなんだよ」
 これは夢だ。解っているのに嬉しさと悲しい気持ちが溢れてくる。
 嫌だなぁ、あの人の姿を思い出せるから温かい気持ちになるけど、目が覚めると寂しくて少し悲しい気持ちになるんだろうな。
「きっと誰かの可能性を刈り取り過ぎた報いなのだ」
 辛そうに言うその人を僕は慰められなかった。高天原に迎えられ逝く時に、僕はちゃんと笑えていたかな。

「──、今までありがとう。ちゃんと生きてね」

 目が覚めると、やっぱり泣いていた。洗面台に向かうと、鏡に少しだけ少年よりの顔が見える。
 ぼさぼさの髪が濡れないように置いてあるお気に入りの髪留めをつけた。

 龍爺には記憶を消さないとお願いして、天神様には抗議しに行って知り合ったんだよね。

 しみじみと思いながら顔を洗うと、人化の術がきれかかっていて頭の上に耳が出ていた。
 今日は、お休みにしよう。
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