キツネと龍と天神様

霧間愁

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満足そうな天神曰く

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 昔に私が住んでいたところに、一匹の猫がいた。
 化け猫でもなく、ただの猫。

 頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細める。
 気まぐれに猫に、とあることを問うてみると、小さく首を振った。
「天神様、それは叶わないことでしょう」
 永遠に生きてみたいとは思わないのか?
「それは過ぎた願いでございます」
 過ぎたこと?
「死してそこに至りたいと思うのではなく、生きたまましがみ付くのでなく、あるがままに“この生”を受け入れゐだけでございます」
 難しいことを言うね、猫。
「申し訳ありません。七度生まれ変わって、せいぜい百年よりも足りない年月、世界を巡り、本を読み漁りましたが、所詮は猫です。出来ることも限られています」
 猫以外に生まれ変わりたいとは思わないの?
「思いませんね、海月も子守熊も憧れました時もありましたが、きっと性に合わないと思います」
 じゃあ、今度も猫なのね?
「次があると思っていては、今を楽しめませんし必死にもなりません。今回は猫だったという事です」

 猫はまた猫になるだろう。
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