この白魔術師は癖が強い

奥村 葵

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第三章 異世界の飛竜編

第27話 クラリス・モカ

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「テーナとソプラは、冒険者として最上位の存在と言っても差し支えない。ランクも、MPも。その二人が魔術師としてエアリーの事を異常として見ている理由、わかってくれたか」
「……わかりました。やっぱりあいつ、いろいろ規格外なんですね」
「俺たち剣士も、MPを消費して戦うことがある。保有MPも、二人と同じ限界値まで伸ばしている。だからこそ断言できる。これを超える保有量はあり得ないと」

 あり得ないって言われてますよエアリーさん。あんた本当何者なんだよ……。もはやバグか何かで生まれた存在になってないか?

「…………よっしゃ、こんなもんかな」

 話している間に、エアリーは新しい魔術を組み終えたらしい。
 一旦アールさんとの話を切り上げ、彼女の新たな魔術を見ることにした。

「ほなクラリスちゃん、準備はええか?」

 低い声が胸にまで響いた。クラリスは楽しみにしているのか、どこかそわそわしている様子だ。

「ええみたいやな。ほい」

 そうしてエアリーが杖をクラリスの方へ向けると、明るく輝く粒子がクラリスの周りに渦となって囲い、やがて飛竜の巨大な姿が一切目視できなくなるほどに覆い尽くした。

「エアリー、これはどういう魔術?」
「せやなぁ……。クラリスちゃんは人になりたい訳や」
「うん」
「てことは、想像する自分の人間体ってのがある訳やろ?」
「んー、うん?」
「せやから飛竜体を再構築して人間体に――」
「待て待て待て待て、再構築云々はもういいって!みんな限界なんだよ色々と!」

 まーたこの人は分解して再構築してるわけか!?というか植物以外にも使えるもんなの!?

「ん、いや待て!お前その理屈だとクラリス死ぬんじゃないのか!?分解してんだろ!?」
「いや?」
「なんで!?」
「魂を一旦どかして肉体だけを構成してから魂をボーンと突っ込むんや。だけにBornってな。ははっ、おもろ」

 もはや何も言うまい。わからない、わからないよ。えげつない魔術を使いながらえげつない駄洒落を言わないでくれ。

「カ、カヅキくん。エアリーさんの異常さ、わかってくれたかな」
「はい、もう十二分に。こいつなんなんですか」
「彼女は昔、“神童”と呼ばれていました。これ程まで成長するとは誰も思っていませんでしたけど」

 神童ときたか……。確かにそれは、比喩でも誇張でもない。実際そうだったんだろう。
 ただ、この次元にいながらまだまだ勉強するつもりらしいから、数年後には新しい宇宙とか作ってんじゃないかな……。

「お、そろそろ終わるな」
「……みんな、一応、一応集まれ。万が一がある」
「わ、わかりました。即時魔術を準備しておきます」

 飛竜を囲う輝く粒子。それらが少しずつ中心へと向かい、同時に量を減らしていく。
 そして大人一人分かそれぐらいの大きさにまで収まった頃、突然それは弾けるように飛びながら消滅した。

「うわっはー!やったぁー!」

 高らかに叫ぶ幼い声が聞こえた。声の主は飛竜のいた場所に立っていた。
 子供より少し成長したかのような体格の女の子だった。年はエアリーよりも若く見える。間違いなく十代前半と言えるような幼さだ。
 
 え?こんな可愛らしい子が飛竜?マジで?

「エアリー、ありがとう!すっっっっごい動きやすいよこの体!あっはー夢みたい!楽しいなぁこれ!」
「あはは!そら良かったわ」
「クラリスって名前も、すごく嬉しい!」
「せやろ?でも単体だけやと味気ないな……。“クラリス・モカ”でどうや?」
「ほひょー!すごく良い!良いよ!最高!クラリス・モカ、クラリス・モカ!」

 クラリスは相当嬉しいのだろう。何故か既に甲殻のような少しゴツい装備を身に纏っているのが少し気になるが……。体格とのギャップで見ていて少し面白いけど。

「にしてもクラリス、あんたえらい若いな。そういう趣味か?」
「え?いや、飛竜としては私、これぐらいの年だよ。一生のうちの一割ぐらいしかまだ生きてないから」
「数千年が人間の十年ちょっとってこと!?」

 しまった、癖でまた突っ込んでしまった……。
 もうエアリーと関わり始めてからこんなのばっかりだ。俺はエアリー専属のツッコミ役になったのか?なったんだな?そうだな?うん、もうそういうことにしよう。
 
「ん?エアリー、この人間は?」
「石村夏月っちゅうてな、私が呼んだ別世界の人間や。仲良うしたってくれ」
「いいよー!イシムラカヅキ……。カヅキ!」
「はい!?」
「よろしく!」
「あー……。うん、よろしくね、クラリス」

 クラリスは、ニカッと、真っ直ぐな笑みをこちらに向けてくれた。眩しい、輝かしい。こんなに無垢な笑顔を見たのは久しぶりだ。
 ただ、自分が二十歳を過ぎて、少しずつ大人へとなっていく事実を突きつけられたようで少し心が辛い。

「ねえねえ、カヅキ」
「なんだ?」
「お前、エアリーとどういう関係?」
「ん?ツッコミ役」
「なんやねんそれ、私がボケすぎって言いたいんか?」
「そうだが?」
「お前覚えとけよほんま」

 同じセリフを二度聞くとは思わなかったが、多分なんだかんだでお互い忘れないような気がするなぁ……。
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