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第二章 異世界訪問
第9話 ようこそ異世界へ
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異世界へ行くにあたり、言葉を理解する魔術、“翻訳魔術”をかけてもらった。
靴や服、効果があるか分からない虫除けスプレー、その他諸々必要になりそうな道具を用意した。
使えない、意味がないだろうということで、財布などの貴重品は置いていくことにしたが、それなりに記録は残したい為、紙とペン、スマートフォンなどは持ち込むことにした。
その支度を横目で見ていたエアリーは、こちらの準備が整ったと分かったのか、部屋の真ん中でゆっくり立ち上がって壁を正面にして立ち、その杖を水平にした。
すると、目の前の空間とでも言えばいいのか、本来何も無いはずの場所に亀裂が生まれ、それが徐々に広がり、やがて人が一人入れる程の大きさになった頃、その拡大は止まった。
ただ、その奥は混沌としていると言えばいいのか、とにかく黒い何かが妖しく光りながら渦巻いている。
「懐かしいなぁ、ほな行こか」
「だ、だ、大丈夫、だよな?」
「大丈夫大丈夫、私が先行っとくから、後から着いて来ぃ」
「お、おう……」
「そぉい!」
そう言ってエアリーは、なんの躊躇も無くその時空の裂け目へと勢いよく飛び込んでいった。
きっとこんな調子でこっちに来たのだろう……。怖くなかったのだろうか。
「……ええい、なるようになれ……!」
意を決し、裂け目の中へと飛び込んだ。
◆◆◆
「うおあっ!」
勢いよく飛び込みはしたが、どうやら少し空中から飛び出していたらしく、着地に失敗してしまった。
ゴロゴロと地面を転がるが、背負っていたリュックがブレーキとなってくれたおかげで、すぐに止まってくれた。
「いったたた……。うっ、ここが異世界……?」
土に塗れた体をゆっくりと起こして、目の前の風景をまずは確認する。
時刻は夜、それで間違いない。時間の流れはこちらと同じなのだろうか……。
目の前に鬱蒼と生えている木々はいつもと大差ない。草も花も、いつも通りといえばいつも通りに見える。
鳥や獣は既に寝静まっているらしく、囀りも足音も、何も聞こえない。それがかえって不気味さに拍車をかけていた。
しかしそれ以上の不気味さ――居心地の悪さが何故かあった。
というのも、何か分からないが、とにかく違和感が凄まじかった。一息吸うごとにその違和感は増していく。
空気が悪いのかと思ったが、味は普通。むしろ排気ガス等の汚染物質が無いのか、透き通ってさえいた。
それでも、何かがある。それが分からない。
「……気持ち悪い、なんだこれ」
「それが魔粒子や」
その声の方向に顔を向けると、顔中傷だらけで血も流れているエアリーの姿があった。
「エ、エアリー!その傷は!?ま、まさか魔物にやられたのか?」
確か、魔物がいたらなんとかする、みたいな流れだった。まさか既に魔物がいて、襲われてしまったんじゃないか!?
「転けた」
「なんっだよもう!俺の心配を返せ!」
さっきから感じる違和感も相まって、本気でそう思ったじゃないか!
まあ、深刻な怪我じゃないらしいからそれは良かったけどさ……。
「あはは!そういうあんたも腕怪我しとるやんけ」
そんな訳……。と思って右腕を見ると、確かに切り傷があった。転んだ時にやってしまったのだろうか。こんなことなら長袖を着ておくべきだったな……。
「後で治したるわ」
「あ、ありがとう……」
「うん。で?どうや。初めての魔粒子吸収は」
「え?あ、あぁ……。この違和感の事か」
「まー多分そうやろな。なんやこう、体に染み込んでくるような変な感じって言えばわかるか?私らは慣れてるからなーんも違和感ないけど」
言われてみれば確かにこう、得体の知れない何かが体に染み込んでくる……ような気がする。やはり慣れない。来て間もないってことも勿論あるだろうが……。
「魔粒子は本人の意思に関わらず体内に吸収されていく。その上限に個人差はあるけど、努力次第でなんぼでも増やせる。そしてそれを自らの意思で反応させて体外に放出……。これが魔術の基本や」
「…………あれ?その説明、正しいよな?」
「当たり前やん。これでも教える側やってんで」
「あの、その説明だとさ、魔粒子を吸収した俺も魔術が使えるってことにならないか?」
「そうや?」
「そうなの!?」
「魔法使いデビューやん。おめでと」
呆気なさすぎる。嘘だろ?え?こんな、こんな簡単に?
「まあ勿論誰でもなれるって訳やない。吸収出来たとしても、扱いの腕にはどうしても差あるからな。どう頑張ってもそればっかりは変わらへん。簡単な魔術なら誰でも出来るけど、回復とかはやっぱ、それなりに腕ないと発動すらできんからな」
「じゃあ、俺も簡単なものなら出来るかもしれないってことか……」
「そういうことや。まあここにおってもしゃあない、一旦帰ろか、私の家に」
そう言ってエアリーはこちらの腕を掴み、ゆっくりと歩き出した。
◆◆◆
しばらく森を歩いたが、幸いにも魔物の類に出会う事はなかった。
日も暮れ、月も昇っている。月明かりが、目の前の獣道のような舗装されていない道を、ほんのりと照らしてくれていた。
道すがら、お互いがこちらにやってきた際の負傷をエアリーが撫でるような手つきで治療してくれた。瘡蓋とか、そういった痕跡はやはり全く残っていない。こうしてみると、やはり優秀な白魔術師なんだよな……。
「あー懐かしい。あれや、私の家」
そう言われて前をよく見ると、木々の隙間から、人工物のようなものが目に入った。
更に近づいていくと、それは木造の家だった。あまりにも平凡、普遍的な造りで、目立った装飾もなければ特徴もない。王国一の白魔術師が暮らしているものとはとても思えないものだった。
「ただいまー」
エアリーはそのまま流れるようにその家の玄関を開け、中へと入った。
「あんたも入り」
「ああ……。お邪魔します……」
電気のない玄関へと足を踏み入れる。だが、その廊下には埃が積もっていて、一歩踏み込むごとにふわりと舞い上がってしまっていた。
「あー、ちょい待ち。掃除するわ」
「え、今から?」
「今やらなしゃあないやろ。ほい」
玄関の中だというのに、エアリーは杖を勢いよく横にブンと振った。途端に舞っていた埃たちが、彼女の目の前に集まりだす。
しかも、玄関だけじゃなく、その奥の廊下や部屋、天井など、ありとあらゆる場所から飛んでくる。中には埃じゃない、明らかなゴミなども混ざっていた。
「ちょっとどいて、外出るわ」
「おっととと、はい」
丁度自分が玄関の真ん中に立っていた事もあり、二歩、三歩と下がって彼女の導線を確保した。
外に出た彼女は、目の前に浮かぶ埃やゴミの塊である球体を維持したまま、右手を思い切り前へと突き出した。
「オラァ!」
その掛け声と共に、その塊は激しい閃光と共に爆発、消滅した。
「ふう、掃除おーわり」
「えー、便利ー」
「ミスったらこの辺一体焼け野原なるからお勧めしやんけどな」
「お前の魔術ってミスった時怖くないか!?」
「ま、そんなもんや」
そんなもんなのかなぁ……。そう思いながら再び玄関の中へと入っていった。
さっきは少ししか入れていなかったから気づかなかったが、すごく暗い。光源がないからだ。
しかし、エアリーがすぐに魔術か何かを使ったのか、部屋の中がゆっくりと明るくなっていった。
よく見ると、天井から吊り下がっていたランタンのような物から光が出ているらしい。しかし、中身は蝋燭ではないだろう。
「どうや、明るくなったやろ」
「それ狙って言ってる?」
こっちの世界じゃちょっと有名な台詞、それを関西弁風にしたようにしか聞こえなかった。
「なんのことや……。とにかく靴脱いで入り」
とりあえず靴を脱いで、目の前にあったスリッパに履き替えるが、この辺の靴を脱ぐ文化が日本と同じなのは少し馴染みやすかった。
靴や服、効果があるか分からない虫除けスプレー、その他諸々必要になりそうな道具を用意した。
使えない、意味がないだろうということで、財布などの貴重品は置いていくことにしたが、それなりに記録は残したい為、紙とペン、スマートフォンなどは持ち込むことにした。
その支度を横目で見ていたエアリーは、こちらの準備が整ったと分かったのか、部屋の真ん中でゆっくり立ち上がって壁を正面にして立ち、その杖を水平にした。
すると、目の前の空間とでも言えばいいのか、本来何も無いはずの場所に亀裂が生まれ、それが徐々に広がり、やがて人が一人入れる程の大きさになった頃、その拡大は止まった。
ただ、その奥は混沌としていると言えばいいのか、とにかく黒い何かが妖しく光りながら渦巻いている。
「懐かしいなぁ、ほな行こか」
「だ、だ、大丈夫、だよな?」
「大丈夫大丈夫、私が先行っとくから、後から着いて来ぃ」
「お、おう……」
「そぉい!」
そう言ってエアリーは、なんの躊躇も無くその時空の裂け目へと勢いよく飛び込んでいった。
きっとこんな調子でこっちに来たのだろう……。怖くなかったのだろうか。
「……ええい、なるようになれ……!」
意を決し、裂け目の中へと飛び込んだ。
◆◆◆
「うおあっ!」
勢いよく飛び込みはしたが、どうやら少し空中から飛び出していたらしく、着地に失敗してしまった。
ゴロゴロと地面を転がるが、背負っていたリュックがブレーキとなってくれたおかげで、すぐに止まってくれた。
「いったたた……。うっ、ここが異世界……?」
土に塗れた体をゆっくりと起こして、目の前の風景をまずは確認する。
時刻は夜、それで間違いない。時間の流れはこちらと同じなのだろうか……。
目の前に鬱蒼と生えている木々はいつもと大差ない。草も花も、いつも通りといえばいつも通りに見える。
鳥や獣は既に寝静まっているらしく、囀りも足音も、何も聞こえない。それがかえって不気味さに拍車をかけていた。
しかしそれ以上の不気味さ――居心地の悪さが何故かあった。
というのも、何か分からないが、とにかく違和感が凄まじかった。一息吸うごとにその違和感は増していく。
空気が悪いのかと思ったが、味は普通。むしろ排気ガス等の汚染物質が無いのか、透き通ってさえいた。
それでも、何かがある。それが分からない。
「……気持ち悪い、なんだこれ」
「それが魔粒子や」
その声の方向に顔を向けると、顔中傷だらけで血も流れているエアリーの姿があった。
「エ、エアリー!その傷は!?ま、まさか魔物にやられたのか?」
確か、魔物がいたらなんとかする、みたいな流れだった。まさか既に魔物がいて、襲われてしまったんじゃないか!?
「転けた」
「なんっだよもう!俺の心配を返せ!」
さっきから感じる違和感も相まって、本気でそう思ったじゃないか!
まあ、深刻な怪我じゃないらしいからそれは良かったけどさ……。
「あはは!そういうあんたも腕怪我しとるやんけ」
そんな訳……。と思って右腕を見ると、確かに切り傷があった。転んだ時にやってしまったのだろうか。こんなことなら長袖を着ておくべきだったな……。
「後で治したるわ」
「あ、ありがとう……」
「うん。で?どうや。初めての魔粒子吸収は」
「え?あ、あぁ……。この違和感の事か」
「まー多分そうやろな。なんやこう、体に染み込んでくるような変な感じって言えばわかるか?私らは慣れてるからなーんも違和感ないけど」
言われてみれば確かにこう、得体の知れない何かが体に染み込んでくる……ような気がする。やはり慣れない。来て間もないってことも勿論あるだろうが……。
「魔粒子は本人の意思に関わらず体内に吸収されていく。その上限に個人差はあるけど、努力次第でなんぼでも増やせる。そしてそれを自らの意思で反応させて体外に放出……。これが魔術の基本や」
「…………あれ?その説明、正しいよな?」
「当たり前やん。これでも教える側やってんで」
「あの、その説明だとさ、魔粒子を吸収した俺も魔術が使えるってことにならないか?」
「そうや?」
「そうなの!?」
「魔法使いデビューやん。おめでと」
呆気なさすぎる。嘘だろ?え?こんな、こんな簡単に?
「まあ勿論誰でもなれるって訳やない。吸収出来たとしても、扱いの腕にはどうしても差あるからな。どう頑張ってもそればっかりは変わらへん。簡単な魔術なら誰でも出来るけど、回復とかはやっぱ、それなりに腕ないと発動すらできんからな」
「じゃあ、俺も簡単なものなら出来るかもしれないってことか……」
「そういうことや。まあここにおってもしゃあない、一旦帰ろか、私の家に」
そう言ってエアリーはこちらの腕を掴み、ゆっくりと歩き出した。
◆◆◆
しばらく森を歩いたが、幸いにも魔物の類に出会う事はなかった。
日も暮れ、月も昇っている。月明かりが、目の前の獣道のような舗装されていない道を、ほんのりと照らしてくれていた。
道すがら、お互いがこちらにやってきた際の負傷をエアリーが撫でるような手つきで治療してくれた。瘡蓋とか、そういった痕跡はやはり全く残っていない。こうしてみると、やはり優秀な白魔術師なんだよな……。
「あー懐かしい。あれや、私の家」
そう言われて前をよく見ると、木々の隙間から、人工物のようなものが目に入った。
更に近づいていくと、それは木造の家だった。あまりにも平凡、普遍的な造りで、目立った装飾もなければ特徴もない。王国一の白魔術師が暮らしているものとはとても思えないものだった。
「ただいまー」
エアリーはそのまま流れるようにその家の玄関を開け、中へと入った。
「あんたも入り」
「ああ……。お邪魔します……」
電気のない玄関へと足を踏み入れる。だが、その廊下には埃が積もっていて、一歩踏み込むごとにふわりと舞い上がってしまっていた。
「あー、ちょい待ち。掃除するわ」
「え、今から?」
「今やらなしゃあないやろ。ほい」
玄関の中だというのに、エアリーは杖を勢いよく横にブンと振った。途端に舞っていた埃たちが、彼女の目の前に集まりだす。
しかも、玄関だけじゃなく、その奥の廊下や部屋、天井など、ありとあらゆる場所から飛んでくる。中には埃じゃない、明らかなゴミなども混ざっていた。
「ちょっとどいて、外出るわ」
「おっととと、はい」
丁度自分が玄関の真ん中に立っていた事もあり、二歩、三歩と下がって彼女の導線を確保した。
外に出た彼女は、目の前に浮かぶ埃やゴミの塊である球体を維持したまま、右手を思い切り前へと突き出した。
「オラァ!」
その掛け声と共に、その塊は激しい閃光と共に爆発、消滅した。
「ふう、掃除おーわり」
「えー、便利ー」
「ミスったらこの辺一体焼け野原なるからお勧めしやんけどな」
「お前の魔術ってミスった時怖くないか!?」
「ま、そんなもんや」
そんなもんなのかなぁ……。そう思いながら再び玄関の中へと入っていった。
さっきは少ししか入れていなかったから気づかなかったが、すごく暗い。光源がないからだ。
しかし、エアリーがすぐに魔術か何かを使ったのか、部屋の中がゆっくりと明るくなっていった。
よく見ると、天井から吊り下がっていたランタンのような物から光が出ているらしい。しかし、中身は蝋燭ではないだろう。
「どうや、明るくなったやろ」
「それ狙って言ってる?」
こっちの世界じゃちょっと有名な台詞、それを関西弁風にしたようにしか聞こえなかった。
「なんのことや……。とにかく靴脱いで入り」
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