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襲いかかる悪意

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1988年2月23日未明、名古屋市緑区にある大高緑地公園の公園入口ロータリーに小島の運転するグロリアと近藤の運転するクラウンが到着。
車を降りた6人は獲物となるカップルを探索するために暗闇の公園内に入ってゆく。
公園の第一駐車場は平日とあってがらんとしていたが、一台の白い車が停まっているのが確認できた。

トヨタ・チェイサーだ。

まずは近藤が夜陰に紛れて偵察に向かうとチェイサーにはエンジンがかかっており、中にカップルとみられる男女が乗っているのを視認する。

「よっしゃ、よっしゃ!おったぞ!おったぞ!あそこのチェイサーに乗っとる奴だで」

小島たちが潜む所に戻って来た近藤は喜色満面で報告した。

「こんなド平日のこんな時間までいちゃついとる奴はお仕置きせなかんて!ほんならやったろか!」

もうすでに三回目なので手慣れたもので、6人は手はずどおり車のナンバーに段ボールを貼り付けたりの準備を手際よく行い、トランクから木刀などの得物を取り出して車に乗り込む。

野獣たちにロックオンされたチェイサーの中にいたのは野村昭善(19歳)と末松須弥代(20歳)。
二人とも愛知県大府市内にある同じ理容店で働く理容師カップルである。

昭善は床屋を営む家庭の出身で、中学を卒業してから理容師の世界にいたからすでにいっぱしの理容師、将来は実家の店を継ぐつもりであり、父のために備品を自分の給料を出して購入するなど孝行息子でもあった。

一方の須弥代は定時制高校を卒業後に理容師を志していたからまだ見習いであり、同い年ながらすでにいっぱしの理容師として働いていたから昭善は輝いて見え(昭善は早生まれで須弥代と学年は同じだったようだ)、なおかつ彼のさわやかで人に好かれやすいキャラにも魅かれたのだろう、自然と好意を持って同じ店で働く同僚以上の関係になって交際するようになって久しい。
須弥代も親思いで、両親のために貯金をする孝行娘である。

そんな彼らは将来昭善の実家の店を二人で支えようと共に理容師修行に励んでいたのだから滅多にいないほど健全なカップルであろう。
両家の親たちも反対する理由がなく、その交際は双方から歓迎されていたほどだ。

この前の日、須弥代は父親のチェイサーを借りて昭善を拾ったようだが、ハンドルは彼氏である昭善が握っている。
なお、須弥代は店の仕事が終わった後で同僚には今晩は昭善とデートに行くと告げていたものの父親にはなぜか「女友達の所に行く」と言っていたが、これは後ろめたいからではなく照れ隠しだったのだろうか?
その事情は間もなく永遠に確かめることができなくなる。

それは小島と近藤が運転する車が駐車場に入って近づいてきたと思ったらチェイサーの後方左右に停車したことから始まった。
動きを封じられた後、特攻隊長気取りの徳丸が木刀片手に車を降りて「オラァ出てこいや!!」とこちらに向かって雄叫びを上げたため、昭善と須弥代の二人だけの甘い世界は破られる。

二人とも異変に気付くのが遅すぎた。
ずっと自分たちの世界に浸っていたのもあるが、後ろ向きに駐車していたので後方から向かってくる二台がおかしな動きをしているのが分からなかったのである。
駐車場に他の車が入って来たのには気づいていただろうが、いきなり自分たちの車の所に向かってきて後ろ左右に停まり、中から暴走族風の若者たちが鉄パイプや木刀片手に怒声を上げて降りてきて一気に至福の静寂から奈落の底に落とされた。

どう考えてもこちらに危害を加える気満々の者たちに囲まれ、二人がびっくり仰天したのは言うまでもない。
この時運転席にいた昭善は慌てて逃走を図ろうとチェイサーをバックさせた。
だが、パニックになるあまり昭善はより最悪の結果を招く事態を引き起こしてしまう。

この車は須弥代の父親の車で乗り慣れていない上に、後方は逃げられないように小島と近藤の車が停まっているのである。
昭善のチェイサーは車体を襲撃者の乗って来た車二台にぶつけてしまったのだ。

「オレの車にナニしてくれとるんだ!!コラアァァー!!!!」

外からは不良の怒りの咆哮が響き、木刀や鉄パイプで車体がより強く叩かれ、ガラスにひびが入る。
その大きな声と音、予想される今後を前に二人の心臓は凍り付いた。
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