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Grow
かえらないで
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はじめに少し展開の補足させていただきます。
このお話は新感覚獣人ファンタジーと銘打っております通り、架空のファンタジーです。でもけっして獣としての尊厳を汚すつもりではありません。本日そのように誤解を招くシーンがありますが、物語の展開上深い意味があって一時的なことなのです。どうかご理解いただければと思います。
私なりのストーリー展開を見守っていただけたらと思います。
最後まで気持ちよく書かかせていただきたいです。お話が合わない、納得できないと思われた方は、どうか読むのをやめることで、ご対応くださいませ。
****
「もう帰ってしまうの? もう少しここにいたらいいのに……」
「いや、西の森狼の国に仲間が待っているから、早く戻らないと」
わっなんだ……? 兄さんたちの声がより鮮明に聞こえてきた。もしかして俺の母乳を飲んだせいかのか。
「そうか……お前たちも群れで行動しているんだな。他にはロウの兄弟はいないのか」
「いない。両親の兄弟の子供らばかりだ」
狼は群れで行動する。
「あ……じゃあお前たちには奥さんがいるのか」
「いや、番もいない」
確か狼って……雌雄の番を中心とした2~15頭ほどの社会的な群れを形成て、生活しているはずだ。そして群れの中で番が常に最上位のひと組で、子を産むと聞いていたが、両親とロウがいなくなり形成バランスが崩れてしまったのか。
やはり名残惜しさが募ってしまう。まだ傷も癒えたばかりなので、本当は一晩休んで欲しかった。
せっかくロウと再会できたのに……トイだって……
「でも……せっかくトイも懐いたのに」
半獣の息子……トイは、狼の血を受け継いでいるだけあって、すっかりロウの兄たちに懐いていた。さっきから弟狼の背中に乗せてもらったり、耳を甘噛みしてもらったりしては、嬉しそうに「キャッキャッ」と可愛い歓声を上げている。
たった数時間しか一緒にいられないなんて、少し寂しいよ。
「そうだ、せめて……帰る前に、食事はどうだ?」
「……俺たちは獲物しか食べない」
「でも、試しに俺たちの食事を」
俺は狼の前に母さんに習ったばかりのジャガイモの裏ごしスープを置いてやった。狼が肉食なのは知っているが、ロウの兄弟なら……もしかして。
「兄さん、だが美味しそうだよ」
「まったく……リウは食い意地が張っているな。じゃあ食べてみるか」
「そうこなくっちゃ!」
狼の長い舌でペロペロとスープを舐めると、興奮したようにブルルッと震えた。
「うっ旨い! なんだこれは!」
「だろう? きっとお前たちの味覚にも合うと思ったよ」
「兄さん、こんな美味いもの食べたことないぞ。どんな獣の肉よりも美味しいなんて信じられない。何が起こったんだ?」
狼が不思議そうに顔を見合わせていた。そこでピンときた。ロウも俺の乳を吸ってから、もう狩りをしなくなった。
「あ……もしかして」
「なんだ?」
「お兄さんたちも……体質が変わったのかも」
「そんなバカな」
「その、俺の母乳を飲んだから、人間の食事でも生きていけるようになったのかも」
「はぁ? 何を言ってるんだか。俺たちは獰猛な狼だ! 狼は肉食で鹿や猪……山羊などを狩って生きて来たんだ!」
スウが突然岩穴を飛び出し、すごい勢いで地面へと駆け下りていった。そして土の中に顔を突っ込み、何かを掴まえて舞い戻ってきた。
口には……まだ生きたままの鼠を加えていた。逃げようとチュウチュウと藻掻いている。
「わっ、よせっ! ここで殺すな」
「見てろ。こんな風にいつも食べるんだ!」
残酷なシーンが待っていそうで、慌ててトイの目を手で塞ぎ、抱きしめ、俺もギュッと目を瞑った。ロウがそんな俺らを抱きしめてくれる。
「トカプチっ大丈夫か」
「兄さんよしてくれ! この家で殺生は!」
暫く身体を固くして、ロウの胸元にくっついていたが、何も起きなかった。
不思議に思い、恐る恐る目を開ける……
「ウゥゥ……何でだ?」
兄狼の口から零れ落ちた鼠はまだ生きており、チュウチュウと慌てた様子で外に逃げて行った。
良かった。食べられなくて……
「兄さん……どうして?」
「何故か食べたくなかった。まずそうだった。さっきのジャガイモのスープの方がはるかに美味しそうだった」
「俺もそう思ったよ!」
狼たちにお代わりのスープを置いてやると、すごい勢いで飲み干した。
俺たちの間で……何かが変わっていく音がする。
これはまさか……何かの希望に繋がるのか。
「狼と人間と半獣の共存……そんな夢みたいな話が現実になるのか」
思わず口に出してしまうと、ロウにいつになく厳しい声で諭された。
「それは違う! 獣の世界をそんな簡単に変えてはいけない!」
「あっごめん。そんなつもりじゃ、でもじゃあなんで……」
「トカプチよく聞けよ。兄さんたちは本当はピューマに襲われた時点で、自然の摂理で死ぬのが運命だった。あのままあそこで他の動物の餌食になって、生命を他に繋ぐはずだった。だが、お前の乳のお陰で命を繋いでしまった。今、兄さんの躰に起きている変化は、喜ばしい事なのか分からない。兄さんたちは生きているようで、既に亡霊になってしまったのかと、不安にもなる。だがそれには何か深い意味があるのだろう。きっとすべて後になり分かるだろう」
本当にそうだ。俺はとんでもないことをしてしまったのか。
それともロウの言う通り……何か深い意味があるのだろうか。
グルル……グゥ。
兄狼たちの顔色が変わる。
「ロウの言う通りだ。今の俺たちは獣ではない……むっ、不吉な匂いがする。予感がする! 西の森に残して来た群れが心配だ!リウ、行くぞ!」
「あぁ兄さん!」
狼たちは岩穴を飛び出て……すごい勢いで走り去って行った。
一抹の不安を残して──
このお話は新感覚獣人ファンタジーと銘打っております通り、架空のファンタジーです。でもけっして獣としての尊厳を汚すつもりではありません。本日そのように誤解を招くシーンがありますが、物語の展開上深い意味があって一時的なことなのです。どうかご理解いただければと思います。
私なりのストーリー展開を見守っていただけたらと思います。
最後まで気持ちよく書かかせていただきたいです。お話が合わない、納得できないと思われた方は、どうか読むのをやめることで、ご対応くださいませ。
****
「もう帰ってしまうの? もう少しここにいたらいいのに……」
「いや、西の森狼の国に仲間が待っているから、早く戻らないと」
わっなんだ……? 兄さんたちの声がより鮮明に聞こえてきた。もしかして俺の母乳を飲んだせいかのか。
「そうか……お前たちも群れで行動しているんだな。他にはロウの兄弟はいないのか」
「いない。両親の兄弟の子供らばかりだ」
狼は群れで行動する。
「あ……じゃあお前たちには奥さんがいるのか」
「いや、番もいない」
確か狼って……雌雄の番を中心とした2~15頭ほどの社会的な群れを形成て、生活しているはずだ。そして群れの中で番が常に最上位のひと組で、子を産むと聞いていたが、両親とロウがいなくなり形成バランスが崩れてしまったのか。
やはり名残惜しさが募ってしまう。まだ傷も癒えたばかりなので、本当は一晩休んで欲しかった。
せっかくロウと再会できたのに……トイだって……
「でも……せっかくトイも懐いたのに」
半獣の息子……トイは、狼の血を受け継いでいるだけあって、すっかりロウの兄たちに懐いていた。さっきから弟狼の背中に乗せてもらったり、耳を甘噛みしてもらったりしては、嬉しそうに「キャッキャッ」と可愛い歓声を上げている。
たった数時間しか一緒にいられないなんて、少し寂しいよ。
「そうだ、せめて……帰る前に、食事はどうだ?」
「……俺たちは獲物しか食べない」
「でも、試しに俺たちの食事を」
俺は狼の前に母さんに習ったばかりのジャガイモの裏ごしスープを置いてやった。狼が肉食なのは知っているが、ロウの兄弟なら……もしかして。
「兄さん、だが美味しそうだよ」
「まったく……リウは食い意地が張っているな。じゃあ食べてみるか」
「そうこなくっちゃ!」
狼の長い舌でペロペロとスープを舐めると、興奮したようにブルルッと震えた。
「うっ旨い! なんだこれは!」
「だろう? きっとお前たちの味覚にも合うと思ったよ」
「兄さん、こんな美味いもの食べたことないぞ。どんな獣の肉よりも美味しいなんて信じられない。何が起こったんだ?」
狼が不思議そうに顔を見合わせていた。そこでピンときた。ロウも俺の乳を吸ってから、もう狩りをしなくなった。
「あ……もしかして」
「なんだ?」
「お兄さんたちも……体質が変わったのかも」
「そんなバカな」
「その、俺の母乳を飲んだから、人間の食事でも生きていけるようになったのかも」
「はぁ? 何を言ってるんだか。俺たちは獰猛な狼だ! 狼は肉食で鹿や猪……山羊などを狩って生きて来たんだ!」
スウが突然岩穴を飛び出し、すごい勢いで地面へと駆け下りていった。そして土の中に顔を突っ込み、何かを掴まえて舞い戻ってきた。
口には……まだ生きたままの鼠を加えていた。逃げようとチュウチュウと藻掻いている。
「わっ、よせっ! ここで殺すな」
「見てろ。こんな風にいつも食べるんだ!」
残酷なシーンが待っていそうで、慌ててトイの目を手で塞ぎ、抱きしめ、俺もギュッと目を瞑った。ロウがそんな俺らを抱きしめてくれる。
「トカプチっ大丈夫か」
「兄さんよしてくれ! この家で殺生は!」
暫く身体を固くして、ロウの胸元にくっついていたが、何も起きなかった。
不思議に思い、恐る恐る目を開ける……
「ウゥゥ……何でだ?」
兄狼の口から零れ落ちた鼠はまだ生きており、チュウチュウと慌てた様子で外に逃げて行った。
良かった。食べられなくて……
「兄さん……どうして?」
「何故か食べたくなかった。まずそうだった。さっきのジャガイモのスープの方がはるかに美味しそうだった」
「俺もそう思ったよ!」
狼たちにお代わりのスープを置いてやると、すごい勢いで飲み干した。
俺たちの間で……何かが変わっていく音がする。
これはまさか……何かの希望に繋がるのか。
「狼と人間と半獣の共存……そんな夢みたいな話が現実になるのか」
思わず口に出してしまうと、ロウにいつになく厳しい声で諭された。
「それは違う! 獣の世界をそんな簡単に変えてはいけない!」
「あっごめん。そんなつもりじゃ、でもじゃあなんで……」
「トカプチよく聞けよ。兄さんたちは本当はピューマに襲われた時点で、自然の摂理で死ぬのが運命だった。あのままあそこで他の動物の餌食になって、生命を他に繋ぐはずだった。だが、お前の乳のお陰で命を繋いでしまった。今、兄さんの躰に起きている変化は、喜ばしい事なのか分からない。兄さんたちは生きているようで、既に亡霊になってしまったのかと、不安にもなる。だがそれには何か深い意味があるのだろう。きっとすべて後になり分かるだろう」
本当にそうだ。俺はとんでもないことをしてしまったのか。
それともロウの言う通り……何か深い意味があるのだろうか。
グルル……グゥ。
兄狼たちの顔色が変わる。
「ロウの言う通りだ。今の俺たちは獣ではない……むっ、不吉な匂いがする。予感がする! 西の森に残して来た群れが心配だ!リウ、行くぞ!」
「あぁ兄さん!」
狼たちは岩穴を飛び出て……すごい勢いで走り去って行った。
一抹の不安を残して──
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