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第2章
心は氷の如く 1
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「待てっ!そんなこと許さない!」
思わず手に握りしめた剣に力が入るが、キチがそれよりも先に俺の首元に剣を突き付けた。
「はて、許されない行為をしているのは近衛隊長の方だが」
「くっ……」
「近衛隊長、そんなに憤るな。私はクーデターを起こしているわけではない。残念なことに王様の死期が近い。先ほど王の主治医もそう診察を下したではないか。そうなった場合のこの王室のしきたりを、お前も知っているだろう」
「……」
「王の主治医と外部の医官の二人の診断が下され一致した時点で王は失脚し、次の王が即位するのだ。次なる王が私だということをお前は知っているはずだ。さぁ私の命令を素直に聴け。これは王命になるのだぞっ」
「お……王命……」
俺の手であの幼い王様とジョウを幽閉する? 赤い髪の女まで巻き添えにしてしまうのか。またもや抗えない運命に弄ばれるのか。
俺はこのようなことをするために近衛隊長になったのではない。
父上、俺は間違えたのでしょうか。文官の大臣だった父上の跡を継がずに武官になった俺。どこかで進むべき道を踏み間違えてしまったのか。父上が生きていらしたら、とてもお見せできない無様な姿に嫌気がさしてくる。この理不尽な仕打ちが悔しくて歯がゆくて堪らない。
「さぁ早く王とその医官達を今すぐ捕らえろ!我が国の新しい王の命令だ!」
その声に弾かれるように、キチの背後に控えていた兵士が一斉に王様の寝所へ駆け入り、乱暴に眠っておられる王様を担ぎ上げ、ジョウと赤い髪の女共々剣で脅し、部屋から追い出して行く。
「待て!ジョウっ……行くな!」
今すぐ駆け寄って王様を、ジョウを奪い返したい。なのに王命が俺の足枷となり、俺は一歩も動けない。
ジョウが俺の横を剣に囲まれながらすれ違う瞬間、二人の視線が絡み合った。
ジョウは無言であきらめたように首を振る。だがその眼は落ち着いて澄んでいた。
── ヨウ今は耐えろ、何か方法があるはずだ。絶対に諦めるな ──
そう眼で語っていた。
「それならば……俺も王様の傍にいさせてください」
次なる王になるキチに願い出るが、それは無残に散らされてしまった。ぐいっと強引に顎を掬われ、キチに唇を奪われることで……
「なっ!やめろっ!」
何をするのだ!何という事を……ジョウが見ている前でこのようなことをするなんて……赤い髪の女は目を丸くして驚いている。
「くくくっ、お前は今から私付きの近衛隊長だ。近衛隊長は王の身の回りの世話からなんでもするんだよな? だから私の好きなように扱っても良いのだろう」
「違うっ!」
「強がっていてもお前はその運命から逃れられぬのさ。さぁさぁ役立たずのものを早く幽閉せよ。王が病死した後は、その者たちは王と共に逝くのだから覚悟しておけっ」
俺はキチから急いで離れ、奪われた唇を腕貫で急いで拭った。
ねっとりとした口づけが気持ち悪かった。このような姿をジョウとあの女に見られてしまったことにも絶望感が募る。
キチは何故……俺に固執するのだ。いっそ俺も王様と共に逝きたい。王様を助けることが叶わぬのなら、ジョウと共に逝きたい。そう思うのに、それすらも許してもらえないのか。もう何もかも嫌になってくる。
──王命──
それは臣下に生まれたものにとって、何よりも重い足枷だ。
思わず手に握りしめた剣に力が入るが、キチがそれよりも先に俺の首元に剣を突き付けた。
「はて、許されない行為をしているのは近衛隊長の方だが」
「くっ……」
「近衛隊長、そんなに憤るな。私はクーデターを起こしているわけではない。残念なことに王様の死期が近い。先ほど王の主治医もそう診察を下したではないか。そうなった場合のこの王室のしきたりを、お前も知っているだろう」
「……」
「王の主治医と外部の医官の二人の診断が下され一致した時点で王は失脚し、次の王が即位するのだ。次なる王が私だということをお前は知っているはずだ。さぁ私の命令を素直に聴け。これは王命になるのだぞっ」
「お……王命……」
俺の手であの幼い王様とジョウを幽閉する? 赤い髪の女まで巻き添えにしてしまうのか。またもや抗えない運命に弄ばれるのか。
俺はこのようなことをするために近衛隊長になったのではない。
父上、俺は間違えたのでしょうか。文官の大臣だった父上の跡を継がずに武官になった俺。どこかで進むべき道を踏み間違えてしまったのか。父上が生きていらしたら、とてもお見せできない無様な姿に嫌気がさしてくる。この理不尽な仕打ちが悔しくて歯がゆくて堪らない。
「さぁ早く王とその医官達を今すぐ捕らえろ!我が国の新しい王の命令だ!」
その声に弾かれるように、キチの背後に控えていた兵士が一斉に王様の寝所へ駆け入り、乱暴に眠っておられる王様を担ぎ上げ、ジョウと赤い髪の女共々剣で脅し、部屋から追い出して行く。
「待て!ジョウっ……行くな!」
今すぐ駆け寄って王様を、ジョウを奪い返したい。なのに王命が俺の足枷となり、俺は一歩も動けない。
ジョウが俺の横を剣に囲まれながらすれ違う瞬間、二人の視線が絡み合った。
ジョウは無言であきらめたように首を振る。だがその眼は落ち着いて澄んでいた。
── ヨウ今は耐えろ、何か方法があるはずだ。絶対に諦めるな ──
そう眼で語っていた。
「それならば……俺も王様の傍にいさせてください」
次なる王になるキチに願い出るが、それは無残に散らされてしまった。ぐいっと強引に顎を掬われ、キチに唇を奪われることで……
「なっ!やめろっ!」
何をするのだ!何という事を……ジョウが見ている前でこのようなことをするなんて……赤い髪の女は目を丸くして驚いている。
「くくくっ、お前は今から私付きの近衛隊長だ。近衛隊長は王の身の回りの世話からなんでもするんだよな? だから私の好きなように扱っても良いのだろう」
「違うっ!」
「強がっていてもお前はその運命から逃れられぬのさ。さぁさぁ役立たずのものを早く幽閉せよ。王が病死した後は、その者たちは王と共に逝くのだから覚悟しておけっ」
俺はキチから急いで離れ、奪われた唇を腕貫で急いで拭った。
ねっとりとした口づけが気持ち悪かった。このような姿をジョウとあの女に見られてしまったことにも絶望感が募る。
キチは何故……俺に固執するのだ。いっそ俺も王様と共に逝きたい。王様を助けることが叶わぬのなら、ジョウと共に逝きたい。そう思うのに、それすらも許してもらえないのか。もう何もかも嫌になってくる。
──王命──
それは臣下に生まれたものにとって、何よりも重い足枷だ。
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