悲しい月(改訂版)

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
42 / 73
第2章

想いを重ねて 1

しおりを挟む
「ヨウどうした?そんなことお前から言うなんて」
「駄目か?」
「いや嬉しい、私もそうしたかった。ここには人は来ないのか」

 近衛隊の部下たちの鍛錬場である小屋の二階を改築して作られたヨウの部屋には、夜は誰も訪れない。

「大丈夫だ。ここでしてくれ……」

 清廉潔白な武将として知られるヨウらしく、部屋には必要最低限の家具しか置かれていない。硬い木で出来た寝台は隊長のものとは思えない程粗末なもので、大人が二人も寝れば壊れそうなほど軋んでいた。だがそんなことは構わない。あれは赤い女を探しに旅に出る前だったか。ヨウを王宮の薬品庫で立ったまま性急に抱いたのは。

 今宵はゆっくりと大切にヨウを抱きたい。何故ならヨウがひどく傷ついているような気がするから。

 ヨウの背後に回り、重たい鎧を外してやる。近衛隊長としての華美な鎧は必要以上に重たく、ヨウの脱ぐと思いの他ほっそりとしている躰に負担をかけているのではないか。ヨウが片時も離さず握りしめている重たい剣も、机に置いてやる。こうすることでヨウの心の鎧を外し、ヨウの心を軽くしてやれるはずだ。

「ジョウ……俺は怖い」

 珍しくヨウが弱音を吐いた。

「どうしたんだ?今日のヨウは少しおかしいぞ」
「不安が押し寄せてくる。お前は俺を置いて何処かへ行かないよな?そう約束したよな?」
「あぁもちろんだ。何処にも行くつもりはないのに何故そのようなことを?」

 切なげな表情を堪えたヨウの方から唇を合わせてくる。ヨウの切ない吐息が私の躰に入り込めば、私の躰も反応し始めていく。控えめに啄むような口づけをしかけ、不安を訴えてくるヨウを狭い寝台に押し倒し、その武将にしては細く白い普段は見えないように隠している鎖骨に口づけを施してやる。さらに衣の袷に手を挿しいれ、両肩から徐々に下へ衣をずらしていけば、ヨウの上半身が次第に露わになっていく。

 前王につけられた爪痕が白く目立つ肌が痛々しい。前王に抱かれ続けたヨウの躰は愛撫に慣れ、私がほんの少し胸の尖りに触れるだけで固くなり、切ない声が上がり出してしまう.……それをヨウはとても恥じている。

「あっ……あ、あ」

 そこへ口づけし、傷に沿って唇をそっと這わせて舐めてやる。

「うっ……ん、ん」

 必死に声を我慢するヨウが、いつもの癖で唇をきつく噛みしめてしまうので、そこに指を這わせ、口腔をかき混ぜ、抜き差ししてやる。

「いいんだよ。我慢するな。声を出せ」
「だが……ジョウっ」

 何度抱いても、このように恥じらうヨウが愛おしい。あんなに強く恐れられている武将だというのに、私の前ではただの人になってしまう。

 誰もヨウのこんな姿は知らない。
 誰にも見せたくない私だけのヨウの姿だ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝不足貴族は、翡翠の奴隷に癒される。

うさぎ
BL
市場の片隅で奴隷として売られるゾイは、やつれた貴族風の男に買われる。その日から、ゾイは貴族の使用人として広大な館で働くことに。平凡で何の特技もない自分を買った貴族を訝しむゾイだったが、彼には何か事情があるようで……。 スパダリ訳あり貴族×平凡奴隷の純愛です。作中に暴力の描写があります!該当話数には*をつけてますので、ご確認ください。 R15は保険です…。エロが書けないんだァ…。練習したいです。 書いてる間中、ん?これ面白いんか?と自分で分からなくなってしまいましたが、書き終えたので出します!書き終えることに意味がある!!!!

俺の番が変態で狂愛過ぎる

moca
BL
御曹司鬼畜ドS‪なα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!! ほぼエロです!!気をつけてください!! ※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!! ※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️ 初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀

夕凪の空 京の香り

志生帆 海
BL
【R18】大正時代、京都。京都の老舗呉服屋若旦那の夕凪は、出入りの京友禅の絵師にある日、美しい訪問着に目を奪われる。そこから成り行きで、抱かれてしまった。初心な夕凪は手慣れた絵師にどんどん躰を甘く開拓され、その関係に溺れて行ってしまうが、そんな二人の間には許婚の存在やさらなる問題が次々と。家や時代というしがらみに押しつぶされそうになっていく恋の行方を、甘く、時にハードにドラマチックに描いていきます。 ※第1章※ 京都の町を舞台に、信二郎×夕凪甘く切ない官能的な世界を描いていておりますが、他の作品よりエロ度が高めですのでご注意ください。18歳未満の方の閲覧はお控えください。 ※第2章※ 28話以降~『捕らわれる』より、シリアス編に突入しました。新たな登場人物も加わり、次々と夕凪は貞操の危機に翻弄されていきます。無理矢理を含む、シリアスな展開になっていますので、苦手な方は御回避ください。 ※第3章※ 61話以降~徐々に『重なる月』とリンクしていきます。63話に無理矢理凌辱シーンがありますのでご注意ください。苦手な方は回避して下さい。ハラハラドキドキのドラマチックな展開を目指していきます。エロ多めの章です。 ※第4章※ 127話以降~残された兄弟。湖翠と流水の話が中心になります。 切なさが募るセレナーデのような流れ。 **** このお話は、実はもともと『重なる月』のパラレルとしてスタートしました。 よって、夕凪の前身は洋・ヨウ・洋月で、信二郎の前身は丈・ジョウ・丈の中将のイメージで書いています。いずれ『重なる月』へとリンクしていきますが、単体でも読めます♡ ◆主な登場人物◆ 呉服屋若旦那 → 一宮 夕凪 (いちのみや ゆうなぎ) 京友禅絵師  → 坂田 信二郎(さかた しんじろう) 呉服屋若旦那 → 大鷹 律矢 (おおたか りつや)

悪役令息に転生したら、王太子に即ハメされまして……

ラフレシア
BL
 王太子に即ハメされまして……

三十歳童貞で魔法使いになれるなら五十歳童貞は魔王になれる~実は創世神だそうです~

高槻桂
BL
水原敬介は今年で五十二歳を迎える会社員である。 心優しいが地味でモテた試しがなくなんとなくこの歳まで誰ともお付き合いしたこともなければ手の一つもまともに握ったことのないままきてしまった。 そんな敬介はある日、不思議な光に包まれた女性をかばってその光に飲まれて異世界に飛ばされてしまう。 その異世界で敬介は魔王だと言われてしまう。それは五十歳を過ぎても童貞だと魔王になるのだと言われて・・・? 黒猫獣人×おっさん魔王の恋物語!

童貞処女が闇オークションで公開絶頂したあと石油王に買われて初ハメ☆

はに丸
BL
闇の人身売買オークションで、ノゾムくんは競りにかけられることになった。 ノゾムくん18才は家族と海外旅行中にテロにあい、そのまま誘拐されて離れ離れ。転売の末子供を性商品として売る奴隷商人に買われ、あげくにオークション出品される。 そんなノゾムくんを買ったのは、イケメン石油王だった。 エネマグラ+尿道プラグの強制絶頂 ところてん 挿入中出し ていどです。 闇BL企画さん参加作品。私の闇は、ぬるい。オークションと石油王、初めて書きました。

触れて触って抱きしめて

葉月めいこ
BL
無自覚人たらしな大学生×臆病な天然司書 指先から伝わる想いは心を熱く震わせる ものに触れると人の心の声が聞こえてしまう天音は、人との関わりに一線を引いてきた。 けれど毎日のように図書館にやってくる、中原の『声』だけは癒やしを感じている。 まっすぐで裏表を感じさせない、綺麗な心。 片想いしている彼をずっと微笑ましく思っていた。 想いが実ればいい――そう思っていたはずなのに、近づくほどに彼の優しさに惹かれてしまった。

器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう
BL
四宮晴臣 × 石崎千秋 多くの美しいオメガを生み出す石崎家の中で、特に美しい容姿もしておらず、その上、フェロモン異常で発情の兆しもなく、そのフェロモンはアルファを引きつけることのない体質らしい千秋は落ちこぼれだった。もはやベータだと言ったほうが妥当な体だったけれど、血液検査ではオメガだと診断された。 石崎家のオメガと縁談を望む名門のアルファ家系は多い。けれど、その中の誰も当然の事のように千秋を選ぶことはなく、20歳になった今日、ついに家を追い出されてしまった千秋は、寒い中、街を目指して歩いていた。 かつてベータに恋をしていたらしいアルファの四宮に拾われ、その屋敷で働くことになる ※話のつながりは特にありませんが、「俺を好きになってよ!」にてこちらのお話に出てくる泉先生の話を書き始めました。

処理中です...