18 / 63
闇の章
突然の口づけ 2
しおりを挟む
「あっ……」
洋月の君は驚いたように小さな声を上げ、顔を横に背けようとした。私はそのほっそりとした顎を押さえつけ、逃げることが出来ないように封じ込め、その唇を割り舌を侵入させた。
「うっ」
その柔らかい感触に、触れてはいけないものに触れてしまった。そう思った。女遊びの達人と言われる私が、こともあろうに同性である洋月の君との口づけひとつに夢中になっている。それにしても、この人との口づけはなんと甘いのだ。抵抗しながらも、あがってくる熱い吐息の甘美なこと、この上ない。
息ができないほどの長い口づけの後、洋月の君に自由を戻すと、口元を手で押さえ、怒りというよりは驚きで満ちた表情を浮かべていた。そして恐る恐る問いかけるように口を開いた。
「丈の中将……君は何故このようなことを……」
そんな暗闇でおびえる小鹿なような表情に、私の中の男の部分が爆走した。もう止まらない!洋月の君の両腕を床に抑えつけ、馬乗りになる。
「えっ!あっ……待って! 何をする?」
状況が理解できないでいる洋月の君のことなどお構いなしに、直衣を手際よく緩め、胸元を露わにしていくと、ほっそりとした汚れなき白い鎖骨が暗い部屋に浮かび上がった。
ゴクリ──
あまりに美しく誘っているようなそのきめ細かな肌に、思わず喉がなってしまう。深呼吸をした後、腕の中に閉じ込めた洋月の君の首筋に沿って、吸い付くような接吻を落としていく。口づけを落とす度に、ピクピクと躰を震わせる洋月の君が愛おしい。
「あっ駄目だ。そんなことをしたら知られてしまう!」
「誰にだ?どうせ妹とはなんの関係も持っていないのだから、心配しなくていいだろう?」
「違うっ!そうではないっ」
「じゃあ君は一体誰を想っている?どんな姫なんだ?君の心を捉えて離さないのはっ!」
私は苛立ちを感じ、洋月の君の直衣を徐々にはだけさせながら、露わになった肌の部分に噛みつくような口づけをし、言葉と口づけで容赦なく攻め立てていく。
「じゃあ、一体誰のことを想っている?人に言えないような相手なのか」
嫉妬だ。見えない相手に嫉妬していた。私はその相手への牽制も込め、更に首筋に私の痕を残したくて激しく薄い皮膚を、赤い痕が残るまで吸った。
「んっあっ……駄目だ!いけない。俺には想う姫などいない。ただ……俺は支配されている。だから君はそんなことをしてはいけない。あぁ……牡丹が知ってしまう。やめてくれ!君まで傷つけたくない」
洋月の君はそう答えた後、流されるままに私に委ねていた躰を思いっきり跳ね除け、乱れ行く直衣を手で押さえた。
「牡丹って……?」
私は腑に落ちない気持ちで一杯だったが、洋月の君のあまりに怯えた表情に、上り詰めていた高ぶる感情が収まってしまった。途端に洋月の君の眼には涙が溢れた。
「丈の中将はけっして……俺を想ってはいけない。俺は君を傷つけたくないのだから」
そう告げると……急ぎ直衣を整え、部屋から抜け出して行ってしまった。私は呆気にとられ自嘲気味に笑うしかなかった。
「参ったな。私としたことが、とうとう洋月の君相手に、こんなことを仕出かすなんて」
****
牛車に揺られながら、震えが止まらない。今宵は牡丹からの呼び出しが入っていたのだ。急ぎ首筋を鏡に映し確かめると、花弁が舞い降りたかのように、1箇所だけはっきりと色付いてしまった部分を見つけ、絶望的な気持ちになった。
これは、絶対に牡丹に気付かれてはいけない。
まさか丈の中将が急にあのようなことをするなんて、油断していた。
牡丹に見つかるわけに行かない秘密を躰に植えつけられてしまった気分で悲しくなる。震える躰を自ら抱きしめ、恐れ慄きながらも直衣の乱れを急ぎ整え、深く口付けされて熱く湿っている口元を名残惜しくも……しっかりと拭った。
何故なら、この牛車は宮中の牡丹の元へ向かっているから……
洋月の君は驚いたように小さな声を上げ、顔を横に背けようとした。私はそのほっそりとした顎を押さえつけ、逃げることが出来ないように封じ込め、その唇を割り舌を侵入させた。
「うっ」
その柔らかい感触に、触れてはいけないものに触れてしまった。そう思った。女遊びの達人と言われる私が、こともあろうに同性である洋月の君との口づけひとつに夢中になっている。それにしても、この人との口づけはなんと甘いのだ。抵抗しながらも、あがってくる熱い吐息の甘美なこと、この上ない。
息ができないほどの長い口づけの後、洋月の君に自由を戻すと、口元を手で押さえ、怒りというよりは驚きで満ちた表情を浮かべていた。そして恐る恐る問いかけるように口を開いた。
「丈の中将……君は何故このようなことを……」
そんな暗闇でおびえる小鹿なような表情に、私の中の男の部分が爆走した。もう止まらない!洋月の君の両腕を床に抑えつけ、馬乗りになる。
「えっ!あっ……待って! 何をする?」
状況が理解できないでいる洋月の君のことなどお構いなしに、直衣を手際よく緩め、胸元を露わにしていくと、ほっそりとした汚れなき白い鎖骨が暗い部屋に浮かび上がった。
ゴクリ──
あまりに美しく誘っているようなそのきめ細かな肌に、思わず喉がなってしまう。深呼吸をした後、腕の中に閉じ込めた洋月の君の首筋に沿って、吸い付くような接吻を落としていく。口づけを落とす度に、ピクピクと躰を震わせる洋月の君が愛おしい。
「あっ駄目だ。そんなことをしたら知られてしまう!」
「誰にだ?どうせ妹とはなんの関係も持っていないのだから、心配しなくていいだろう?」
「違うっ!そうではないっ」
「じゃあ君は一体誰を想っている?どんな姫なんだ?君の心を捉えて離さないのはっ!」
私は苛立ちを感じ、洋月の君の直衣を徐々にはだけさせながら、露わになった肌の部分に噛みつくような口づけをし、言葉と口づけで容赦なく攻め立てていく。
「じゃあ、一体誰のことを想っている?人に言えないような相手なのか」
嫉妬だ。見えない相手に嫉妬していた。私はその相手への牽制も込め、更に首筋に私の痕を残したくて激しく薄い皮膚を、赤い痕が残るまで吸った。
「んっあっ……駄目だ!いけない。俺には想う姫などいない。ただ……俺は支配されている。だから君はそんなことをしてはいけない。あぁ……牡丹が知ってしまう。やめてくれ!君まで傷つけたくない」
洋月の君はそう答えた後、流されるままに私に委ねていた躰を思いっきり跳ね除け、乱れ行く直衣を手で押さえた。
「牡丹って……?」
私は腑に落ちない気持ちで一杯だったが、洋月の君のあまりに怯えた表情に、上り詰めていた高ぶる感情が収まってしまった。途端に洋月の君の眼には涙が溢れた。
「丈の中将はけっして……俺を想ってはいけない。俺は君を傷つけたくないのだから」
そう告げると……急ぎ直衣を整え、部屋から抜け出して行ってしまった。私は呆気にとられ自嘲気味に笑うしかなかった。
「参ったな。私としたことが、とうとう洋月の君相手に、こんなことを仕出かすなんて」
****
牛車に揺られながら、震えが止まらない。今宵は牡丹からの呼び出しが入っていたのだ。急ぎ首筋を鏡に映し確かめると、花弁が舞い降りたかのように、1箇所だけはっきりと色付いてしまった部分を見つけ、絶望的な気持ちになった。
これは、絶対に牡丹に気付かれてはいけない。
まさか丈の中将が急にあのようなことをするなんて、油断していた。
牡丹に見つかるわけに行かない秘密を躰に植えつけられてしまった気分で悲しくなる。震える躰を自ら抱きしめ、恐れ慄きながらも直衣の乱れを急ぎ整え、深く口付けされて熱く湿っている口元を名残惜しくも……しっかりと拭った。
何故なら、この牛車は宮中の牡丹の元へ向かっているから……
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
桜吹雪と泡沫の君
叶けい
BL
4月から新社会人として働き始めた名木透人は、高校時代から付き合っている年上の高校教師、宮城慶一と同棲して5年目。すっかりお互いが空気の様な存在で、恋人同士としてのときめきはなくなっていた。
慣れない会社勤めでてんてこ舞いになっている透人に、会社の先輩・渡辺裕斗が合コン参加を持ちかける。断り切れず合コンに出席した透人。そこで知り合った、桜色の髪の青年・桃瀬朔也と運命的な恋に落ちる。
だが朔也は、心臓に重い病気を抱えていた。
後悔 「あるゲイの回想」短編集
ryuuza
BL
僕はゲイです。今までの男たちとの数々の出会いの中、あの時こうしていれば、ああしていればと後悔した経験が沢山あります。そんな1シーンを集めてみました。殆どノンフィクションです。ゲイ男性向けですが、ゲイに興味のある女性も大歓迎です。基本1話完結で短編として読めますが、1話から順に読んでいただくと、より話の内容が分かるかもしれません。
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
僕の宿命の人は黒耳のもふもふ尻尾の狛犬でした!【完結】
華周夏
BL
かつての恋を彼は忘れている。運命は、あるのか。繋がった赤い糸。ほどけてしまった赤い糸。繋ぎ直した赤い糸。切れてしまった赤い糸──。その先は?糸ごと君を抱きしめればいい。宿命に翻弄される神の子と、眷属の恋物語【*マークはちょっとHです】
秋津皇国興亡記
三笠 陣
ファンタジー
東洋の端に浮かぶ島国「秋津皇国」。
戦国時代の末期から海洋進出を進めてきたこの国はその後の約二〇〇年間で、北は大陸の凍土から、南は泰平洋の島々を植民地とする広大な領土を持つに至っていた。
だが、国内では産業革命が進み近代化を成し遂げる一方、その支配体制は六大将家「六家」を中心とする諸侯が領国を支配する封建体制が敷かれ続けているという歪な形のままであった。
一方、国外では西洋列強による東洋進出が進み、皇国を取り巻く国際環境は徐々に緊張感を孕むものとなっていく。
六家の一つ、結城家の十七歳となる嫡男・景紀は、父である当主・景忠が病に倒れたため、国論が攘夷と経済振興に割れる中、結城家の政務全般を引き継ぐこととなった。
そして、彼に付き従うシキガミの少女・冬花と彼へと嫁いだ少女・宵姫。
やがて彼らは激動の時代へと呑み込まれていくこととなる。
※表紙画像・キャラクターデザインはイラストレーターのSioN先生にお願いいたしました。
イラストの著作権はSioN先生に、独占的ライセンス権は筆者にありますので無断での転載・利用はご遠慮下さい。
(本作は、「小説家になろう」様にて連載中の作品を転載したものです。)
蜘蛛の巣
猫丸
BL
オメガバース作品/R18/全10話(7/23まで毎日20時公開)/真面目α✕不憫受け(Ω)
世木伊吹(Ω)は、孤独な少年時代を過ごし、自衛のためにβのフリをして生きてきた。だが、井雲知朱(α)に運命の番と認定されたことによって、取り繕っていた仮面が剥がれていく。必死に抗うが、逃げようとしても逃げられない忌まわしいΩという性。
混乱に陥る伊吹だったが、井雲や友人から無条件に与えられる優しさによって、張り詰めていた気持ちが緩み、徐々に心を許していく。
やっと自分も相手も受け入れられるようになって起こった伊吹と井雲を襲う悲劇と古い因縁。
伊吹も知らなかった、両親の本当の真実とは?
※ところどころ差別的発言・暴力的行為が出てくるので、そういった描写に不快感を持たれる方はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる