10 / 63
闇の章
陽だまりのような人3
しおりを挟む
鷹狩の途中で天候が急変し、突風が吹き抜け雷電霹靂(らいでんへきれき・雷鳴と電光)が轟き、急に激しい雨が降り始めた。
「洋月の君、酷い雨だ。何処かで雨宿りしよう!さぁ!」
誘導するために、洋月の君の腕を思わず掴んでしまった。
「あっ」
小さな声で躰を反応させる洋月の君の、その同じ男とは思えない華奢な手首に驚いてしまった。
風雨を避ける場所を求めて共に野山を走り抜けると、身を潜めるのに丁度良い岩陰があったので、そこへ洋月の君を座らせた。私も入ろうと思ったら、二人で入るには少々窮屈な空間だった。かといって他に雨をしのげる場所もないし、しょうがないな。
「洋月の君、少しきついがこちらへ」
洋月の君の薄い肩を抱き、身を寄せ合う。
「えっ」
洋月の君は他人に触れられることに慣れていないのか、顔を赤らめ動揺しているのが伝わって来る。色男という噂とは程遠い、随分と過敏な反応だ。
「ここは狭いから、こうするのを少し我慢してくれ。お互い濡れたくないだろう?」
「あっ……あぁ、そうだね」
雨を凌ぐためとはいえ、息がかかるほどの距離で二人で抱き合うような形になってしまい、しかも洋月の君が意識しているように、もぞもぞと顔を赤らめ恥ずかしがるから、こちらまで変な気持ちになってしまう。
それにしても洋月の君の何とも言えない花のような良い香りが届いて、変な気分になりそうだ。
男なのに良い香りを持っているんだな。君って……
「洋月の君は初心だな。この位で恥ずかしがるなんてさ。妹は抱かずとも他の女子とは数多くの遍歴があるんだろう?」
「えっ!そんなことない……それは……噂に過ぎない」
何故か悲し気な瞳……どうにも分からない、掴みどころがない人だな。
宮中の色男と噂される人が、こんなに儚げで初心だとは。
「まぁいいよ、君がどんな人でも。私は洋月の君といると楽しいからな」
「……」
「どうした?」
「いや、君が俺が『どんな人でもいい』と言うから」
「だってそうだろう?今ここにいる君が本当の君だよ。俺の眼に映るのが君だ」
「……ありがとう」
少し洋月の君の顔色が悪いので、そっと額に手をあててみると、かなり熱かった。
「熱があるのか」
「あっ…いや」
「いつから?」
「……分からない」
「馬鹿だな。こんな躰で鷹狩をするなんて、おまけにさっき沢山汗をかいたから悪化させたんじゃないか」
「……だが、熱はいつものことだから」
****
いつも帝に強引に気を失うまで抱かれ、裸のまま放置され、朝を迎えることなんて頻繁だった。
帝は俺のことを憎んでいるから、優しくなんてしてもらったことがない。風邪をひくなんて、しょっちゅうだ。
昨夜も家に戻りたかったのに呼び出され、意識を飛ばすまで抱かれて躰が悲鳴を上げていた。もう限界だった。更に朝起きると躰の状態はぼろぼろだったのに、鷹狩の同行の命が下ったから、躰を休める暇がなかった。
今……俺の本当の姿を知らない丈の中将の労わるような優しい眼差しを浴びると、冷え切った躰が温まっていく。
世界には丈の中将と俺だけで、全ての嫌なことを雨が遮断してくれるように感じる。
とても心地良い空間だ。この心地良い時間がいつまでも続けばいいのに……
「本当に大丈夫か?熱、かなりあるぞ」
「いつものことだよ。それより君の肩にもたれてもいいか」
「もちろんだよ、少し休め」
その言葉と温もりに、安心しきった俺は目を瞑り、安らかな眠りに落ちて行く。
「洋月の君、酷い雨だ。何処かで雨宿りしよう!さぁ!」
誘導するために、洋月の君の腕を思わず掴んでしまった。
「あっ」
小さな声で躰を反応させる洋月の君の、その同じ男とは思えない華奢な手首に驚いてしまった。
風雨を避ける場所を求めて共に野山を走り抜けると、身を潜めるのに丁度良い岩陰があったので、そこへ洋月の君を座らせた。私も入ろうと思ったら、二人で入るには少々窮屈な空間だった。かといって他に雨をしのげる場所もないし、しょうがないな。
「洋月の君、少しきついがこちらへ」
洋月の君の薄い肩を抱き、身を寄せ合う。
「えっ」
洋月の君は他人に触れられることに慣れていないのか、顔を赤らめ動揺しているのが伝わって来る。色男という噂とは程遠い、随分と過敏な反応だ。
「ここは狭いから、こうするのを少し我慢してくれ。お互い濡れたくないだろう?」
「あっ……あぁ、そうだね」
雨を凌ぐためとはいえ、息がかかるほどの距離で二人で抱き合うような形になってしまい、しかも洋月の君が意識しているように、もぞもぞと顔を赤らめ恥ずかしがるから、こちらまで変な気持ちになってしまう。
それにしても洋月の君の何とも言えない花のような良い香りが届いて、変な気分になりそうだ。
男なのに良い香りを持っているんだな。君って……
「洋月の君は初心だな。この位で恥ずかしがるなんてさ。妹は抱かずとも他の女子とは数多くの遍歴があるんだろう?」
「えっ!そんなことない……それは……噂に過ぎない」
何故か悲し気な瞳……どうにも分からない、掴みどころがない人だな。
宮中の色男と噂される人が、こんなに儚げで初心だとは。
「まぁいいよ、君がどんな人でも。私は洋月の君といると楽しいからな」
「……」
「どうした?」
「いや、君が俺が『どんな人でもいい』と言うから」
「だってそうだろう?今ここにいる君が本当の君だよ。俺の眼に映るのが君だ」
「……ありがとう」
少し洋月の君の顔色が悪いので、そっと額に手をあててみると、かなり熱かった。
「熱があるのか」
「あっ…いや」
「いつから?」
「……分からない」
「馬鹿だな。こんな躰で鷹狩をするなんて、おまけにさっき沢山汗をかいたから悪化させたんじゃないか」
「……だが、熱はいつものことだから」
****
いつも帝に強引に気を失うまで抱かれ、裸のまま放置され、朝を迎えることなんて頻繁だった。
帝は俺のことを憎んでいるから、優しくなんてしてもらったことがない。風邪をひくなんて、しょっちゅうだ。
昨夜も家に戻りたかったのに呼び出され、意識を飛ばすまで抱かれて躰が悲鳴を上げていた。もう限界だった。更に朝起きると躰の状態はぼろぼろだったのに、鷹狩の同行の命が下ったから、躰を休める暇がなかった。
今……俺の本当の姿を知らない丈の中将の労わるような優しい眼差しを浴びると、冷え切った躰が温まっていく。
世界には丈の中将と俺だけで、全ての嫌なことを雨が遮断してくれるように感じる。
とても心地良い空間だ。この心地良い時間がいつまでも続けばいいのに……
「本当に大丈夫か?熱、かなりあるぞ」
「いつものことだよ。それより君の肩にもたれてもいいか」
「もちろんだよ、少し休め」
その言葉と温もりに、安心しきった俺は目を瞑り、安らかな眠りに落ちて行く。
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
桜吹雪と泡沫の君
叶けい
BL
4月から新社会人として働き始めた名木透人は、高校時代から付き合っている年上の高校教師、宮城慶一と同棲して5年目。すっかりお互いが空気の様な存在で、恋人同士としてのときめきはなくなっていた。
慣れない会社勤めでてんてこ舞いになっている透人に、会社の先輩・渡辺裕斗が合コン参加を持ちかける。断り切れず合コンに出席した透人。そこで知り合った、桜色の髪の青年・桃瀬朔也と運命的な恋に落ちる。
だが朔也は、心臓に重い病気を抱えていた。
後悔 「あるゲイの回想」短編集
ryuuza
BL
僕はゲイです。今までの男たちとの数々の出会いの中、あの時こうしていれば、ああしていればと後悔した経験が沢山あります。そんな1シーンを集めてみました。殆どノンフィクションです。ゲイ男性向けですが、ゲイに興味のある女性も大歓迎です。基本1話完結で短編として読めますが、1話から順に読んでいただくと、より話の内容が分かるかもしれません。
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
僕の宿命の人は黒耳のもふもふ尻尾の狛犬でした!【完結】
華周夏
BL
かつての恋を彼は忘れている。運命は、あるのか。繋がった赤い糸。ほどけてしまった赤い糸。繋ぎ直した赤い糸。切れてしまった赤い糸──。その先は?糸ごと君を抱きしめればいい。宿命に翻弄される神の子と、眷属の恋物語【*マークはちょっとHです】
秋津皇国興亡記
三笠 陣
ファンタジー
東洋の端に浮かぶ島国「秋津皇国」。
戦国時代の末期から海洋進出を進めてきたこの国はその後の約二〇〇年間で、北は大陸の凍土から、南は泰平洋の島々を植民地とする広大な領土を持つに至っていた。
だが、国内では産業革命が進み近代化を成し遂げる一方、その支配体制は六大将家「六家」を中心とする諸侯が領国を支配する封建体制が敷かれ続けているという歪な形のままであった。
一方、国外では西洋列強による東洋進出が進み、皇国を取り巻く国際環境は徐々に緊張感を孕むものとなっていく。
六家の一つ、結城家の十七歳となる嫡男・景紀は、父である当主・景忠が病に倒れたため、国論が攘夷と経済振興に割れる中、結城家の政務全般を引き継ぐこととなった。
そして、彼に付き従うシキガミの少女・冬花と彼へと嫁いだ少女・宵姫。
やがて彼らは激動の時代へと呑み込まれていくこととなる。
※表紙画像・キャラクターデザインはイラストレーターのSioN先生にお願いいたしました。
イラストの著作権はSioN先生に、独占的ライセンス権は筆者にありますので無断での転載・利用はご遠慮下さい。
(本作は、「小説家になろう」様にて連載中の作品を転載したものです。)
蜘蛛の巣
猫丸
BL
オメガバース作品/R18/全10話(7/23まで毎日20時公開)/真面目α✕不憫受け(Ω)
世木伊吹(Ω)は、孤独な少年時代を過ごし、自衛のためにβのフリをして生きてきた。だが、井雲知朱(α)に運命の番と認定されたことによって、取り繕っていた仮面が剥がれていく。必死に抗うが、逃げようとしても逃げられない忌まわしいΩという性。
混乱に陥る伊吹だったが、井雲や友人から無条件に与えられる優しさによって、張り詰めていた気持ちが緩み、徐々に心を許していく。
やっと自分も相手も受け入れられるようになって起こった伊吹と井雲を襲う悲劇と古い因縁。
伊吹も知らなかった、両親の本当の真実とは?
※ところどころ差別的発言・暴力的行為が出てくるので、そういった描写に不快感を持たれる方はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる