深海 shinkai(改訂版)

志生帆 海

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その後の章

季節の番外編♡ハロウィン・ハネムーン 3

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「Kaiが来たかった場所って、ここだったのか」

「そうだよ」

「だって……ここは」

 日本に着いてすぐにKaiが向かった場所は渋谷だった。しかもハロウィンで賑わう渋谷……ここは僕ひとりだったら絶対に立ち寄らない場所だ。

 ここには……僕が大学卒業後就職した通訳の会社の本社がある。つまり翔と出逢った土地でもあった。

 あの日翔と別れ……一人寂しく歩いた寒い道。

 そうだ、ここで僕は初めてKaiに出逢った。

「気づいてくれた?ここは俺たちの出逢いの場所だ。あの日俺が優也に韓国旅行のパンフレットを手渡したの覚えているよな。もちろん当時はお互い何も知らない状態だったが、振り返ってみれば、あれが最初だ。最初に俺が優也の心に触れた瞬間だ」

「ん……そうだ。あのパンフレットをもらわなかったら、僕はソウルへ旅立つことを思いつきもしなかった」

 驚いてKaiのことを見つめれば、いつも通り太陽のように明るく笑っていた。その笑顔にほっとし、この状況を受け入れる余裕が生まれた。

「だろう?だから一度優也とここに来てみたかったのさ。今日はこの街のハロウィンを楽しもう!」

「Kai……会社帰りにハロウィンで賑わっている街を見ることがあっても、僕自身が参加するなんて思いもしなかったよ」

「おいで、ちょっと面白いパーティーに参加しようと思って、まずは着替えだな」

「え?ちょっと待って」

「いいから、いいから」

****

 渋谷のハロウィンといっても街で大騒ぎするのは……やっぱり優也に似合わないと思った。だから俺が選んだの特別なイベント、渋谷のホールでの特別なダンスパーティーだ。

「ど、どう?」

「わ……優也いいよ。どこかの国の皇太子みたいに上品だ!」

「いつもKaiは、僕を褒め過ぎだよ。着慣れないよ……こんな服装は」

 タキシードとエナメルの靴。どこから見ても完璧だ。優也の内からにじみ出る上品さがその姿を引き立てていた。

「さぁ行こう、パーティーに」

「何のパーティー?僕は……人前は苦手なのに」

「大丈夫。これを付ければ優也は優也でなくなるよ」

「仮面?」

「そうだよ、仮面舞踏会だ」

 仮面をつけるので、恥ずかしがり屋の優也でも羽目を外せるはず。いつも真面目に仕事をこなし、親孝行で優しい優也。そんな優也が大好きだ。だが……たまに一人で何もかも抱え込んで疲れてしまうのも知っているよ。

 不安がる優也に……試着室のカーテンに隠れ、キスをひとつ。

「大丈夫。すぐ傍には、いつも俺がいる」

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