深海 shinkai(改訂版)

志生帆 海

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その後の章

その後の二人 『海を越える恋』8

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 部屋を出る直前にお互い自然に歩み寄り、深く抱き合ってキスをした。
 名残り惜しい気持ちは、次から次へと、どんどん沸いて来るものだ。

 僕の方から切り出した。

「Kaiくん、もう行くよ」
「んっ分かった」

 Kaiくんは素直な返事とは裏腹に、名残り惜しそうだった。
 何度も見た表情に、胸が痛くもなり、熱くもなる。
 別れを惜しまれることに強い幸福を感じるなんて、僕は少し変だろうか。

「空港まで送るよ」
「ありがとう」

 一歩外に出れば、そこは公の道だ。Kaiくんにはホテルマンとしての仕事があり、僕にも日本でやるべき仕事がある。来た時とは違う、重い心。

「Kaiくん、さっきのこと覚えている?」
「シャツだろ?次の休みに取りに行く」
「本当に?」
「日本と韓国なんて日帰りできる距離だよ。絶対に行くから」

 その言葉に希望が見えた。次の約束があると、ほっとする。

「優也さん、本当に来てくれてありがとう!嬉しかったし……」

 空港の雑踏の中、耳元で囁かれたのは甘く蕩けるような台詞。

「優也さんの躰、すごく良かった。もっともっと愛したい」

 あからさまな言葉に赤面するが、嫌じゃない。
 彼のそういう所が好きだから。僕が言えないような言葉を、次々に直球で届けてくれる人。

「僕も……その……よ……良かった」

 それだけは、なんとか伝えられた。
 空港なのでキスも抱擁も、今の僕たちには出来ない。
 だからこそ、交わせる視線と言葉で愛を紡ぐ。

「優也さんいいか。寂しくなったらすぐに連絡すること」
「ありがとう。本当に思い切って来てよかった。Kaiくんと心が繋がっていると実感出来たよ」
「あぁ、海を越えて行くよ」
「待っている」

 やがて飛行機が離陸した。振動すら心地良いなんて……

 こんなにも幸せな気持ちで、日本へ帰国するのは初めてかもしれない。

 愛されていることを躰で心で言葉で確かめ合った二日間。

 幸せに酔う。
 そんな言葉で、僕は今満たされている。

「海を越える恋」了
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