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出逢いの章
集う想い 19
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Kaiくんが僕のことを駅で待っている。だから早く車を動かして迎えに行かないと。
それは分かっているのに、躰が震えて動かない。
何もなかったし翔とのことにやっと決着がついたのに何故……
いや…その理由を僕は分かっている。今さっき翔が触れていった躰が気持ち悪かった。あんなにも躰を重ねた相手なのに、さっき口づけされ躰を舐めまわされた時、心が凍るように怖かったし嫌悪感で一杯になってしまった。
もう僕の躰は翔を受け入れられないと実感した。
無性に躰を洗いたくてしょうがない。どうしたらいいのかと考えあぐねていると、ふとボンネットの向こうの暗闇に、対向車線のライトによって乗馬倶楽部の看板が浮かび上がった。
そういえばここは僕が中学生の頃……夏休みに乗馬を習うために通った場所だ。
汗ばんだ躰とカラカラに乾いた喉を潤したくて、よく足を運んだ水飲み場。あそこに湧き水はまだあるだろうか。躰の記憶だけを頼りに僕は行く。
昔の記憶通りにその場所にはちゃんと湧き水があり、手に掬ってみると水はひんやりと冷たく心地良くかった。
水はざわついた心を清めるようにどこまでも澄んでいた。
けれども、重かった。
月明りを浴びた自分の胸元を確認すると……案じていた通り、くっきりとそれは付いてしまっていた。まるで所有の証のように色鮮やかに、惜しみなく。
「うっ……これは……」
こんなキスマークをつけたままKaiくんに会えないよ。どうしたらいい?
Kaiくんは駅で僕を待っているのに……僕のためにわざわざ日本にまで来てくれたのに。
****
遠くの街灯の灯りが微かに届く程度なので、辺りはとても薄暗い。
停車している車の窓から必死に中を覗くが姿が見えなかった。
「松本さん!」
返事はない。一体何処へ?
「洋っ、優也さんは中にいないのか」
「あぁでもきっと近くにいると思う」
「どこだ?俺には此処が何処だかさっぱり分からないよ」
「あ……もしかしたら……ちょっと待って」
落ち着いて……耳を澄ませ、目を凝らせ。
ぬかるんだ足元の土に、松本さんの足跡を見つけることが出来た。
一つは車道へもう一つは乗馬倶楽部の中へと続いていた。
目を閉じて、今の松本さんの気持ちに想いを重ねていく。
そうだ、確かこの先には。
さらに遠い昔の記憶を蘇らせていくと……暑い夏の日、汗だくで乗馬のレッスンを終えた俺は、いつもこの先の湧き水が出る場所へと足を運んだ。ひんやりとした湧き水がすっと喉を通る時、爽快な気持ちになった。
きっとまだあるはずだ。
そこに松本さんがいるはずだ。
「Kaiこっちだ。きっと!」
「何か当てがあるのか」
「分からないが、そんな気がするから、ついて来て!」
乗馬倶楽部はもう営業時間を終えていたので入り口から奥の小路の街灯は消され、辺りは真っ暗だった。
ただ一筋の光を除いては。
空から舞い降りる月光の光を道標に、俺たちはひたすらに走った。
確かここを曲がって……あの草むらの先だ!
それは分かっているのに、躰が震えて動かない。
何もなかったし翔とのことにやっと決着がついたのに何故……
いや…その理由を僕は分かっている。今さっき翔が触れていった躰が気持ち悪かった。あんなにも躰を重ねた相手なのに、さっき口づけされ躰を舐めまわされた時、心が凍るように怖かったし嫌悪感で一杯になってしまった。
もう僕の躰は翔を受け入れられないと実感した。
無性に躰を洗いたくてしょうがない。どうしたらいいのかと考えあぐねていると、ふとボンネットの向こうの暗闇に、対向車線のライトによって乗馬倶楽部の看板が浮かび上がった。
そういえばここは僕が中学生の頃……夏休みに乗馬を習うために通った場所だ。
汗ばんだ躰とカラカラに乾いた喉を潤したくて、よく足を運んだ水飲み場。あそこに湧き水はまだあるだろうか。躰の記憶だけを頼りに僕は行く。
昔の記憶通りにその場所にはちゃんと湧き水があり、手に掬ってみると水はひんやりと冷たく心地良くかった。
水はざわついた心を清めるようにどこまでも澄んでいた。
けれども、重かった。
月明りを浴びた自分の胸元を確認すると……案じていた通り、くっきりとそれは付いてしまっていた。まるで所有の証のように色鮮やかに、惜しみなく。
「うっ……これは……」
こんなキスマークをつけたままKaiくんに会えないよ。どうしたらいい?
Kaiくんは駅で僕を待っているのに……僕のためにわざわざ日本にまで来てくれたのに。
****
遠くの街灯の灯りが微かに届く程度なので、辺りはとても薄暗い。
停車している車の窓から必死に中を覗くが姿が見えなかった。
「松本さん!」
返事はない。一体何処へ?
「洋っ、優也さんは中にいないのか」
「あぁでもきっと近くにいると思う」
「どこだ?俺には此処が何処だかさっぱり分からないよ」
「あ……もしかしたら……ちょっと待って」
落ち着いて……耳を澄ませ、目を凝らせ。
ぬかるんだ足元の土に、松本さんの足跡を見つけることが出来た。
一つは車道へもう一つは乗馬倶楽部の中へと続いていた。
目を閉じて、今の松本さんの気持ちに想いを重ねていく。
そうだ、確かこの先には。
さらに遠い昔の記憶を蘇らせていくと……暑い夏の日、汗だくで乗馬のレッスンを終えた俺は、いつもこの先の湧き水が出る場所へと足を運んだ。ひんやりとした湧き水がすっと喉を通る時、爽快な気持ちになった。
きっとまだあるはずだ。
そこに松本さんがいるはずだ。
「Kaiこっちだ。きっと!」
「何か当てがあるのか」
「分からないが、そんな気がするから、ついて来て!」
乗馬倶楽部はもう営業時間を終えていたので入り口から奥の小路の街灯は消され、辺りは真っ暗だった。
ただ一筋の光を除いては。
空から舞い降りる月光の光を道標に、俺たちはひたすらに走った。
確かここを曲がって……あの草むらの先だ!
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