深海 shinkai(改訂版)

志生帆 海

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出逢いの章

集う想い 10

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 優也さん視点です。

****

 翌日の午後、洋くんはKaiくんを迎えるために東京へ帰って行った。

 駅まで送った帰り道、姉と車の中で改めて話した。

「はぁ~姉さんうっとりしちゃった。洋くんって、すごく綺麗な子だったわね」
「……彼は特別だよ」
「そっかそうよね。ねぇ優也、実はね私はずっと昔に彼と会ったことあるのよ」
「どういう意味?今回が初めてじゃなかったの?」
「あのね、覚えている?あなたが中学生の時、夏に駅の近くの乗馬学校に通わされたこと」
「あぁ僕は行きたくないのに、姉さんに連れられて行ったよね」
「ふふっそうそう、あの頃のあなた可愛かったわよね。私の自慢の弟だったわ。でもそこで弟がこの世で一番可愛いと思っていた私に青天の霹靂が起きたのよ。馬に乗る洋くんを見かけたの。まだ彼は小学生だったわ」
「えっ驚いた!そんな偶然!」
「でしょ。でもそのお陰で私はブラコンにならないで済んだし、今日洋くんをあなたの元へ導いてあげることができたってわけよ」
「ふぅ……姉さんには敵わないな。そっか※袖振り合うも多生の縁っていうのかな」
「うん?」

 もともと洋くんには、どこか謎めいたところがあった。それにKaiくんが以前ちらっと話していたことがひっかかていた。

(俺と洋の関係?一言では言えないけど、大昔から俺は洋を守るように頼まれてきたっていうのかな。前世からの縁みたいなものがあるって感じかな)

 ならば僕にもささやかだけど、こうやって洋くんに助けられる縁があったのかもしれない。

 本当に人生において、人はいろいろな人と出逢う。
 大勢の中から出逢うのには、やはり縁がある。

 薄くても濃くてもかすった程度でも、その縁を無下に簡単に自分勝手に断ち切ってはいけない。姉が繋いでくれた縁は、僕にとって大切な意味を持っていたのだから。

 家に戻ると姉が夕食の支度を始めたので僕も手伝った。結婚した姉は姓こそ変わったが相変わらず実家の仕事や家事を手伝ってくれているので、頼もしい存在だ。

「あら?スマホにメール届いたみたいよ。もしかして洋くんからじゃない?」
「本当?ありがとう」

 急いで確かめると、やはり洋くんからだった。



 松本さん。

 今Kaiを東京駅のホームで見送りました。
 新幹線『はくたか573号』に乗ったので軽井沢駅に19時10分着です。
 ぜひ駅の改札まで迎えをお願いします!



 いよいよだ。Kaiくんが僕なんかのために軽井沢まで来てくれる。

「姉さんごめん。今からちょっと出かけて来てもいい?」
「こんな時間に?」
「うん、新幹線の駅まで迎えに行ってもいい?その……彼が来てくれるから」
「あぁなるほどね」

 洋くんが軽井沢まで来てくれて本当に良かった。彼に翔との過去をすべて話してしまうと、とても心が軽くなった。洋くんは慈悲深い目で、静かに僕の話を受け入れてくれた。

 何も意見せず否定せず同情せず、ただ過去は過去だと、翔との愛も一つの愛だったと言ってくれた。そして今自分がどう動くかで変わって来るのが未来だとも。最後に共に前進しようと言ってくれた。

 話し終えると、前に進みたい気持ちが堰を切ったように溢れ出した。

 だから姉さんに打ち明けられたんだ。Kaiくんとのことを、すべて理解して欲しくて。

「ふぅ全くしょうがないわね。いいわよね。でもまぁ女の子にとられるよりいいかも。実は父さんがあんなに理解があるのは想定外だったけど、まぁよかったわよね。さぁ行って此処に連れていらっしゃい。あなたの大事な人を姉さんがよく見定めてあげるから」

「姉さん……本当に理解してくれてありがとう!僕少し早めに行って駅で待つよ。待ちきれないから」
「はいはい、気を付けてね」

 まだ到着まで随分あるのに、待ちきれなくて、家を飛び出した。

 Kaiくん、早く会いたい!
 今度こそ自分から飛び込もう!
 君と歩みたい、そう願い出よう!

※道で人と袖を触れあうようなちょっとしたことでも、前世からの因縁によるものだ。[補説]「多生」は、仏語で、何度も生まれ変わること。
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