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出逢いの章
集う想い 7
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「えっ洋くんがなんで……」
松本さんは、俺を見た途端に目を丸くした。それもそうだろう、行先を誰にも知らせずに帰国したはずなのに、ここにいきなり俺が現れるなんて。
「……どうして?」
そのまま言葉が出ないようだ。明らかに動揺している松本さんの姿に居たたまれなくなった。そんな俺たちの様子を、お姉さんが心配そうにチラチラと見つめていた。
「優也、居間にあがっていただいたら?」
「あっあの……松本さんと少し散歩しながら話してからでも良いですか」
「そうなの?じゃああとで必ずね」
Kaiのことを話すので、まずは二人きりで、その方がよいと思った。俺は松本さんのことをまだ何も知らない。どこまで家族に話しているのか分からない。だから出来るだけ慎重に接していこう。
****
「驚いたよ。洋くんが何でここに?あのどうして此処を?」」
「あっあのそれはKaiから連絡をもらって」
「えっKaiくんが?」
松本さんはきまりの悪そうな曇った表情になってしまった。
「そうか……Kaiくんに連絡しなくちゃと思っていたんだ。実はずっと母が危篤状態で、今日やっと意識が回復して一息つけたところなんだ」
「なるほど……そういう事情だったのですね。大変な時にすいません。Kaiもアメリカから随分心配していました。急に松本さんと連絡取れなくなったと焦ってあちこち調べて、それで日本に帰国したみたいだから居場所を知らないかって連絡が来て。あの……それで俺、先に謝らないといけないことがあって」
「一体何を?」
「すいません。勝手なことをしてしまって。実は松本さんが日本で以前勤めていた会社のことを覚えていたので、本社を訪ねて……」
ここまで一気に話すと、松本さんは小さな溜息を洩らした。
「そうか、やっぱり洋くんも僕のことを翔に聞いたんだね」
「翔って……東谷さんのことですか」
「そう。実家のことは翔しか知らないから。でもどうして翔はソウルの俺の居場所まで知っていたのか」
思いつめた暗い表情。独り言のように呟く松本さんの横顔は何かに怯え、何かを悔やんでいるように見えた。
「姉に、僕のソウルの居場所を探し出せたのは翔に聞いたからだと言われて驚いた。何故、翔は今頃になって僕を探したりするんだか」
咄嗟に人事部で齋藤さんという人に会った時のことを思い出した。
東谷翔という人物は、松本さんの会社の同期で親友でソウルでの居場所を探し当てたと言っていた。それって本当にただの友人なのか。それとも……
「でも洋くん。こんな所まで来てくれて嬉しいよ。軽井沢は空気が澄んでいるだろう。ほら、星や月が都会と違って綺麗に見えるんだ」
まるで話を反らすように夜空を見上げた松本さんの横顔は、凛としていた。それはまるで何か大きな覚悟を決めたかのような決意が見え隠れしているようだった。
小さな溜息と共に、松本さんがくるりとこちらを振り向いた。
すっかり辺りが暗くなり、夜風に松本さんの黒髪が揺れていた。黒く長い睫毛に縁どられたカイトくんによく似た黒目がちな目が、微かに潤んでいるようにも見えた。
「洋くん、少しだけ僕の話を聞いてくれるかな。ただ聞いてくれればいいから」
「はい」
「東谷 翔……翔はね、僕の……別れた恋人なんだよ」
松本さんは、俺を見た途端に目を丸くした。それもそうだろう、行先を誰にも知らせずに帰国したはずなのに、ここにいきなり俺が現れるなんて。
「……どうして?」
そのまま言葉が出ないようだ。明らかに動揺している松本さんの姿に居たたまれなくなった。そんな俺たちの様子を、お姉さんが心配そうにチラチラと見つめていた。
「優也、居間にあがっていただいたら?」
「あっあの……松本さんと少し散歩しながら話してからでも良いですか」
「そうなの?じゃああとで必ずね」
Kaiのことを話すので、まずは二人きりで、その方がよいと思った。俺は松本さんのことをまだ何も知らない。どこまで家族に話しているのか分からない。だから出来るだけ慎重に接していこう。
****
「驚いたよ。洋くんが何でここに?あのどうして此処を?」」
「あっあのそれはKaiから連絡をもらって」
「えっKaiくんが?」
松本さんはきまりの悪そうな曇った表情になってしまった。
「そうか……Kaiくんに連絡しなくちゃと思っていたんだ。実はずっと母が危篤状態で、今日やっと意識が回復して一息つけたところなんだ」
「なるほど……そういう事情だったのですね。大変な時にすいません。Kaiもアメリカから随分心配していました。急に松本さんと連絡取れなくなったと焦ってあちこち調べて、それで日本に帰国したみたいだから居場所を知らないかって連絡が来て。あの……それで俺、先に謝らないといけないことがあって」
「一体何を?」
「すいません。勝手なことをしてしまって。実は松本さんが日本で以前勤めていた会社のことを覚えていたので、本社を訪ねて……」
ここまで一気に話すと、松本さんは小さな溜息を洩らした。
「そうか、やっぱり洋くんも僕のことを翔に聞いたんだね」
「翔って……東谷さんのことですか」
「そう。実家のことは翔しか知らないから。でもどうして翔はソウルの俺の居場所まで知っていたのか」
思いつめた暗い表情。独り言のように呟く松本さんの横顔は何かに怯え、何かを悔やんでいるように見えた。
「姉に、僕のソウルの居場所を探し出せたのは翔に聞いたからだと言われて驚いた。何故、翔は今頃になって僕を探したりするんだか」
咄嗟に人事部で齋藤さんという人に会った時のことを思い出した。
東谷翔という人物は、松本さんの会社の同期で親友でソウルでの居場所を探し当てたと言っていた。それって本当にただの友人なのか。それとも……
「でも洋くん。こんな所まで来てくれて嬉しいよ。軽井沢は空気が澄んでいるだろう。ほら、星や月が都会と違って綺麗に見えるんだ」
まるで話を反らすように夜空を見上げた松本さんの横顔は、凛としていた。それはまるで何か大きな覚悟を決めたかのような決意が見え隠れしているようだった。
小さな溜息と共に、松本さんがくるりとこちらを振り向いた。
すっかり辺りが暗くなり、夜風に松本さんの黒髪が揺れていた。黒く長い睫毛に縁どられたカイトくんによく似た黒目がちな目が、微かに潤んでいるようにも見えた。
「洋くん、少しだけ僕の話を聞いてくれるかな。ただ聞いてくれればいいから」
「はい」
「東谷 翔……翔はね、僕の……別れた恋人なんだよ」
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