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出逢いの章
集う想い 1
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優也と通訳仕事の同僚で二人の恋の背中を押してくれた崔加 洋は、あれから恋人の張矢 丈と共にソウルの家を引き払い、日本へと戻っていた。
****
日本・北鎌倉 丈と洋の家
俺は恋人の実家でもある北鎌倉の寺で、通訳と翻訳の仕事をしながら心穏やかに暮らしている。そして七夕の日には、丈の家族に受け入れられたお陰で、彼の家の戸籍への入籍を控えていた。
今日も新居のリフォームの打ち合わせをしているとスマホに国際電話がかかってきた。
相手はソウルで出来た親友のKaiだった。たしか今出張でアメリカにいるはずなのに、わざわざ日本にまで掛けてくるなんて何か急用だろうか。不安を感じながら応答した。
****
「もしもし洋か…」
やはり電話はKaiだった。だがいつもの明るく陽気な様子とは少し違って、焦って不安そうな低い声のトーンだった。なんだろう?嫌な胸騒ぎがする。
「Kaiちょうど電話しようと思っていたところだ。どうした?」
「ん……あのさ、いや…」
何かを言いかけてKaiは無言になってしまった。その沈黙が重たく感じた。
「どうした?まだアメリカなのか」
「あぁそうなんだ。仕事が結構長引いてさ。それより洋の方は元気か。日本に帰国して上手くやってるか」
「うん、信じられないくらい平和な日々だよ。それよりKai、俺に何か用事があったんじゃないか」
「そうなんだ。実は優也さんと連絡が取れないのが気になって」
「松本さんと?ソウルにいるはずじゃ」
「そのはずなんだけど、ニューヨークに行く日に見送ってくれて、その時は寂しそうにしていたけど特に変わった様子もなかったのに、ここ数日全く連絡がなくて。離れていてもいつもメールは欠かさないマメな人なのに」
「それで?」
「で、しびれを切らしてソウルに電話して優也さんの様子を聞いたらさ、自ら休暇を願い出て、仕事をずっと休んでるいるって」
「え?休暇なんて仕事熱心な松本さんが珍しいね。Kaiもいないのに一体何処へ」
「だろ?そう思うだろ。気になってさ、本当は今すぐにでもソウルに戻って探したいのに、くそっ仕事が次から次へと入って来て、帰れなくてもどかしいよ」
「そうか」
「なぁなんか悪いことじゃないよな?日本でなんかあったとかさ」
「日本で?」
「いや、だってさ優也さんには、ソウルで俺達以上の親しい知り合いなんていなかったし、数少ない知人に聞いても皆行先を知らないって言うし。だとしたら日本に戻ったのかとか思うだろう、普通は」
「そうだね、確かにその通りだ」
「洋はさ、優也さんの日本での連絡先とか知らないか」
「え?俺はソウルで松本さんと出会ったから、日本でのことなんて何も聞いてなかったよ」
「うっやっぱりそうか。なぁ何か少しでもヒントになりそうなことないか」
しょぼんとトーンダウンしていくKaiの様子が悲し気で、何とかしてあげたくなった。必死に記憶の糸を辿ってみると、一つだけ思い出したことがあった。
「そういえば、松本さんが前にいた会社のことなら、聞いたことがあったような」
「本当か?お願いだ!そこ調べてくれないか」
「いいよ、調べてみる。何か分かるかもしれないしな」
確か松本さんが日本で勤めていた会社は「ラン・インターナショナル」という、大手の通訳・翻訳・国際会議サービス会社だったはずだ。何かの拍子でちらっと耳にした程度だが、俺がソウルで契約していたエージェントの親会社だったので覚えている。
「頼むよ!洋、何か分かったらすぐに連絡くれ」
「あぁ分かった」
通話を終えると、すぐに丈と目が合った。少し心配そうな表情を浮かべていることに気付き、また俺は余計なことをしてしまったのかとも思った。
だが何度も俺を助けてくれ、サポートしてくれたKaiのことだ。俺も何かしてあげたい。今までの恩を少しでも返したい。そう思う。
「洋、もういいのか。Kaiは何て?」
「ん、松本さんの居場所を探しているそうだよ。もしかして日本に帰国しているかもしれないから、調べて欲しいって」
「それで、見当がつくのか」
「松本さんが日本で勤めていた会社を知っているから、そこに行ってみようかと」
「洋、あまり無茶するなよ。ただでさえお前はトラブルに巻き込まれやすいのだから」
「分かってるよ」
松本さんはなんとなく日本にいるような気がしている。明日になったらすぐに探してみよう。松本さんの行方を……Kaiの幸せのためにも。
※いつも「深海」を読んでくださってありがとうございます。こちらの話に出て来る丈と洋CPは連載中の『重なる月』のメインCPです。単独で分かるように書いていきますが、一応お断りを……
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日本・北鎌倉 丈と洋の家
俺は恋人の実家でもある北鎌倉の寺で、通訳と翻訳の仕事をしながら心穏やかに暮らしている。そして七夕の日には、丈の家族に受け入れられたお陰で、彼の家の戸籍への入籍を控えていた。
今日も新居のリフォームの打ち合わせをしているとスマホに国際電話がかかってきた。
相手はソウルで出来た親友のKaiだった。たしか今出張でアメリカにいるはずなのに、わざわざ日本にまで掛けてくるなんて何か急用だろうか。不安を感じながら応答した。
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「もしもし洋か…」
やはり電話はKaiだった。だがいつもの明るく陽気な様子とは少し違って、焦って不安そうな低い声のトーンだった。なんだろう?嫌な胸騒ぎがする。
「Kaiちょうど電話しようと思っていたところだ。どうした?」
「ん……あのさ、いや…」
何かを言いかけてKaiは無言になってしまった。その沈黙が重たく感じた。
「どうした?まだアメリカなのか」
「あぁそうなんだ。仕事が結構長引いてさ。それより洋の方は元気か。日本に帰国して上手くやってるか」
「うん、信じられないくらい平和な日々だよ。それよりKai、俺に何か用事があったんじゃないか」
「そうなんだ。実は優也さんと連絡が取れないのが気になって」
「松本さんと?ソウルにいるはずじゃ」
「そのはずなんだけど、ニューヨークに行く日に見送ってくれて、その時は寂しそうにしていたけど特に変わった様子もなかったのに、ここ数日全く連絡がなくて。離れていてもいつもメールは欠かさないマメな人なのに」
「それで?」
「で、しびれを切らしてソウルに電話して優也さんの様子を聞いたらさ、自ら休暇を願い出て、仕事をずっと休んでるいるって」
「え?休暇なんて仕事熱心な松本さんが珍しいね。Kaiもいないのに一体何処へ」
「だろ?そう思うだろ。気になってさ、本当は今すぐにでもソウルに戻って探したいのに、くそっ仕事が次から次へと入って来て、帰れなくてもどかしいよ」
「そうか」
「なぁなんか悪いことじゃないよな?日本でなんかあったとかさ」
「日本で?」
「いや、だってさ優也さんには、ソウルで俺達以上の親しい知り合いなんていなかったし、数少ない知人に聞いても皆行先を知らないって言うし。だとしたら日本に戻ったのかとか思うだろう、普通は」
「そうだね、確かにその通りだ」
「洋はさ、優也さんの日本での連絡先とか知らないか」
「え?俺はソウルで松本さんと出会ったから、日本でのことなんて何も聞いてなかったよ」
「うっやっぱりそうか。なぁ何か少しでもヒントになりそうなことないか」
しょぼんとトーンダウンしていくKaiの様子が悲し気で、何とかしてあげたくなった。必死に記憶の糸を辿ってみると、一つだけ思い出したことがあった。
「そういえば、松本さんが前にいた会社のことなら、聞いたことがあったような」
「本当か?お願いだ!そこ調べてくれないか」
「いいよ、調べてみる。何か分かるかもしれないしな」
確か松本さんが日本で勤めていた会社は「ラン・インターナショナル」という、大手の通訳・翻訳・国際会議サービス会社だったはずだ。何かの拍子でちらっと耳にした程度だが、俺がソウルで契約していたエージェントの親会社だったので覚えている。
「頼むよ!洋、何か分かったらすぐに連絡くれ」
「あぁ分かった」
通話を終えると、すぐに丈と目が合った。少し心配そうな表情を浮かべていることに気付き、また俺は余計なことをしてしまったのかとも思った。
だが何度も俺を助けてくれ、サポートしてくれたKaiのことだ。俺も何かしてあげたい。今までの恩を少しでも返したい。そう思う。
「洋、もういいのか。Kaiは何て?」
「ん、松本さんの居場所を探しているそうだよ。もしかして日本に帰国しているかもしれないから、調べて欲しいって」
「それで、見当がつくのか」
「松本さんが日本で勤めていた会社を知っているから、そこに行ってみようかと」
「洋、あまり無茶するなよ。ただでさえお前はトラブルに巻き込まれやすいのだから」
「分かってるよ」
松本さんはなんとなく日本にいるような気がしている。明日になったらすぐに探してみよう。松本さんの行方を……Kaiの幸せのためにも。
※いつも「深海」を読んでくださってありがとうございます。こちらの話に出て来る丈と洋CPは連載中の『重なる月』のメインCPです。単独で分かるように書いていきますが、一応お断りを……
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