深海 shinkai（改訂版）

出逢いの章

溶けていく心 ３

　

　あれは優しい嘘だった。

　日本にいる時、何度も翔に嘘をつかれた。それは僕を傷つけないように周到に張り巡らされた嘘だった。

　最初は信じていたんだ。

　仕事が忙しい、暫く会えない、連絡も出来なくなるって……本当にそうだと思っていたから、納得してずっと信じて待っていた。だが僕はある日、気が付いてしまった。本当はそうじゃないことを。

　あの頃から、翔の心は僕から離れつつあったのだろう。

　翔は根は優しいからストレートに言えなかったのだろう。

　でも翔……その優しさは裏返せば、とても残酷であることを知っていた？

　嘘は嘘なんだ。

　結局はいつかバレるもの。

　僕は何度もその優しい嘘に騙されてあげた。

　それは、翔のことが好きだったから。

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　Kaiくんに握られた手首が、まだ火照っていた。

　強く逞しい手で、僕をひっぱってくれた。

　僕は深い海の底からぐいっとひきあげられたような、目が覚めるような気持になっていた。今の僕なら、もしも日本で偶然翔と会っても、幸せそうな姿を目の当たりにしても大丈夫そうだ。

　さよなら、翔……僕は前に進むよ。

　だから、もう優しい嘘はいらない。