2 / 116
別れの章
さよならの行方 2
しおりを挟む僕の恋人……翔。
まだそう呼んでもいいか……
翔と出会ったのは入社式の当日だった。
****
「わが国が国際化へと向かう中、ラン・インターナショナルは1960年、日本で初めての国際会議の通訳者グループとして発足。以来、質の高い通訳・翻訳・国際会議サービスを通じて、皆様の国際コミュニケーション活動をサポートしてきました」
社長の単調な挨拶が長々と続いている中、少し退屈になってあくびをかみ殺していると、隣に座っている人も同じ動作をしていた。
ふとお互い目が合うと、ニコっと微笑んで小声で話しかけて来た。
「やぁ!君とは気が合いそうだな、俺、東谷 翔君は?」
唐突に名乗られて少々驚いた。
「松本優也です……」
「へぇ優也っていうのか。同期になったのも何かの縁だ、よろしくな」
「あっうん……」
いきなり呼び捨てにされてドキッとした。男から見てもカッコいいと思う華やかな容姿に明るい笑顔の青年だった。
それに比べて僕は地味で目立たないのに、なんで声を掛けられたのか分からなかった。
その後の研修でも、たまたま同じグループになった。
研修ルームに入ると、すでに翔は何人もの友人を作ったようで輪の中心にいた。皆で楽しそうに笑い合っている。
すぐに中心的人物になれる人って何処にでもいるんだな。
中高・大学でもそういう人は常に存在した。そして僕は、いつもそれを眩しそうに眺めるだけ。
そう思っていたのに……
翔は僕を見つけるなり、その輪から抜け出て来てくれた。僕の目の前に。なんだか、それが嬉しかった。
「あっ君、優也だよな。また一緒だな」
「……そうだね」
何故か翔は僕の顔を覗きこんでじっと黙り込んだ。
「な……何か?」
「君ってさ、なんかいいよね」
「えっ?」
いいって何がいいんだ?そんなことを言われて再びドキッとした。
僕みたいな暗く地味な人間のどこがいいのか、不思議な人だと思った。
入社して数か月……翔は仕事も出来て、通訳として才能も豊かだ。同期の中でもピカイチの才能を誇っている。
テニスの腕がプロ並みという爽やかな男らしい容姿に、女の子がいつもキャーキャーと群がっている。男の友人も沢山出来たようで、本当にキラキラと眩しい存在だ。
知れば知るほど……翔に憧れに似た気持ちを抱くようになった。
その一方、僕は同期の中で誰よりも遅れを取っていて恥ずかしい。井の中の蛙だった。それなりに語学は出来ると自負していたのに、この会社の中では僕くらいのレベルの人間はごまんといる。
「松本、お前はまだこんなミスをするのか!いい加減こんな簡単な議事録一つまともに出来ないでどうするんだ!今日は残業していけ」
「はい、すいません……」
はぁ……今日はせっかく翔に誘われた同期の飲み会だったのに、これじゃ無理だな。本当に頭も要領も悪くて、自分が嫌になる。
暗い部屋で一人残っていると、寂しい気持ちが込み上げてくる。
いつも一人だ。
教室でも家でも……いつもぽつんとひとりだったことを思い出してしまう。それなのに……明るく眩しいものに、いつも惹かれてしまうんだ。
これは僕の悪い癖だ。
10
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
しのぶ想いは夏夜にさざめく
叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。
玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。
世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう?
その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。
『……一回しか言わないから、よく聞けよ』
世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。
【完結】つぎの色をさがして
蒼村 咲
恋愛
【あらすじ】
主人公・黒田友里は上司兼恋人の谷元亮介から、浮気相手の妊娠を理由に突然別れを告げられる。そしてその浮気相手はなんと同じ職場の後輩社員だった。だが友里の受難はこれでは終わらなかった──…
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
幼馴染から離れたい。
June
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。
だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。
βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。
誤字脱字あるかも。
最後らへんグダグダ。下手だ。
ちんぷんかんぷんかも。
パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・
すいません。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
恭介&圭吾シリーズ
芹澤柚衣
BL
高校二年の土屋恭介は、お祓い屋を生業として生活をたてていた。相棒の物の怪犬神と、二歳年下で有能アルバイトの圭吾にフォローしてもらい、どうにか依頼をこなす毎日を送っている。こっそり圭吾に片想いしながら平穏な毎日を過ごしていた恭介だったが、彼には誰にも話せない秘密があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる