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小学生編
冬から春へ 80
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「芽生くん、休み時間なのに外で遊ばないの?」
「あ……先生、今日教室で絵を描こうと思って」
「珍しいわね。いつもなら校庭で皆とサッカーするのに、急にどうしたの?」
「あのね、絵をおくりたい子がいて……」
「そうなのね、小さなお友達かしら?」
「はい、まだ小さいけど、すごくがんばりやさんです」
いっくんは身体は小さいけれども、心は大きいかっこいい男の子だよ。
生まれる前にお父さんがなくなって、小さい頃からお母さんをずっと守ってきたんだ。
ボクもお母さんが消えちゃった時小さかったけれども、お父さんを守ろうと思うことはなかったから、本当にすごいよ。
教えてもらわなくても、ボクには分かる。
いっくんがお母さんを大切に思う気持ちが、心に伝わってくる。
それはボクがお兄ちゃんを思う気持ちと少し似ている。
だからボクといっくんは、とても気が合うんだ。
いっくんといると楽しいし、うれしい。
だからいっくんのお家が火事でなくなったと聞いて、すごく心配したよ。
あんなに大事にしていたサッカーボールも、いっくんの宝箱も全部消えちゃったなんて……ボクに何か出来ることはないかな?
ボクのお家にやってきたいっくんは、すごくがんばっていたけど……
ボクだったら……
「サッカーをしている絵ね。その子ともサッカーするの?」
「はい!」
「一緒に楽しめる相手がいるっていいわね」
「はい!」
休み時間に描いた絵は折れないようにくるんと巻いてランドセルにしまった。
ボクには、いっくんのサッカーボールを買い戻してあげることは出来ないから、せめてボクたちが仲良くサッカーをする絵を届けたいよ。
帰り道、お迎えに来てくれたお兄ちゃんと話した。
「あのね、今日休み時間にいっくんにあげる絵を書いたんだ」
「ちょうど良かった。明日宅急便を出すから一緒に送るよ」
「何をおくるの?」
「うん、芽生くんのお下がりを……いっくんも背が伸びて、前にあげたのは小さくなってしまったからね」
お兄ちゃんは火事で燃えちゃったとは言わなかった。
なぜか、それがうれしかった。
いっくんだって、燃えちゃったと言われると悲しいんじゃないかな。
いっくんは何も悪くないのに、悪いことをした気持ちになるよ。
「芽生くん、どうしたの?」
「あのね、お手紙だけでなくボクの宝物も入れてもいい?」
「もちろんだよ」
家に帰って、お兄ちゃんが持って来たダンボールに、ボクの宝箱の中身を全部入れたよ。
本当は少し勇気がいったよ。
だってボクの宝物だから。
そうしたらお兄ちゃんが、半分取り出してボクに戻してくれた。
「どうして? ボク、お兄ちゃんだから、いっくんに全部あげないと」
お兄ちゃんはニコッと微笑んで、ボクの頭を優しくなでてくれた。
「芽生くんは優しい子だね。でも……芽生くんの宝物を全部もらったら、いっくん……悪いって思ってしまうかも……」
「あ……」
「こんな時はどうしたらいいかな? 芽生くんだったらどうする?」
最近、お兄ちゃんはこういう風に「ボクだったらどうする?」と聞いてくれる。
ボクの考えを大切にしてくれるのがうれしい。
お兄ちゃんのこういう所、大好きだよ。
「えっとね、ボクは本当は全部より『はんぶんこ』がすき!」
「いいね! お兄ちゃんもだよ」
お兄ちゃんはテーブルの上のドーナッツを半分にして渡してくれた。
「1個しかないから、芽生くんと半分こしよう」
「うん! はんぶんこって、全部食べるよりおいしいね」
「芽生くんもそう思う? 僕もだよ」
「絵だけじゃなくて、お手紙もかいてみる」
「言葉をもらうのは最高の贈り物だよ」
「えへへ、そうだ、お兄ちゃんはどんな言葉がすき?」
「え? 僕?」
お兄ちゃんは瞬きを何度かして、遠くを見つめた。
「そうだね、前を向ける言葉かな?」
「前を向ける?」
「ええっと、明日が楽しみになるような言葉が好きだよ」
いっくんにも明日が楽しみになるような言葉をプレゼントしたいな。
言葉はだれでもおくれるプレゼント。
いっくんが笑ってくれる、元気になれる言葉をさがしてみよう!
****
その晩……
「宗吾さん、少し話してもいいですか」
「どうした?」
僕は遅くに帰宅した宗吾さんに話さずにはいられなかった。
芽生くんとの会話を通して、芽生くんの心の成長を感じたことを。
「宗吾さん『半分こ』っていいですね」
「うん?」
「今日、芽生くんがいっくんに自分の宝物を半分あげたいと言ってくれました。我慢して相手に全てを差し出すのは自己犠牲になってしまいますが、半分に分け合うと、お互いが幸せになれますね」
「そうだな。だけどそれってさ、相手にもよるよな。『半分こ』して良かったと思える相手じゃないと、しんどいぞ」
「その通りですね。いっくんと芽生くんには『半分こ』が似合いますね」
「俺と瑞樹にもだ」
「はい」
宗吾さんに抱きしめられる。
深く強く――
「瑞樹、俺にいつも寄り添ってくれてありがとう。君はいつも俺が辛い時に寄り添って、希望を与えてくれる。これからも俺たちは、お互いが歩み寄って、力を合わせていきたい。そのためにも、この先……いろんなことを半分こしていきたい。君は俺の幸せな存在だから」
芽生くんはいっくんに前向きになれる言葉を贈り、僕は宗吾さんから前向きになれる言葉をもらった。
幸せは循環していく。
僕はとても幸せだ。
そのことに感謝しながら、眠りについた。
「あ……先生、今日教室で絵を描こうと思って」
「珍しいわね。いつもなら校庭で皆とサッカーするのに、急にどうしたの?」
「あのね、絵をおくりたい子がいて……」
「そうなのね、小さなお友達かしら?」
「はい、まだ小さいけど、すごくがんばりやさんです」
いっくんは身体は小さいけれども、心は大きいかっこいい男の子だよ。
生まれる前にお父さんがなくなって、小さい頃からお母さんをずっと守ってきたんだ。
ボクもお母さんが消えちゃった時小さかったけれども、お父さんを守ろうと思うことはなかったから、本当にすごいよ。
教えてもらわなくても、ボクには分かる。
いっくんがお母さんを大切に思う気持ちが、心に伝わってくる。
それはボクがお兄ちゃんを思う気持ちと少し似ている。
だからボクといっくんは、とても気が合うんだ。
いっくんといると楽しいし、うれしい。
だからいっくんのお家が火事でなくなったと聞いて、すごく心配したよ。
あんなに大事にしていたサッカーボールも、いっくんの宝箱も全部消えちゃったなんて……ボクに何か出来ることはないかな?
ボクのお家にやってきたいっくんは、すごくがんばっていたけど……
ボクだったら……
「サッカーをしている絵ね。その子ともサッカーするの?」
「はい!」
「一緒に楽しめる相手がいるっていいわね」
「はい!」
休み時間に描いた絵は折れないようにくるんと巻いてランドセルにしまった。
ボクには、いっくんのサッカーボールを買い戻してあげることは出来ないから、せめてボクたちが仲良くサッカーをする絵を届けたいよ。
帰り道、お迎えに来てくれたお兄ちゃんと話した。
「あのね、今日休み時間にいっくんにあげる絵を書いたんだ」
「ちょうど良かった。明日宅急便を出すから一緒に送るよ」
「何をおくるの?」
「うん、芽生くんのお下がりを……いっくんも背が伸びて、前にあげたのは小さくなってしまったからね」
お兄ちゃんは火事で燃えちゃったとは言わなかった。
なぜか、それがうれしかった。
いっくんだって、燃えちゃったと言われると悲しいんじゃないかな。
いっくんは何も悪くないのに、悪いことをした気持ちになるよ。
「芽生くん、どうしたの?」
「あのね、お手紙だけでなくボクの宝物も入れてもいい?」
「もちろんだよ」
家に帰って、お兄ちゃんが持って来たダンボールに、ボクの宝箱の中身を全部入れたよ。
本当は少し勇気がいったよ。
だってボクの宝物だから。
そうしたらお兄ちゃんが、半分取り出してボクに戻してくれた。
「どうして? ボク、お兄ちゃんだから、いっくんに全部あげないと」
お兄ちゃんはニコッと微笑んで、ボクの頭を優しくなでてくれた。
「芽生くんは優しい子だね。でも……芽生くんの宝物を全部もらったら、いっくん……悪いって思ってしまうかも……」
「あ……」
「こんな時はどうしたらいいかな? 芽生くんだったらどうする?」
最近、お兄ちゃんはこういう風に「ボクだったらどうする?」と聞いてくれる。
ボクの考えを大切にしてくれるのがうれしい。
お兄ちゃんのこういう所、大好きだよ。
「えっとね、ボクは本当は全部より『はんぶんこ』がすき!」
「いいね! お兄ちゃんもだよ」
お兄ちゃんはテーブルの上のドーナッツを半分にして渡してくれた。
「1個しかないから、芽生くんと半分こしよう」
「うん! はんぶんこって、全部食べるよりおいしいね」
「芽生くんもそう思う? 僕もだよ」
「絵だけじゃなくて、お手紙もかいてみる」
「言葉をもらうのは最高の贈り物だよ」
「えへへ、そうだ、お兄ちゃんはどんな言葉がすき?」
「え? 僕?」
お兄ちゃんは瞬きを何度かして、遠くを見つめた。
「そうだね、前を向ける言葉かな?」
「前を向ける?」
「ええっと、明日が楽しみになるような言葉が好きだよ」
いっくんにも明日が楽しみになるような言葉をプレゼントしたいな。
言葉はだれでもおくれるプレゼント。
いっくんが笑ってくれる、元気になれる言葉をさがしてみよう!
****
その晩……
「宗吾さん、少し話してもいいですか」
「どうした?」
僕は遅くに帰宅した宗吾さんに話さずにはいられなかった。
芽生くんとの会話を通して、芽生くんの心の成長を感じたことを。
「宗吾さん『半分こ』っていいですね」
「うん?」
「今日、芽生くんがいっくんに自分の宝物を半分あげたいと言ってくれました。我慢して相手に全てを差し出すのは自己犠牲になってしまいますが、半分に分け合うと、お互いが幸せになれますね」
「そうだな。だけどそれってさ、相手にもよるよな。『半分こ』して良かったと思える相手じゃないと、しんどいぞ」
「その通りですね。いっくんと芽生くんには『半分こ』が似合いますね」
「俺と瑞樹にもだ」
「はい」
宗吾さんに抱きしめられる。
深く強く――
「瑞樹、俺にいつも寄り添ってくれてありがとう。君はいつも俺が辛い時に寄り添って、希望を与えてくれる。これからも俺たちは、お互いが歩み寄って、力を合わせていきたい。そのためにも、この先……いろんなことを半分こしていきたい。君は俺の幸せな存在だから」
芽生くんはいっくんに前向きになれる言葉を贈り、僕は宗吾さんから前向きになれる言葉をもらった。
幸せは循環していく。
僕はとても幸せだ。
そのことに感謝しながら、眠りについた。
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