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小学生編
冬から春へ 51
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いっくんの気持ちを、前に引き出してあげたかった。
いっくんがしたいこと、いっくんが嬉しいことを、皆に教えて欲しかった。
宗吾さんから憲吾さんへの連携プレーで、ピカピカの幼稚園バッグが届いた時、今だと思った。
嬉しそうにピカピカのバッグを両手で抱きしめるいっくん。
頬が薔薇色に上気して、可愛い笑窪ができていた。
喜びが滲み出ているね。
本当に君は天使のようだ。
今なら、きっと聞かせてくれる。
いっくんの本当の気持ちを。
僕はいっくんと出逢った時から、自分と近いものを感じていた。
潤んだ瞳、どこか寂しげで不安そうな表情から目が離せなかった。
寂しそうな瞳に、吸い込まれそうだった。
いっくんには、ようやく潤という頼もしいパパが出来のに、自分のことを後回しにして、ぐっと我慢してしまう癖があるのは、すぐに分かった。
まだこんなに小さいのに、本当の心を隠すことを知っているなんて。
あどけない舌足らずのしゃべり方に隠れた、いっくんの本当の心を見つけてあげたいと思った。
僕にはね、いっくんの気持ちが痛い程分かるよ。
僕も小さい時から、常に聞き分けのよい子で、周りに迷惑を掛けないように、自分の気持ちをセーブしてしまう癖があったんだ。
元々……引っ込み思案で内向的な子供だった。
それが悪化したのは、両親と弟を失ってから。
だから函館の母さんと兄さんの気持ちに上手く応えられなくてもどかしかった。
もっと素直に甘えられたら良かったのに、「大丈夫です」「僕はいいです」が口癖になってしまった。
ずっと僕は幸せになってはいけない気がしていた。僕よりも、周りの人に幸せになって欲しいと願っていた。
それはおそらく、いっくんも同じ。とにかく一番はママに幸せになって欲しくて、ここまで頑張ってきたのだろう。
僕は宗吾さんと出会って、その凝り固まった考えを根気よく時間をかけて解してもらった。
一歩踏み出しては、また一歩下がり……
まだ完璧ではないが、前よりもずっと積極的になれているよ。
だから今度は、僕が動く番だ。
いっくんの心を、少しずつ解してあげたい!
いっくんを促すと、おずおずと口に出してくれた。
「あのね……あのね……いっくん、ようちえんにいってみたいの」
「よし! 言えたね。そうだよ、君は明日から幼稚園に通うんだよ」
「えぇ?」
「ほら、かけてごらん」
「うん! わぁぁ、いっくん、かっこいい?」
「あぁ、とてもカッコいいよ」
いっくんは満面の笑みで、幼稚園バッグをかけたまま、くるりとまわった。
その可愛い動きに、宗吾さんも憲吾さんも菫さんも、満面の笑みを浮かべた。
「ママぁ、ママぁ、いっくん、どう?」
「いっくん、すごく似合ってるわ。ピカピカね」
「えへへ、あのね、いっくん、せいふくもきてみたいなぁ」
あっ! また、いっくんがしたいことを言ってくれた。
「おぅ、待ってろ。芽生の制服ならクリーニングに出して取ってあるぞ。瑞樹、あれはどこにしまったかな?」
「寝室のクローゼットです」
「よし、取ってくる!」
一気に活気づいてきた。
それにしても芽生くんが卒園した後、クリーニングに出しておいて良かったな。宗吾さんは処分するつもりだったが、僕は「思い出が詰まっているので、取っておきましょう」と言ってしまった。
当時は差し出がましいことをしたかと案じたが、まさかこんな風に役立つとは――
「あったぞ~ いっくん」
「わぁ、そーくん、ありがとう。ママぁ、ママぁ、きせて」
「いいわよ」
いっくん、ママにいっぱい甘えられて良かったね。
気付くと憲吾さんが必死になって槙くんをあやしていた。
「ほら、槙くん、高い高いだ」
「きゃっきゃっ」
「ぞうさんすべりだいだぞ」
「わー」
ドタンバタンと背広姿で必死に相手をしてくれている。
槙くんはやんちゃで大変なのに、憲吾さんって、最近ますます素敵だな。
「よいちょ、よいちょ、わー きれたよぅ」
芽生くんのお古の制服は、いっくんには少し大きかったけれども、そのぶかぶかな感じが、いっくんのふわりとしたキャラを引き立てているように見えた。
「どうかなぁ?」
「いっくん、すごく、かわいいわ。幼稚園に通うのって、こんな感じなのね。今すぐパパに見せてあげたいな」
「あ、それなら僕が撮ります」
菫さんといっくんを撮影した。
いっくんはママに優しく手をつながれ、恥ずかしそうに俯いていたが、僕が「顔をあげてごらん。パパに見せてあげよう」と声を掛けると、ニコッと笑ってくれた。
晴れやかな、まるで入園式のような良い写真が撮れた。
軽井沢で奮闘する潤に、とっておきのビタミン剤になるね。
子供の笑顔って、最高だ!
いっくんの笑顔に、芽生くんの幼稚園時代の姿が重なった。
「おにいちゃん、おにいちゃん、だっこぉ」
僕と出会った頃の、可愛い、あどけない芽生くんのことを。
そして今、すくすくと成長している芽生くんの笑顔も一緒に浮かんだ。
今もずっと、僕の天使――
いっくんがしたいこと、いっくんが嬉しいことを、皆に教えて欲しかった。
宗吾さんから憲吾さんへの連携プレーで、ピカピカの幼稚園バッグが届いた時、今だと思った。
嬉しそうにピカピカのバッグを両手で抱きしめるいっくん。
頬が薔薇色に上気して、可愛い笑窪ができていた。
喜びが滲み出ているね。
本当に君は天使のようだ。
今なら、きっと聞かせてくれる。
いっくんの本当の気持ちを。
僕はいっくんと出逢った時から、自分と近いものを感じていた。
潤んだ瞳、どこか寂しげで不安そうな表情から目が離せなかった。
寂しそうな瞳に、吸い込まれそうだった。
いっくんには、ようやく潤という頼もしいパパが出来のに、自分のことを後回しにして、ぐっと我慢してしまう癖があるのは、すぐに分かった。
まだこんなに小さいのに、本当の心を隠すことを知っているなんて。
あどけない舌足らずのしゃべり方に隠れた、いっくんの本当の心を見つけてあげたいと思った。
僕にはね、いっくんの気持ちが痛い程分かるよ。
僕も小さい時から、常に聞き分けのよい子で、周りに迷惑を掛けないように、自分の気持ちをセーブしてしまう癖があったんだ。
元々……引っ込み思案で内向的な子供だった。
それが悪化したのは、両親と弟を失ってから。
だから函館の母さんと兄さんの気持ちに上手く応えられなくてもどかしかった。
もっと素直に甘えられたら良かったのに、「大丈夫です」「僕はいいです」が口癖になってしまった。
ずっと僕は幸せになってはいけない気がしていた。僕よりも、周りの人に幸せになって欲しいと願っていた。
それはおそらく、いっくんも同じ。とにかく一番はママに幸せになって欲しくて、ここまで頑張ってきたのだろう。
僕は宗吾さんと出会って、その凝り固まった考えを根気よく時間をかけて解してもらった。
一歩踏み出しては、また一歩下がり……
まだ完璧ではないが、前よりもずっと積極的になれているよ。
だから今度は、僕が動く番だ。
いっくんの心を、少しずつ解してあげたい!
いっくんを促すと、おずおずと口に出してくれた。
「あのね……あのね……いっくん、ようちえんにいってみたいの」
「よし! 言えたね。そうだよ、君は明日から幼稚園に通うんだよ」
「えぇ?」
「ほら、かけてごらん」
「うん! わぁぁ、いっくん、かっこいい?」
「あぁ、とてもカッコいいよ」
いっくんは満面の笑みで、幼稚園バッグをかけたまま、くるりとまわった。
その可愛い動きに、宗吾さんも憲吾さんも菫さんも、満面の笑みを浮かべた。
「ママぁ、ママぁ、いっくん、どう?」
「いっくん、すごく似合ってるわ。ピカピカね」
「えへへ、あのね、いっくん、せいふくもきてみたいなぁ」
あっ! また、いっくんがしたいことを言ってくれた。
「おぅ、待ってろ。芽生の制服ならクリーニングに出して取ってあるぞ。瑞樹、あれはどこにしまったかな?」
「寝室のクローゼットです」
「よし、取ってくる!」
一気に活気づいてきた。
それにしても芽生くんが卒園した後、クリーニングに出しておいて良かったな。宗吾さんは処分するつもりだったが、僕は「思い出が詰まっているので、取っておきましょう」と言ってしまった。
当時は差し出がましいことをしたかと案じたが、まさかこんな風に役立つとは――
「あったぞ~ いっくん」
「わぁ、そーくん、ありがとう。ママぁ、ママぁ、きせて」
「いいわよ」
いっくん、ママにいっぱい甘えられて良かったね。
気付くと憲吾さんが必死になって槙くんをあやしていた。
「ほら、槙くん、高い高いだ」
「きゃっきゃっ」
「ぞうさんすべりだいだぞ」
「わー」
ドタンバタンと背広姿で必死に相手をしてくれている。
槙くんはやんちゃで大変なのに、憲吾さんって、最近ますます素敵だな。
「よいちょ、よいちょ、わー きれたよぅ」
芽生くんのお古の制服は、いっくんには少し大きかったけれども、そのぶかぶかな感じが、いっくんのふわりとしたキャラを引き立てているように見えた。
「どうかなぁ?」
「いっくん、すごく、かわいいわ。幼稚園に通うのって、こんな感じなのね。今すぐパパに見せてあげたいな」
「あ、それなら僕が撮ります」
菫さんといっくんを撮影した。
いっくんはママに優しく手をつながれ、恥ずかしそうに俯いていたが、僕が「顔をあげてごらん。パパに見せてあげよう」と声を掛けると、ニコッと笑ってくれた。
晴れやかな、まるで入園式のような良い写真が撮れた。
軽井沢で奮闘する潤に、とっておきのビタミン剤になるね。
子供の笑顔って、最高だ!
いっくんの笑顔に、芽生くんの幼稚園時代の姿が重なった。
「おにいちゃん、おにいちゃん、だっこぉ」
僕と出会った頃の、可愛い、あどけない芽生くんのことを。
そして今、すくすくと成長している芽生くんの笑顔も一緒に浮かんだ。
今もずっと、僕の天使――
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