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小学生編

母の日番外編🍓ストロベリーホイップ③🌹

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「よし、芽生行くぞ」
「うん!」

 瑞樹のいる加々美花壇のテントに向かって歩き出すと、向こうも気付いてくれたようだ。

 瑞樹が、彼特有のはにかんだ笑顔を浮かべてくれた。

 頬が薔薇色に上気しているのは、初夏の陽気の中、あくせくと働いていたせいか。それとも俺に会えたからか。

 後者だといいな。

 あの可愛い笑顔は、何度見ても飽きない。

 もっともっと見せて欲しくなる。

 昔、瑞樹がまだ前の彼と付き合っていた頃、俺はいつも幼稚園のバス停から通り過ぎていく横顔を眺めていた。

 ずっと憧れていた。

 俺もいつか彼らのように朝日が似合う日溜まりのような恋をしたいと。

 瑞樹の清純な笑顔を見る度に、かっこつけて何事も本気で向き合わず中途半端に生きてきたことを反省したよ。

 そんな彼が、今は俺だけを見てくれている。
 
 それが嬉しくて、それが幸せで

 俺も自然と笑顔になる。

「瑞樹! まだ残っているか」
「お兄ちゃん、カーネーション買いに来たよー」
「宗吾さん、芽生くん、本当に来てくれたのですね」
「当たり前さ! 今日は君が働く姿を堂々と見られるチャンスだからな」

 ん? 瑞樹の頬、やっぱり赤いな。
 まさか熱でもあるのでは?
 それとも日焼けしたのか。
 最近忙しかったから疲れが出たのでは?
 心配だ。

「どうした? 顔が赤いぞ」
「え? あ……いえ……小森くんの予言にも影響が出る程なのは、どうしたものかと……」
「なんの話だ?」
「実はさっき小森くんが立ち寄ってくれて、このカーネーションを買いにくる人は『へ』がつく人だと予言してくれたのですが、僕は『へ』という苗字が全然浮かばなかったんです。そこに宗吾さんが登場したので、なるほどと……」

 なるほど! 

 『へ』は『ヘンタイ』の『へ』か!

 わはは!

 どうやら【俺=ヘンタイ】で定着しているらしい。

 小森くんもやるなぁ。

 ヘンタイ呼ばわりされても、瑞樹に関しては重々自覚があるので、逆にホクホクしてしまった。

 やっぱり俺はヘンタイか!

「あの……僕は心配です。宗吾さんが誰からもヘンタ……と思われてしまうのは……」
「ううん、ちがうよ。あのね『へ』は、きっとこれだよ」

 横に立っていた芽生がリュックから白い封筒を取り出して、瑞樹に渡した。

「お兄ちゃん、これでこのカーネーション買えるかなぁ」
「これは?」
「えへへ、ボクのへそくりだよ。だから『へ』は『へそくり』の『へ』なんだと」
「へそくり!」

 瑞樹と顔を見合わせて笑ってしまった。

 今時の子供でも、へそくりをするのか。

 しかし、また古めかしい言葉を……

 きっと母さんが教えたのだろう。

「芽生くんのへそくりで買ってくれるなんて、感激だよ」
「あのね、おばあちゃんが教えてくれたの。大切な人へのおくりものを、こっそりためる方法を」
「芽生くん……そんな大切なお金を使ってくれるんだね。ありがとう。今、ラッピングするね。きっと……ママも喜んでくれるよ」

 瑞樹が少しだけ寂しそうに言うと、芽生がブンブンと頭を横に振った。

「あ、そうじゃなくて……これはね、ママじゃなくてお兄ちゃんにあげるの。母の日ってママじゃなくても、いいよね。 だってボク……今、いっぱいありがとう言いたいのは、お兄ちゃんだよ。日頃のかんしゃの気持ちを伝えたいのは、お兄ちゃんだよ!」

 芽生の言葉に感動した。

 芽生、かっこいいぞ。

 芽生、ちゃんと想いを言葉で伝えられるようになってすごいぞ。

「芽生くん、ありがとう。すごく嬉しいよ。本当に嬉しいよ」

 明るい日差しの中で、瑞樹が泣きそうな顔で笑っていた。

 寂しそうな顔でなく、嬉しくてたまらない顔で笑っていた。

 俺と芽生は赤に白い縁取りの花色のカーネーション鉢を抱えて、一足先に帰ることにした。

「瑞樹、夕飯は作っておくよ。今日は俺たちだけで母の日のパーティーをしよう」
「はい!」


 その晩、芽生と瑞樹の大好きなハンバーグを食べた。

 デザートは苺のショートケーキだ。

「パパぁ、このカーネーション、なんだかショートケーキみたいだね」
「あ、そうか、どこかで見たと思ったら、練乳がけの苺だ! 俺の大好物のさ~」
「そ、宗吾さん、声が大きいです」
「そうかぁ~ 瑞樹、ショートケーキのおかわりはあるか。俺は苺が大好きだ」

 身を乗り出してワクワク聞くと、芽生に呆れられた。

「お兄ちゃん、パパはいちごが好きすぎるよね」
「う、うん」
「パパが食いしん坊でごめんね」
「そんなことないよ」
「あのね……こんなパパだけど……大丈夫かなぁ」
「大丈夫だよ」
「よかった~ パパのこときらわないでね、ちょっとヘンだけど……」
「もちろんだよ。僕も大好きだよ」
「よかった」
「芽生くんも大好きだよ」
「えへへ」

 とろけるような会話だ。

 くすぐったいな。
 
 甘ったるいな。

 日溜まりのようなぽかぽかな会話が延々と繰り広げられていった。

 ショートケーキを並べると、芽生がカーネーションを抱えてやってきた。

「お兄ちゃん、母の日おめでとう。あのね、母の日って、ニコニコの日なんだよ」
「ニコニコ? ははっ! なるほど、そういうことか」
「えへへ、 ボクたちニコニコ家族だから、お祝いをしないとね」
「あぁ、それいいな」
「芽生くん、とても素敵な発想だね。本当にありがとう」

 瑞樹と芽生と俺で笑い合った。

 さぁ、俺たちだけの母の日を祝おう。

 

 芽生、ありがとう!

 おかげでいい母の日になったよ。

 瑞樹、ありがとう!

 芽生をこんなに優しく明るい子に育ててくれて。

 


                        ストロベリーホイップ 了


 次回から本編に戻ります!
 

 

 


 
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