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小学生編
秋色日和 27
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熊のカードが出るといいな。
そういえば、みーくんが小さい時、よく俺が子守りをしたよな。
大樹さんが溺愛するみーくんは、天使みたいに可愛いかった。
赤ちゃんの時は人見知りが激しかったが、2歳を過ぎた頃からは懐いてくれるようになった。
俺は自然と、まだ舌足らずであどけないみーくんの顔を思い出していた。
……
「くましゃん、もりのくましゃん、あ、あのね……」
大樹さんが写真の現像のため暗室に籠もっている時は、みーくんは決まって俺の所にやってきた。
さっきから柱の陰から、ちらちらと俺を見ている。
振り返ると、さっと隠れちゃうんだよな。
いじらしいことを。
「みーくん、どうした?」
「あ、あのね、えっとね……あのね」
みーくんは控えめで恥ずかしがり屋な性格なのを知っている。
生まれた時から見ているからな。
みーくんは上手く言葉を紡げず、顔を赤くしていた。
「何して遊ぶか」
「わぁ……みーくんね、あれがいいの」
「はは、くまさんごっこだな」
「うん!」
「よーし、くまさんが親熊でみーくんが小熊だぞ。ちゃんとついてくるんだぞ」
「うん!」
「それ、のっしのっし」
「しょれ、のっちのっちぃ」
四つん這いになってログハウスの中をのっしのっし。
俺の後を、みーくんが楽しそうについてくる。
子供って可愛いな。
こんなことに夢中になってくれて。
「よーし休憩だ。乗っていいぞ」
「わぁ……いいの? うれちいなぁ」
俺が寝そべると、みーくんが上に「よいちょ」と可愛いかけ声をあげてよじ登り、ぺたっと背中にくっついてきた。
みーくんの体重を感じた。
なんだ、こんなに軽いのか。
みーくんはまだたった3年しかこの世を生きていない。
子供は小さい。
子供はあどけない。
子供は親や周囲に守ってもらい、成長していくべきだな。
辛い時や寂しい時にさっと駆け寄って抱きしめてくれる人の存在が必要だ。
みーくんには大樹さんがいて澄子さんがいて、俺もいるから安心しろよ。
……
俺はあんなにみーくんを愛していたのに、大樹さんの事故が自分の我が儘が引き金になってしまったショックから、まだたった10歳のみーくんを放り出したまま何もしてやれなかった。
ごめんよ……謝っても謝りきれないことをした。
「勇大さん、どうしたの?」
「あぁ、さっちゃん……いっくんを見ていると何故だろうな。みーくんの小さい時を思い出すんだ」
「……いっくんは瑞樹に似ている部分あると思うわ。少し寂しそうな顔を見ると、私も切なくなるの」
「さっちゃんもか」
「でも勇大さん、もう過去に引き摺られないで……いっくんは潤の子供。潤と瑞樹は兄弟だから、瑞樹に似ていてもおかしくないわ。それでどうかしら?」
さっちゃんの提案に大賛成だ。
寂しかったみーくんを思い出すのではなく、今、家族が増え、弟たちと仲良く暮らす明るいみーくんを思い浮かべよう。
すると潤が頬を紅潮させて、すっ飛んできた。
「お父さん、いっくん熊のカードを引いたみたいだ」
「おぉ! そうか、でかしたぞ」
「事前に練習したからバッチリです」
「楽しみだな」
ところが、いっくんは全く動かない。
パパに緊急SOSを送っている。
どうやら緊張して動きを忘れてしまったらしい。
いっくんの困り顔にみーくんの困り顔が重なって、この手で助けてやりたくなった。
そこにアナウンスがタイミングよく入る。
「上手にできない子はお友達や大人に教えてもらっていいですよ」
空から声がした。
『熊田、良かったな。お前の出番だ!』
大樹さん……
『熊田がしたかったことを思う存分してやるといい。いっくんは瑞樹の甥っ子だから、きっと楽しいぞ』
『はい! 行ってきます』
俺は潤に一眼レフをドサッと預けて、いっくんの元に駆け寄った。
「いっくん!」
「おじーちゃん……ぐすっ、たすけてくれるの?」
「あぁ大丈夫だ。俺と一緒にやろう。おじいちゃんの後をついておいで。いっくんは小熊だぞ」
「あい!」
のっしのっし
のっちのっち
俺たちは仲良く親小熊として、園庭を四つん這いで歩き回った。
楽しいな。
昔を思い出す。
俺もまだまだ現役か。
調子に乗っていると
「わぁ、上手ですね。熊の親子さん」
とアナウンスが入り、ますます有頂天になる。
そこにいっくんからの紹介が入る。
「せんせ、あのね、くましゃんはね、いっくんのおじーちゃんなの。いっくん、おじーちゃんもできたの、かっこいいんだよぅ。だーいすきなくまのおじいちゃん!」
駄目だ、視界が霞む。
こんな風に年を重ねたかった。
二度足を踏み入れてはいけないと思っていた日だまりの世界に俺はいる。
「いっくん、ありがとうな」
「おじーちゃん、いいこ、いいこ」
「うううっ」
目頭を押さえて蹲ってしまった。
これはうれし泣きだ。
こんなにあったかい涙を、再び流せるなんて……
『熊田、よくやったな。どうだ? 生きていて良かっただろう?』
『はい、みーくんが広げてくれました。俺の世界を』
『瑞樹はそういう子なんだよ。人から愛される子だ。だからこれからも傍にいてくれ。熊田には幸せになって欲しい。人に囲まれて賑やかな人生を送って欲しい」
『大樹さん……』
空からの声はそこまでで、いっくんの可愛い声に変わっていた。
「おそらのパパにもみえるのかなぁ?」
「あぁ、よーく見えているらしいぞ」
「わぁ、しょうなんだね。えへへ、いっくんまだまだがんばるよ」
****
「瑞樹、今回の借り物競走はどっちが出るか」
「去年は僕が出たので、今度は宗吾さんですよ」
「順番だもんな」
「はい、カードには『人』も混ざっているので気をつけて下さいね」
「了解! 『可愛い子』だったら瑞樹を連れて行く」
「くすっ、そんなカードはありませんよ」
「そうかぁ、あればいいのに」
「宗吾さん、頑張って下さいね」
瑞樹が上機嫌でガッツポーズを作ってくれた。
可愛いなぁと目を細めてデレデレしてると、兄さんに注意された。
「宗吾、しまりのない顔ばかりするな。兄として恥ずかしい」
「え? 酷いなー 母さんにも同じ事言われた」
「事実だからな」
まぁ、自覚はあるけどさ~
さぁ、頑張ってくるか。
どんなカードでもドンと来い!
俺は意気揚々歩きだした。
久しぶりに立つ小学校のグラウンド。
ベストを尽くそう!
「パパぁ~ がんばって」
児童席から芽生のエールを受けて、ガッツポーズで応えた。
そういえば、みーくんが小さい時、よく俺が子守りをしたよな。
大樹さんが溺愛するみーくんは、天使みたいに可愛いかった。
赤ちゃんの時は人見知りが激しかったが、2歳を過ぎた頃からは懐いてくれるようになった。
俺は自然と、まだ舌足らずであどけないみーくんの顔を思い出していた。
……
「くましゃん、もりのくましゃん、あ、あのね……」
大樹さんが写真の現像のため暗室に籠もっている時は、みーくんは決まって俺の所にやってきた。
さっきから柱の陰から、ちらちらと俺を見ている。
振り返ると、さっと隠れちゃうんだよな。
いじらしいことを。
「みーくん、どうした?」
「あ、あのね、えっとね……あのね」
みーくんは控えめで恥ずかしがり屋な性格なのを知っている。
生まれた時から見ているからな。
みーくんは上手く言葉を紡げず、顔を赤くしていた。
「何して遊ぶか」
「わぁ……みーくんね、あれがいいの」
「はは、くまさんごっこだな」
「うん!」
「よーし、くまさんが親熊でみーくんが小熊だぞ。ちゃんとついてくるんだぞ」
「うん!」
「それ、のっしのっし」
「しょれ、のっちのっちぃ」
四つん這いになってログハウスの中をのっしのっし。
俺の後を、みーくんが楽しそうについてくる。
子供って可愛いな。
こんなことに夢中になってくれて。
「よーし休憩だ。乗っていいぞ」
「わぁ……いいの? うれちいなぁ」
俺が寝そべると、みーくんが上に「よいちょ」と可愛いかけ声をあげてよじ登り、ぺたっと背中にくっついてきた。
みーくんの体重を感じた。
なんだ、こんなに軽いのか。
みーくんはまだたった3年しかこの世を生きていない。
子供は小さい。
子供はあどけない。
子供は親や周囲に守ってもらい、成長していくべきだな。
辛い時や寂しい時にさっと駆け寄って抱きしめてくれる人の存在が必要だ。
みーくんには大樹さんがいて澄子さんがいて、俺もいるから安心しろよ。
……
俺はあんなにみーくんを愛していたのに、大樹さんの事故が自分の我が儘が引き金になってしまったショックから、まだたった10歳のみーくんを放り出したまま何もしてやれなかった。
ごめんよ……謝っても謝りきれないことをした。
「勇大さん、どうしたの?」
「あぁ、さっちゃん……いっくんを見ていると何故だろうな。みーくんの小さい時を思い出すんだ」
「……いっくんは瑞樹に似ている部分あると思うわ。少し寂しそうな顔を見ると、私も切なくなるの」
「さっちゃんもか」
「でも勇大さん、もう過去に引き摺られないで……いっくんは潤の子供。潤と瑞樹は兄弟だから、瑞樹に似ていてもおかしくないわ。それでどうかしら?」
さっちゃんの提案に大賛成だ。
寂しかったみーくんを思い出すのではなく、今、家族が増え、弟たちと仲良く暮らす明るいみーくんを思い浮かべよう。
すると潤が頬を紅潮させて、すっ飛んできた。
「お父さん、いっくん熊のカードを引いたみたいだ」
「おぉ! そうか、でかしたぞ」
「事前に練習したからバッチリです」
「楽しみだな」
ところが、いっくんは全く動かない。
パパに緊急SOSを送っている。
どうやら緊張して動きを忘れてしまったらしい。
いっくんの困り顔にみーくんの困り顔が重なって、この手で助けてやりたくなった。
そこにアナウンスがタイミングよく入る。
「上手にできない子はお友達や大人に教えてもらっていいですよ」
空から声がした。
『熊田、良かったな。お前の出番だ!』
大樹さん……
『熊田がしたかったことを思う存分してやるといい。いっくんは瑞樹の甥っ子だから、きっと楽しいぞ』
『はい! 行ってきます』
俺は潤に一眼レフをドサッと預けて、いっくんの元に駆け寄った。
「いっくん!」
「おじーちゃん……ぐすっ、たすけてくれるの?」
「あぁ大丈夫だ。俺と一緒にやろう。おじいちゃんの後をついておいで。いっくんは小熊だぞ」
「あい!」
のっしのっし
のっちのっち
俺たちは仲良く親小熊として、園庭を四つん這いで歩き回った。
楽しいな。
昔を思い出す。
俺もまだまだ現役か。
調子に乗っていると
「わぁ、上手ですね。熊の親子さん」
とアナウンスが入り、ますます有頂天になる。
そこにいっくんからの紹介が入る。
「せんせ、あのね、くましゃんはね、いっくんのおじーちゃんなの。いっくん、おじーちゃんもできたの、かっこいいんだよぅ。だーいすきなくまのおじいちゃん!」
駄目だ、視界が霞む。
こんな風に年を重ねたかった。
二度足を踏み入れてはいけないと思っていた日だまりの世界に俺はいる。
「いっくん、ありがとうな」
「おじーちゃん、いいこ、いいこ」
「うううっ」
目頭を押さえて蹲ってしまった。
これはうれし泣きだ。
こんなにあったかい涙を、再び流せるなんて……
『熊田、よくやったな。どうだ? 生きていて良かっただろう?』
『はい、みーくんが広げてくれました。俺の世界を』
『瑞樹はそういう子なんだよ。人から愛される子だ。だからこれからも傍にいてくれ。熊田には幸せになって欲しい。人に囲まれて賑やかな人生を送って欲しい」
『大樹さん……』
空からの声はそこまでで、いっくんの可愛い声に変わっていた。
「おそらのパパにもみえるのかなぁ?」
「あぁ、よーく見えているらしいぞ」
「わぁ、しょうなんだね。えへへ、いっくんまだまだがんばるよ」
****
「瑞樹、今回の借り物競走はどっちが出るか」
「去年は僕が出たので、今度は宗吾さんですよ」
「順番だもんな」
「はい、カードには『人』も混ざっているので気をつけて下さいね」
「了解! 『可愛い子』だったら瑞樹を連れて行く」
「くすっ、そんなカードはありませんよ」
「そうかぁ、あればいいのに」
「宗吾さん、頑張って下さいね」
瑞樹が上機嫌でガッツポーズを作ってくれた。
可愛いなぁと目を細めてデレデレしてると、兄さんに注意された。
「宗吾、しまりのない顔ばかりするな。兄として恥ずかしい」
「え? 酷いなー 母さんにも同じ事言われた」
「事実だからな」
まぁ、自覚はあるけどさ~
さぁ、頑張ってくるか。
どんなカードでもドンと来い!
俺は意気揚々歩きだした。
久しぶりに立つ小学校のグラウンド。
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