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小学生編

白薔薇の祝福 17

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前置きさせて下さい。
今日は雪也視点を最初に少し書きました。

他サイトになりますが……

雪也は『まるでおとぎ話』https://estar.jp/novels/25598236
瑠衣は『ランドマーク』https://estar.jp/novels/25672401

の登場人物です。未読の方には申し訳ありません。

『まるでおとぎ話』は1万字で読める短編もありますので、ざっくりと、あらすじを知りたい方はこちらをどうぞ。

『まるでおとぎ話』短編  https://www.alphapolis.co.jp/novel/492454226/520205377

では本文です。


****

東京白金

「桂人、戻ったのか」
「はい、宗吾さんと瑞樹くんをお送りしてきましたよ」
「ありがとう。急に悪かったね。ところで、あれは渡してくれたかい?」
「しかと」

 そうか、良かった。

 桂人に持たせた白い箱の中には『エディブルフラワー』を詰め込んでいた。

 使うことがあるか分からないが、魔法が解けないように抜かりなくだよ。

 遠い昔に想いを馳せる。

 僕が幼い頃、まだ両親も健在で瑠衣もいた、まるで王子様のような日々を過ごしていた頃のことを。

……

「ゆき、どこなの?」
「にーたま、ぐすっ」
「どうしたの? こんな所に閉じこもって、お母様が探していたよ」
「……あのね、あのね、ぐすっ……これ、どうしよう?」


 僕はお皿の上でひっくり返ってしまったケーキを見せた。

 あの日はお母様の誕生日だった。

「あのね……ぼく、おてつだいしたかったの。でも、つまずいて……だいなしにしちゃったの」

 泣きながら説明すると、兄さまが僕の頭を優しく撫でてくれた。

「雪、がんばったんだね。そうだね、こういう時は瑠衣に相談してみよう」
「るい! うん、るいぃー」
「どうされたましたか」

 事情を説明すると、瑠衣が「少々お待ちくださいませ」と踵を返した。

 こういう時の瑠衣は、頼もしくてカッコいい。

 暫くすると額にうっすら汗をかいた瑠衣が、籠一杯の花を持ってきてくれた。

「雪也さま、これは食べられるお花ですよ。英国ではよくケーキの飾りに使っておりました。これをお使い下さい」
「わぁ」

 瑠衣の手から溢れ落ちた色鮮やかな花びらは、ケーキを見事に蘇らせた。

「ゆき、よかったね。魔法がかかったんだよ。流石、僕たちの瑠衣だ。瑠衣、ありがとう、頼りになるよ」
「……どういたしまして」

 瑠衣は長い睫毛を伏せて、慎ましく会釈した。

……

 芽生くんがそうなるとは限らないけどね、一応、魔法が冷めないように。

 手元に残った『エディブルフラワー』を見つめていると、春子ちゃんがやってきた。

「雪也さん、お茶にしましょう」
「そうだね」
「まぁ、きれいなお花」
「これは食べられる花なんだよ」
「じゃあケーキを飾りましょうよ」
「そうだね」

 時は流れた。

 いつもお優しかった兄さまは、もうこの世にはいない。

 でも思い出は確かに、ここにある。








****

 東京の滝沢家の様子をモニター越しに見ながら、オレは感極まっていた。

 実はこっちでも一緒にお祝いしようと、カットのショートケーキを買っていた。

「潤くん、我が家もそろそろケーキタイムよ」
「了解! 持ってくるよ」

 冷蔵庫にケーキを取りに行くと、いっくんが後ろにくっついてきた。

「どうした?」
「パパにくっついているんでしゅよ」
「そうか」
「うん、パパの子だからいつもいっしょなの」
「そうか、そうか」

 あー ヤバいって。

 いっくんの一言一言にデレまくる。

 くまさんが瑞樹兄さんを「みーくん、みーくん」と呼んで、今でも猫可愛がりしている気持ちが分かるな。

 きっとオレ……いっくんが二十歳になっても、三十歳になっても、「いっくん」って呼んでるだろうな~

「潤くん、ありがとう」

 すみれが用意していたお皿にケーキを乗せてくれる。

 いっくんは目をキラキラと輝かせていた。

「これ、ひとりいっこたべていいのぉ?」
「そうだよ。今日は兄さんの誕生日だから特別なんだ。ほら、見てごらん。東京でもケーキを配っているぞ」
「あっ! めーくんだ! めーくん、めーくん」

 いっくんが一生懸命、芽生坊を呼ぶ。今はマイクが聞こえていないようだが、いっくんはそんなの関係ないようだ。ただ「めーくん」と名を呼べるお兄ちゃんが出来たのが嬉しいんだな。

 芽生坊が一人ひとりに、ケーキが乗ったお皿を配るのを微笑ましく見守った。ところが兄さんのスペシャルケーキを運ぶ際、躓いて転びそうになったので、こっちでも悲鳴をあげてしまった。

 そこからみるみる雲行きが怪しくなる。

 芽生坊、今日はテンション高く張り切っていたからなぁ。

 張り切り過ぎて落とす、零すは……子供あるあるだなぁと微笑ましく、すみれと見守った。

 だが芽生坊にしたらかなりショックだったのだろう。

 最後はわーんわーんと大泣きだ。

 周りがオロオロし出す。

 そこに宗吾さんから瑞樹兄さんへの見事な連携プレー。

 白い箱から何かを握って……

 泣いている芽生坊に兄さんが優しく話しかける。

「芽生くん、泣き止んで……お顔をあげて」
「ぐすっ、お兄ちゃん……なぁに?」
「お兄ちゃんが魔法をかけてあげるから、ケーキを見ていて」

 兄さんの手からは次々にひらひらと花びらが生まれた。

 それがケーキに雪のように積もっていった。

 芽生坊の目が再び輝きだす。

 泣き腫らした顔が、コロッと笑顔に変わった。

「わ、わぁ! すごい! お花のケーキになったよ。これ食べられるの?」
「そうだよ。これは食べられるお花だよ」
「すごい! お兄ちゃんはやっぱりお花の妖精さんなんだね。すごい! すごいよ!」

 なるほど食用花か! 誰が用意したんだ? 最高だ!

 思わず夢中にモニターを見つめていると、いっくんの声が聞こえた。

「しゅごいでしゅ……いまの、みーくんのまほうでしゅね!」

 いっくんが目を輝かせて胸に手をあてて、うっとりと頬を薔薇色に染めていた。
 
 最高潮に興奮している時の、いっくんだ。 

 いっくんは自分のケーキを見つめて、瞬きを何回もしている。

「パパぁ、おはなのけーき、しゅごいね、しゅごいね」
 
「いいなぁ」とか「僕もしたいな」と強請ってもいいシーンなのに、ひたすら感激しているいっくんの様子が愛おしく切なかった。

 すると、すみれがウインクする。

 わざと大袈裟な声を出した。

「きゃー! 可愛いいっくんにも妖精さんが来てくれたわよ」
「ほんと? いっくんのところにも? ほんと?」
「そうよ、ほら」

 すみれがキッチンから持って来たのは、すみれの砂糖漬けだった。

 それをいっくんのケーキに散らしてあげると、いっくんは大喜びだった。

「ママ、ママも、ようせいさんだったの?」
「んふふ、いっくんがいい子だから、妖精さんからもらったのよ」
「そうなんでしゅか。わぁ、うれちいよー!」

 いっくんが満面の笑みで、俺にくっついてきた。

「パパぁ、パパぁ、おたんじょうびって、みんなが、うれちいひなんだね」
「そうだ、いっくんの誕生日もすごくうれしかったよ。なぁ……いっくん」
「なあに? パパ」
「いっくんがこの世に生まれて来た日を、家族でずっとお祝いしてもいいか。いっくんが10歳、20歳となっていく成長を見守らせて欲しい」

 父となり、父の気持ちが痛いほど分かるよ。

 天国にいった父さん。

 父さんも見たかったですか――

 オレの10歳、20歳の姿。

 あなたは1歳の誕生日すら祝えなかった。

 縁あっていっくんと出会い、父さんが歩めなかった人生を歩ませてもらっている。

 感謝しよう。

 この縁に、この子に……

「うん、いっくんはずーっとパパといっしょだよぅ、パパぁ、だーいすき!」









 

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