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小学生編
心をこめて 33
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瑞樹のことを、小さな身体で力いっぱい抱きしめる芽生。
その温もりを、目を閉じて全身で受け止める瑞樹。
二人の抱擁には、愛が溢れているわ。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん……ボク、がんばったよ」
「芽生くん、うん、うん、偉かったね。本当に頑張ったね」
「お兄ちゃんもがんばっていたから、ボク、がんばれたんだよ」
まぁ、芽生ってば、あなたは本当に瑞樹が大好きなのね。
心から全力で慕っているのね。
もうすっかり具合が良さそうで良かったわ。
初日はまだ熱も高く、ぐったりしていて、可哀想で可哀想で……
こんなに小さな子が大きな点滴の針を何時間もしないといけないなんて、病気の治療とはいえ痛々しく辛かったわ。
それに、今回は宗吾の動揺も瑞樹の寂しさも半端なかった。
芽生はもうすっかり宗吾と瑞樹の大切な子なのね。
だからこそ、ダメージも深かった。
離婚当時、心細そうなさみしい芽生をおばあちゃん、よく覚えているから尚更よ。
今、芽生が家族を愛し、家族から愛されていることが嬉しいわ。
それからね、瑞樹と芽生が似た境遇だったことを、今回の入院を通して気付けたわ。そんな風に今まで深く考えなかったけれども、お互い親が急にいなくなる強烈なショック、寂しさを抱えていたのね。もう今生では二度と会えない別れを味わった瑞樹と、生きているのに置いていかれることを味わった芽生。
どちらも辛いわ。
でももうあなたたちは大丈夫。
お互いの寂しさは、お互いの愛で満たしているのだから。
「じゃあ、おばあちゃん、そろそろ帰るわね」
「おばあちゃん、今日はありがとう。とっても楽しかったよ。また来てね」
「もちろんよ」
孫から『また来てね』と言われるのは、祖母にとって最高のご褒美ね。
天国のあなた、芽生を守ってくれてありがとうございます。
ようやく峠を越しましたよ。
いつもの元気が戻ってきましたよ。
私にも元気をくれましたよ。
病室を出て廊下を歩いていると、向こうから黒い影が見えた。
まぁ廊下は走ってはいけないのに、あんなに焦って……あれは絶対に宗吾ね。
「宗吾!」
「母さん、悪い! なかなか抜けられなくて、遅くなった」
「大丈夫よ、瑞樹が来てくれたから」
「そうか、芽生の具合は……今日も辛そうだったか」
苦しげに呟く声、切なげな目元。
宗吾は、いい父親になったのね。
「今日の芽生はとても具合が良さそうで、熱も下がって、点滴も取れたのよ」
「それ……ほ、本当かっ」
「そうよ。良かったわね。あなたもお疲れ様」
「あぁ……本当に、本当に良かった」
宗吾が心の底から喜んでいるのが、ひしひしと伝わってきた。
「さぁ、早く行ってあげなさい」
「あぁ!」
宗吾の持ち前のパワーを発揮して、芽生をぐんぐん引き上げるといいわ。
きめ細やかな瑞樹の潤いと、明るい宗吾の眼差し。
どちらも芽生にとって大切な光よ。
****
「芽生!」
病室に飛び込むと、瑞樹と芽生が仲良く寄り添っていた。
「あ、宗吾さん」
「パパ! ボクを見て‼」
芽生が両手を大きく広げて迎えてくれた。
あの痛々しかった点滴が、ついに終わったのだ。
「芽生、良かったな。頑張ったな」
「パパとお兄ちゃんががんばっていたから、ボクもがんばれたんだよ」
「芽生……」
芽生を抱きしめると、芽生も俺を抱きしめてくれた。
俺はもう片方の手で控えめに俺たちの抱擁を見守っていた瑞樹も、抱き寄せた。
「俺たちは三人でチームなんだ。みんなで協力して困難を乗り越えよう。喜びは分かち合おう! なっ!」
「はい!」
「うん!」
三人の笑顔。
久しぶりの集う笑顔に、涙が溢れそうだ。
ふと見下ろすと、ベッドサイドテーブルに置かれた本が目に入った。
「ん? この本……懐かしいな」
「パパが好きだったご本だって、おばあちゃんが言っていたよ」
「あぁ、そうだよ。芽生の名前は、そうか……ここからだったんだな」
「ねぇねぇ、パパの種はどうなったの?」
芽生が小首を傾げて聞いてくる。
黒目がちの利発そうな顔が、ワクワクと輝き出す。
もう充血していないのにも気付いた。
もう、いつもの芽生だ。
俺によく似た明るい笑顔。
瑞樹に育ててもらうことで、人としての優しさを身につけて、非の打ち所のない、可愛い息子だ。
「パパの種は……芽生だよ。芽生の成長は、俺の成長だ」
「宗吾さん……とても素敵な言葉ですね」
瑞樹が寄り添ってくれる。
「瑞樹がよい水を撒いてくれるから、芽生はこんなに優しく思いやりのある子に育っているんだよ」
「そんな……僕は……宗吾さんと芽生くんが大好きだから、ずっと傍にいたいと願っているだけです」
「ずっと一緒だよ。俺たちは」
「そうだよ、お兄ちゃん」
俺たちは面会時間の終了まで、三人で寄り添っていた。
今日も別れの時間がやってきたが、昨日のように悲痛なものではない。
「パパ、お兄ちゃん、明日も来てね。待ってるよ」
「あぁ、明日になれば、また会えるよ」
「うん、くまちゃんとうさちゃんといい子に待ってる」
「芽生くん、また明日ね」
それでもやはり寂しさが募るが、この寂しさが俺たちの絆を深めてくれるだろう。
「おやすみ、芽生」
「もう眠たそうだね、芽生くん、夢で会おうね」
「うん……ゆめでね……おやすみなさい」
芽生もほっとしたのもあり、もう眠たそうだ。
瞼がゆっくり閉じるのを見届けて、俺たちはそっと病室を出た。
「瑞樹、1日1日を大切にしていこう」
「はい、明日がくれば、退院までの日が1日短くなりますね」
「そうだ、目の前の目標は無事に退院だ」
「はい!」
俺たちには明日への希望がある。
だから明日へ向かって、前向きな一歩、歩み出そう!
その温もりを、目を閉じて全身で受け止める瑞樹。
二人の抱擁には、愛が溢れているわ。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん……ボク、がんばったよ」
「芽生くん、うん、うん、偉かったね。本当に頑張ったね」
「お兄ちゃんもがんばっていたから、ボク、がんばれたんだよ」
まぁ、芽生ってば、あなたは本当に瑞樹が大好きなのね。
心から全力で慕っているのね。
もうすっかり具合が良さそうで良かったわ。
初日はまだ熱も高く、ぐったりしていて、可哀想で可哀想で……
こんなに小さな子が大きな点滴の針を何時間もしないといけないなんて、病気の治療とはいえ痛々しく辛かったわ。
それに、今回は宗吾の動揺も瑞樹の寂しさも半端なかった。
芽生はもうすっかり宗吾と瑞樹の大切な子なのね。
だからこそ、ダメージも深かった。
離婚当時、心細そうなさみしい芽生をおばあちゃん、よく覚えているから尚更よ。
今、芽生が家族を愛し、家族から愛されていることが嬉しいわ。
それからね、瑞樹と芽生が似た境遇だったことを、今回の入院を通して気付けたわ。そんな風に今まで深く考えなかったけれども、お互い親が急にいなくなる強烈なショック、寂しさを抱えていたのね。もう今生では二度と会えない別れを味わった瑞樹と、生きているのに置いていかれることを味わった芽生。
どちらも辛いわ。
でももうあなたたちは大丈夫。
お互いの寂しさは、お互いの愛で満たしているのだから。
「じゃあ、おばあちゃん、そろそろ帰るわね」
「おばあちゃん、今日はありがとう。とっても楽しかったよ。また来てね」
「もちろんよ」
孫から『また来てね』と言われるのは、祖母にとって最高のご褒美ね。
天国のあなた、芽生を守ってくれてありがとうございます。
ようやく峠を越しましたよ。
いつもの元気が戻ってきましたよ。
私にも元気をくれましたよ。
病室を出て廊下を歩いていると、向こうから黒い影が見えた。
まぁ廊下は走ってはいけないのに、あんなに焦って……あれは絶対に宗吾ね。
「宗吾!」
「母さん、悪い! なかなか抜けられなくて、遅くなった」
「大丈夫よ、瑞樹が来てくれたから」
「そうか、芽生の具合は……今日も辛そうだったか」
苦しげに呟く声、切なげな目元。
宗吾は、いい父親になったのね。
「今日の芽生はとても具合が良さそうで、熱も下がって、点滴も取れたのよ」
「それ……ほ、本当かっ」
「そうよ。良かったわね。あなたもお疲れ様」
「あぁ……本当に、本当に良かった」
宗吾が心の底から喜んでいるのが、ひしひしと伝わってきた。
「さぁ、早く行ってあげなさい」
「あぁ!」
宗吾の持ち前のパワーを発揮して、芽生をぐんぐん引き上げるといいわ。
きめ細やかな瑞樹の潤いと、明るい宗吾の眼差し。
どちらも芽生にとって大切な光よ。
****
「芽生!」
病室に飛び込むと、瑞樹と芽生が仲良く寄り添っていた。
「あ、宗吾さん」
「パパ! ボクを見て‼」
芽生が両手を大きく広げて迎えてくれた。
あの痛々しかった点滴が、ついに終わったのだ。
「芽生、良かったな。頑張ったな」
「パパとお兄ちゃんががんばっていたから、ボクもがんばれたんだよ」
「芽生……」
芽生を抱きしめると、芽生も俺を抱きしめてくれた。
俺はもう片方の手で控えめに俺たちの抱擁を見守っていた瑞樹も、抱き寄せた。
「俺たちは三人でチームなんだ。みんなで協力して困難を乗り越えよう。喜びは分かち合おう! なっ!」
「はい!」
「うん!」
三人の笑顔。
久しぶりの集う笑顔に、涙が溢れそうだ。
ふと見下ろすと、ベッドサイドテーブルに置かれた本が目に入った。
「ん? この本……懐かしいな」
「パパが好きだったご本だって、おばあちゃんが言っていたよ」
「あぁ、そうだよ。芽生の名前は、そうか……ここからだったんだな」
「ねぇねぇ、パパの種はどうなったの?」
芽生が小首を傾げて聞いてくる。
黒目がちの利発そうな顔が、ワクワクと輝き出す。
もう充血していないのにも気付いた。
もう、いつもの芽生だ。
俺によく似た明るい笑顔。
瑞樹に育ててもらうことで、人としての優しさを身につけて、非の打ち所のない、可愛い息子だ。
「パパの種は……芽生だよ。芽生の成長は、俺の成長だ」
「宗吾さん……とても素敵な言葉ですね」
瑞樹が寄り添ってくれる。
「瑞樹がよい水を撒いてくれるから、芽生はこんなに優しく思いやりのある子に育っているんだよ」
「そんな……僕は……宗吾さんと芽生くんが大好きだから、ずっと傍にいたいと願っているだけです」
「ずっと一緒だよ。俺たちは」
「そうだよ、お兄ちゃん」
俺たちは面会時間の終了まで、三人で寄り添っていた。
今日も別れの時間がやってきたが、昨日のように悲痛なものではない。
「パパ、お兄ちゃん、明日も来てね。待ってるよ」
「あぁ、明日になれば、また会えるよ」
「うん、くまちゃんとうさちゃんといい子に待ってる」
「芽生くん、また明日ね」
それでもやはり寂しさが募るが、この寂しさが俺たちの絆を深めてくれるだろう。
「おやすみ、芽生」
「もう眠たそうだね、芽生くん、夢で会おうね」
「うん……ゆめでね……おやすみなさい」
芽生もほっとしたのもあり、もう眠たそうだ。
瞼がゆっくり閉じるのを見届けて、俺たちはそっと病室を出た。
「瑞樹、1日1日を大切にしていこう」
「はい、明日がくれば、退院までの日が1日短くなりますね」
「そうだ、目の前の目標は無事に退院だ」
「はい!」
俺たちには明日への希望がある。
だから明日へ向かって、前向きな一歩、歩み出そう!
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