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小学生編

ひと月、離れて(with ポケットこもりん)20

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「花も……彼も、あなたを待っています」

 ベッドサイドの棚に写真を置くと、彼の蒼白な顔色に窓からの光が差し込み、少し生気を帯びたような気がした。

 きっと、もうすぐ目覚める。

 そんな予感に包まれた。

 本当はこういう静かな病室は、あの軽井沢での日々を思い出してしまうから、怖かった。

 苦手だった。

 でも僕のポケットの中には芽生くんがいるので、頑張れた。

 芽生くんに誇れる僕でいたいんだ。

 離れているから、頑張れたことがある。

 これはその一つだよ。

 病院からパビリオンに戻ると菅野が汗水垂らして堆肥の袋を担いでいたので、僕も加勢した。

「菅野、半分持つよ!」
「お、瑞樹ちゃん、助かるよ。へへっ、やっぱ、いいな」
「……どうして笑って?」
「いや、二人で持つと重さが半分になるのは分かるんだけど、なんだか楽しい気分になるんだよな」
「あっ、分かるよ。一緒に一つのことをしているからかな?」
「共同作業も楽しかったな。特に葉山とだったから……」
「そう言ってもらえると光栄だよ」

 菅野でなかったら、入院中の彼の意思なんて無視しろと言われたかもしれない。
 菅野がいなかったら、こんなに見事なアーチは作れなかった。

「菅野はすごいよ。尊敬もしているし、信頼もしている。1ヶ月共同作業をし続けるのも、24時間一緒なのも初めてだったが……本当に気持ちが楽だったよ」
「よせやい! 瑞樹ちゃん、照れるぜ」

 菅野らしいいつもの口癖も、心地良い。

 そうか……物事には、離れているから気付けることと、一緒に過ごすから知ることがあるんだな。

 どう感じるかは、僕次第。
 何を吸収するかも、僕次第。

 ****

「パパ、おせんたくもの、たためたよ」
「おー すごいな、この1ヶ月ですごく上手になったな」
「えへへ」

 ボクね、今のボクにできることを、お手伝いすることにしたんだ。

 もう背伸びはしないし、危ないこともしないよ。

 タオルはね、まっすぐだから、上手にたためるようになったんだよ。

「あのね、お兄ちゃんが帰ってきても、タオルはボクがたたむよ」
「おう、瑞樹が助かるぞ。感動して泣きそうだな」
「えへへ、他にもできること見つけたよ!」
「ん?」
「あのね、お花さんにおみずをあげるの」
「あぁ、あれは助かった。お陰で瑞樹が大切にしている花を枯らさないで済んだよ」
「あのね、ちいさなジョウロだと、上手にあげれるの」
「そうだな」

 エプロンをしたパパが目を細めて、ベランダに来てくれた。

「おー、今日も芽生の愛情たっぷりで、みんな元気だなぁ。みんなイキイキしているな」
「パパっ!」

 ボクはパパも元気にしてあげたくて、パパの足にピタッとくっついたよ。

「お! どうした?」
「パパも元気になった?」
「あぁ……芽生がいるから、留守番も寂しくなかったよ。その……途中ではゴメンな」
「ボクもごめんなさい! でもね、パパがいるから、さみしくなかったよ」
「お互い瑞樹がいないのによく堪えたな、もうすぐだな」
「うん!」

 パパがボクの前にしゃがんで、頭を撫でてくれた。

「メーイ、1ヶ月、がんばったな。運動会の練習や朝練もあってキツかったのに、家のこともよく手伝ってくれて助かったぞ」
「えへへ」

 ほめられちゃった。

 うれしいな~

「芽生、明日は土曜日だな」
「うん!」
「学校から帰ったら、パパと出掛けよう!」
「どこに?」
「瑞樹を迎えに行こう!」
「えっ?」
「がんばったご褒美だよ。土曜日の午後内緒で行って、日曜日に瑞樹と一緒に帰って来よう」
「わわわ……いいの?」
「あぁ、1ヶ月がんばったご褒美だ」
「すごい! すごい!」

 パパってこういうとき、魔法つかいさんなのかなって思うよ。

 お兄ちゃんをお迎えに行けるなんて、すごい!

 お迎えって、うれしいよね。

 ボクも学校にお兄ちゃんが迎えに来てくれるの、とってもうれしいんだもん。

 大好きな人がきてくれるのって、しあわせだよね。

 今度はボクがお兄ちゃんをお迎えに行けるなんて。

「パパ、パパ- パパ、ありがとう。パパってすごい。パパっ大好き!」

 


 
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