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小学生編

HAPPY SUMMER CAMP!④

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「宗吾さんっ、しっかりして下さい」
「参ったな……いや先方が間違えているのかもしれないか……」
「じゃあ、僕が確認しましょうか」

 可愛い瑞樹は女性受けする王子さまだ。必要以上に人目に付くわけにはいかない!

「いや、俺がしてくるよ。君は皆の所で待っていてくれ。そうだな流の後ろにいろ」(女性から見えないように、隠れていてくれ)
「えっと……そうしますね」

 くるりと振り向くと、月影寺men'sが揃って心配そうに俺を見つけていた。

「あー コホン」

 わざと咳払いして、もう一度インターホンを押す。

 すぐにザワザワと大勢の人の気配をドア越しに感じる。おいおい、一体何人で宿泊してるんだ? 何の集まりだか知らないが、俺たち並の大所帯のようだ。

「あの、すみません。怪しいものじゃありません」
「それは知っています」
「えぇ? 知っている?」
「あ、いえっ、何かご用ですか」
「ちょっと確認したいのですが、このログハウスの予約票を見せていただけませんか」
「えっ……予約票ですか」
「あの、本当に今日の予約ですよね?」
「えぇ、ほらっ」
「しっ、失礼しました」

 ヤバイなぁ。本当にダブルブッキングだったのか。しかも相手は女性だけのようだし、俺らはそもそも無料で宿泊予定だったので分が悪い。

「どうした? 宗吾」

 流が話し掛けてくれる。

「参ったよ。今日に限ってダブルブッキングだなんて。宿無しになるかも……あぁ、格好悪いな」

 気が動転して、不甲斐ないことを言ってしまった。

 すると流がスッと真顔になった。

「宗吾、そう気を落とすなよ。ほらっ、ピンチはチャンスだろ! いつもの調子はどうした?」
「あぁ、そうだよな」

 そもそもピンチとは、追い詰められた苦しい状態や苦境や窮地のことで、チャンスは物事をするのによい機会や好機のことだ。だから『ピンチはチャンス』とは、追い詰められた苦しい状況の時にこそ、新しいスタートをするのに絶好の機会という意味になる。

 俺は今まで仕事もプライベートもこのポリシーで乗り切ってきた。ピンチを好機にするのは自分の心持ち次第だ。ただし独りよがりでは上手くいかない。周囲を頼って知恵や助けを求めるのは、悪いことではないのを知っている。

 これは俺たちと月影寺men'sとの人間関係、信頼関係を更に深めるチャンスとなるのかも。

「よし! 流、ちょっと来てくれ」
「了解!」

 俺たちはフロントで予約状況を確認した。

「あぁ、やっぱりダブルブッキングだな」
「もっ、申し訳ありません」
「他に空いているコテージはないのか」
「今、お調べします!」

 キャンプ場のスタッフも、焦り顔で平謝りだ。

「あ、ありました……でも3人用のコテージが1棟だけです」
「あとは? あと10名の宿泊先はどうする?」
「申し訳ありません……生憎どこも満室です」

 いやいや打開策を考えてくれよ。いや違うな。俺が考えればいいのか。このキャンプ場は仕事で関わったので、ログハウス以外の内容も把握している。

「そうだ、ログハウス前のウッドデッキエリアにグランピングエリアをOPEN予定で整備していたんじゃないか」
「あ、はい」
「特別にあのエリアを解放してくれないか」
「ですが……まだあそこは整備途中なので、豪華なテントもシャワールームもありませんが……」
「知っているさ。だが普通のテントならいくつか在庫があるだろ?」
「はい、それならお貸し出来ます」

 内情を知っているから、どんどん提案できる!

「宗吾、いい感じだな。波に乗って来たな」
「流、テントの組み立てを手伝ってくれ」
「了解。それで3人用のコテージは誰が使うのか」
「……3人といえば」
「レディファーストだな」
「あぁそれがいいと思う」

 皆が待機している場所に戻り事情は説明すると、翠さんが柔和に微笑み拍手をしてくれた。

「宗吾さん、それは
いいですね。まさに『禍を転じて福と為す』ですね。テントで過ごすなんて貴重な経験だ。3人用のコテージは新婚さんに使ってもらうのはどうかな?」

 流石、翠さんだ。自然に俺が思っていたことを提案してくれた。

 ところが、潤は後ずさって遠慮している。

「え? でも……そんな……オレたちが使うなんて、一番よそ者なのに駄目っすよ」
「ん? よそ者だなんて、とんでもないよ。僕たちは縁があって瑞樹くんと巡り逢い、そして瑞樹くんの大切な弟さんに引き合わせてもらえて幸せに思っているんだ。だから遠慮はいらないよ」

 翠さんが滑らかに諭してくれる。

「で……ですが」
「潤くん、何だかこの雰囲気だと……お言葉に甘えた方がいいのかも?」
「そうだよ。潤くん、奥さんを大切にしないとね」

 翠さんの言葉は説法だ。

「あ……そうか……女性は菫さんだけだし……じゃあ……本当にオレたちがコテージに宿泊していいんすか」
「もちろん‼」

 皆の声が明るく揃う。

「流、僕はせっかくだから、テントに泊まってみたいよ」
「兄さんは絶対そういうと思っていました。俺がとっておきのテントをこしらえますよ」
「楽しみだな」

 流と翠さんはテントでOKのようだ。
 
「丈、俺たちもテントでいよな」
「そうだな、一番狭いテントを希望する。いや密室か」
「はぁ? お前キャラ変わった?」

 よしよし、丈さんと洋くんもテントだな。相変わらず熱々だな。

「こもりんと二人でテントか~」
「菅野くん、あんこも一緒ですよ」
「うーん、それはちょっと狭そうだな」
「そんなことないです。抱っこしたり枕にしましょうよ」
「うへぇ~」

 菅野くんと小森くんも楽しそうだ。

「宗吾さん、僕たちもテントにしましょう。芽生くんとテントに泊まってみたかったんです」
「瑞樹ぃ~ ごめんな」(君には特別は部屋を用意していたのだが)
「どうして謝るんですか。楽しいじゃないですか」
「パパ、ボク、テントつくるのおてつだいする!」

 俺たちもテントで大丈夫だ。

 すると、いっくんがトコトコやってきて……

「いっくんねぇ、めーくんといっしょがいいなぁ」
「いっくん! ボクもだよ」
「えへへ、めーくんとねんねしたいなぁ」
「ボクもー!」
 
 潤と菫さんが困ったように顔を見合わせている。

 すると瑞樹が優しく提案する。

「じゅーん、そうしてあげてもいいかな? 芽生くんにとって、いっくんは弟みたいに大切な存在なんだ。僕もしっかり見守るよ。だから、いっくんを今晩だけ僕たちに任せてくれるかな?」
「兄さん、本気でいいのか」
「もちろんだよ。ちゃんと約束したじゃないか」
「あ、ありがとう!」

 潤も素直に甘えられるようになった。

 それは……きっと瑞樹が頼もしくなったからだ。

「よーし! じゃあ早速オレたちの寝床を作るぞ!」


 仲間と……

 目的を一つにすること。

 何かを成し遂げようとすること。

 身体から力が湧き上がってくるような感覚が、今は心地良い。

「瑞樹、俺たちのテントを作ってやるからな」
「宗吾さん、あの……僕……案外得意ですよ」
「そうなのか。じゃあ一緒にやろう!」
「はい! 是非!」



 瑞樹の笑顔が弾ける。

 澄んだ声が明るく意気揚々としている。

 君が溌剌としていると、俺の心も踊り出すのさ!














  
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