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小学生編

HAPPY SUMMER CAMP!③

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 神奈川の山奥にある『月が昇り星が降るキャンプ場』に、無事到着した。

「瑞樹、酔わなかったか」
「はい! 宗吾さんは山道の運転がとても上手ですね」
「ははっ、雪道は危なかったのに?」
「あッ……すみません。そんなつもりでは」
「おいおーい、また真に受けて。お互い得手不得手があるのがいいって、いつも言ってるだろう?」
「は……はい。ですが……」

 こういう時、瑞樹は真面目な性格なんだと思う。長男特有のものなのか、こういう所が兄さんと気が合うの、よく分かるよ。
 
「あ、かんのくんだぁ」
「え? 菅野?」

 駐車場には一足先に着いた菅野を、芽生が目敏く見つけた。

「ん? 菅野、すごい荷物ですね」
「あぁ、あれは差し入れの山だな。あいつの実家の饅頭は美味しいから嬉しいな」
「くすっ、でも宗吾さんのものじゃないかもしれませんよ。ほら……小森くんがかなりのあんこ党だったから」
「あぁ、あの不思議くんか……俺の糖分補給は瑞樹だからなぁ。あんこはなしでも生きて行ける」
「そ、宗吾さん、っも、もう――」
「ははっ」
 
 車から降りると、菅野が気付いたらしく人の良い顔を綻ばせていた。

「瑞樹ちゃーん!」
「菅野、早かったな」
「実家からだと割と近いんだ」
「それにしても、すごい荷物だな」
「あー、こもりんのおやつなんだ。余ったら瑞樹ちゃんにもあげるよ」
「くすっ、でもきっと余らないと思う」
「だな」
 
 瑞樹と菅野は、親しい親戚のように戯れていた。

 会社で上司から揶揄われるのも分かるな。

 こちらが妬くほど仲良しだが、今は俺には心のゆとりがある。

 昨日の瑞樹、積極的で可愛かった!
 
****

「菫さん、そろそろ着くよ」
「潤くん、運転しっぱなしで疲れたでしょう。ごめんね」
「この位どってことないよ。函館にいた頃は夜勤もあったし……」

 函館の高橋建設の下請けで働いていた頃のことを、久しぶりに思い出した。

 あの頃は工事車両の運転を任されて、一日中、汗と泥まみれだったな。

「潤くんって男らしくて、頼もしいのね。かっこいいなぁ」

 今は……俺にとって暗い過去も、菫さんが明るく照らしてくれる。

「さぁ、いっくん、起きて。もう着いたわよ」
「んん……ママぁ……まだねむいでしゅ」

 いっくんが目を閉じたまま菫さんの胸元に頭をぐりぐりと押しつける様子が、愛らしかった。

 いっくんは、ママにもパパにも甘えっ子だ。

 それでいい。

 それがいい。

 今まで甘えられなかった分、どーんと甘えてくれ。

 オレがひねくれて素直に甘えられなかった分も……

 このまま天使のように純粋無垢にスクスクと成長して欲しい。

「あ、瑞樹くんたちだわ!」
「兄さん? どこ? 兄さん!」

 つい声を弾ませて、菫さんに笑われた。

「ふふっ、カッコイイ潤くんの、可愛い所見つけちゃった!」
「菫さん~ 今の、兄さんには内緒な」
「ママぁ、パパがしーっていってるよ」
「分かったわ! さぁいっくん、おんりしよう」
「う……ん、パパぁ……えっとぉ、はじめまちてしないと」

 いっくんが、両手を広げて抱っこのポーズを取る。

 少し不安そうな顔をしている。

 振り返ると、兄さんが見知らぬ男性と話しているのが見えた。

 俺も緊張するよ。

「いっくん、葉っぱ用意したか」
「うん! もってるよぅ」
「よし! じゃあ、パパと行こう」
「あい!」

 オレといっくんと菫さんが兄さんの方に近づくと、兄さんと話していた男性が先に気付いたようで、ペコリと挨拶してくれた。

 兄さんの友達なのかな?

 温和な雰囲気に、俺たちもホッとした。

「君が瑞樹ちゃんの弟さん?」
「あ、潤! 菫さん、いっくん!」

 兄さんも同時に振り向いて、清らかで可憐な笑みを浮かべてくれた。

 兄さんの顔を生で見るのは、五月末の結婚式以来だ。

 嬉しい!

「潤、僕の会社の同僚の菅野だよ。菅野、僕の弟の潤と奥さんの菫さんと息子のいっくんだよ」
「あっ、はじめまして、菅野良介です。今回はお邪魔します」
「いっ……いっくんでしゅ!」

 いっくんがオレの首に腕を回して頬を染めながら、それでもしっかりした挨拶をした。

「こ、これ、あげましゅ!」
「おぉ! これはすごっく綺麗な葉っぱだな。ありがとう。いっくん!」

 流石兄さんの友人だ。いっくんを喜ばせてくれる。

「よーし、これで7人揃ったな。あとは月影寺サイドだな」

 お! 宗吾さんだ。

 滅茶苦茶キメてきたな。

 山の男風の出で立ちが、カッコよかった。

 兄さんこれはメロメロなんじゃ……。

****

 まずは菅野と潤夫婦と合流した。

 次は流たちだな。

 流とは事前に連絡を取り合っていた。

 たぶんそれぞれが大荷物になりそうなので、大型のバンを借りたって言っていた。

「お、月影寺のバンが到着したぞ」
「なんで分かるんですか」
「事前情報さ」
 
 サーフ柄のバンが、ブーンと駐車場に入ってきた。
 
 こんなのどこで借りたんだ?
 
 ド派手だが、流らしくていい!

 一番最初に中から下りてきたのは……

「んぁぁぁー 身体が硬直しましたよ」

 小森くんだった。

「あ、菅野くーん」

 んん? その大事そうに抱えている唐草模様風呂敷には、一体何が?

「こもりんー!」
「会いたかったですー! っと、あわわわ-」
「あ、危ない!」

 愛の不時着じゃなくて、愛の墜落というのか。

 小森くんが平らな地面に何故か躓いて、手をばたつかせた。

「あああー 僕のお宝がぁ~ 飛んでいくー」

 天高く舞う風呂敷を、俺が素早くキャッチすると、手が折れる程重たかった。

 なんだよ? これっ!

 ちなみに、小森くんは菅野が見事にキャッチしていた。

「こもりん、危ないぞ」
「ご、ごめんなさい。うれしくて」
「まぁ、そんなところがいいんだけどな」
「あ、あんこの匂いがしますね」
「たんまり持ってきたよ」
「わぁぁぁ」

 勝手にやってろ!
 って、この重い荷物の正体はなんだ?
 傾けると、ここは山の中なのに、何故か波の音がした。

「宗吾!」
「流」

 続いて月影寺のメンバーが厳かに降り立つと、そこには鹿威しの音がカーンっと鳴り響くような静寂が舞い降りてきた。

 流と翠さん。
 丈さんと洋くん。
 そして翠さんの息子の薙くん。

「よし、これで揃ったな。立ち話もなんだから、ログハウスで自己紹介をしよう」

 俺プロデュースのログハウスは内装にも拘った自慢の家だ。

 リビングは大勢で寛げるように、趣向を凝らしている。

「そうですね。じゃあ、皆さん宗吾さんの後についてきて下さい」

 小高い丘の上に、ログハウスが二軒。

「瑞樹、ログハウスは『月』と『星』どっちだったっけ?」
「ええっと、あっ『月』の方です」

 『星』の方にはもう宿泊客がいるらしく、窓から賑やかな声がしていた。

「よし、みんな『月』のログハウスの前で待っていてくれ。俺がチェックインしてくるから」
「はい……あれ? でも宗吾さん、何か変です」
「ん?」
「『月』ですよね」
「あぁ」
「こちらにも……先客がいるようですが」
「え?」

 ログハウスの前に立つと、何故か「キャー」と黄色い歓声が聞こえる。

「えぇ?」
「あの……インターホンを押して見ますか」
「あぁ、どうなってるんだ?」

 インターホンを押すと、何の集まりだか分からないが妙にノリのよい女性のグループがぞろっと目を輝かせて出て来たので、慌ててドアを閉めた。

 なんだ? みんな妙にギラギラして……

 ま、まさか……

「宗吾さん、あのあの、これって……まさか……」
「瑞樹、ヤバイ‼‼ これはダブルブッキングだー‼」

 






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