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小学生編

誓いの言葉 3

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「ヒロくん、お母さん、どうだったかな?」
「いきなり朝帰りはないだろ」
「もう~ 何言ってるのよ~ プロポーズされたかなってこと」
「それは母さんの顔を見ればすぐに分かるだろ」
「だよね」


 みっちゃんとワクワク、ソワソワ待っていると、熊田さんの車で母さんが帰宅した。

 ヒョーおお~母さんがお姫様みたいに戻ってきたよ。

「母さん! あ……熊田さん、今日はどうも」
「広樹くん、今日は咲子さんを1日借りてしまって悪かったね」
「とんでもないです。もう持っていってください」
「え?」

 って、俺、先走り過ぎた。

「ははっ、ありがとう。持っていったりしないよ。君たちの大事なお母さんだ。俺が歩み寄る」
「熊田さん……」

 いい人だな。大らかで温かくて男らしい人だ。
 こんな人になら、母さんを任せられる。

「咲子さん、また連絡します」
「あ、はい。潤の結婚式が終わったら……改めて」

  んん? プロポーズされたのじゃないのか。
 てっきりその報告を受けると思ったのに。

 熊田さんの意味深な言葉。
 母さんの晴れやかな顔。

 どう考えたって、プロポーズされてOKしたって感じなのに。

 潤の結婚式が終わったらって……遠慮しているのか。

 潤は潤。母さんは母さんだ。
 勢いに乗ってくれよ、もう――

 熊田さんを見送った母さんは名残惜しそうだった。

「母さん、熊田さんからプロポーズされたんだろ?」
「え! な、何を言ってるのよ」
「それで、即OKしたんだろ」
「も、もう――」

 しどろもどろになる母さん。

「広樹には話しておくわ。あなたはもう……この葉山家の大黒柱だから」
「……ありがとう」

 母さんと奥の部屋で話した。

「広樹には話しておくわね。でも潤と瑞樹にはもう少し黙っていて。潤の結婚式が終わるまでは」
「二人とも聞いたら手放しで喜ぶよ。母さんの幸せを息子たちはいつも願っていたから」
「広樹ってば……もう……私は本当にいい息子を持ったのね。ありがとう。母さんね……まさかこの歳でこんな気持ちになるなんて思わなくて……広樹とみっちゃん。瑞樹と宗吾さん、潤と菫さん……息子達がそれぞれ幸せになっていくのを見守れて嬉しかったの。でもね……母さんだけ一人なの……少し寂しいなって。ふふっ、こんなの母さんらしくないわよね? そんな時、瑞樹は熊田さんを連れて来てくれたの」

 母さん……
 そんな風に思っていたのだな。
 母さんらしいって、なんだ?
 母さんだって一人の人間で……感情を持っている。

 ずっと『母さんだから』って、枠を作っていたのかもしれない。

「母さん、息子は皆成人してそれぞれの伴侶を得た。今こそ母さんの時代だ」
「あぁ、広樹……あなたには頼りすぎてごめんね。あなたはお父さんみたいに頼もしくて、家族を引っ張ってくれて……広樹がいなかったら、この家は上手くいかなかったわ」
「母さん……俺がしたかったことだ。全部、全部! 俺、母さんが大好きだ。母さんの役に立ちたかった。だから頼りすぎてごめんなんて謝らないでくれよ」

 母さんの隠れた気持ちに触れ、胸がじんとした。

 確かに、辛い時もあった。しんどい時もあった。
 
 だが、後悔はない。
 
 若いうちから人生について真剣に考える機会を与えてもらった。

「母さん、俺は今の俺が好きだ。だから母さんは謝らないでくれよ」
「広樹……ありがとう。母さん、再婚してもいいの?」
「ははっ、当たり前だろ。もう返事もしたのだろう」
「勢いで……」
「母さんらしいや。大丈夫上手く行くよ。遠慮無く、熊田さんとデートをしてくれよ」
 

 ****

 季節は少し巡り、5月下旬になっていた。

 来週には、いよいよ潤の結婚式を控えているので、なんとなく仕事をしていてもソワソワしてしまう。

「葉山、ちょっといいか」
 
 急にリーダーに呼ばれたので、気が引き締まった。

「何でしょうか」
「悪い、急な出張を頼まれてくれないか」
「はい?」
 
 宗吾さんはしょっちゅう出張に行くが、僕が行くのは珍しい。

「実は加々美花壇の直営の花農家でトラブルがあってな、急遽助っ人が必要なんだ」
「はい?」
「高齢だった花農家の生産者さんが急病で倒れて、ラナンキュラスの花の切り戻し作業が出来ないでいるそうだ」
「……切り戻し」

 ラナンキュラスは9月に球根を植え、11月~4月に切り花を出荷する。5月は球根に栄養を蓄える時期で、咲いている花の蕾も全部切り落とす。その作業が出来ないのは花農家にとって致命的だ。

「葉山は、函館出身だったよな。誰か人を集められそうか」
「あ……もしかして」
「そうなんだ。行き先は函館、大沼の近くだ」
「集められます。大沼には頼りになる人がいます」

 僕は即答していた。

 何故なら、そこには僕のお父さんのようなくまさんがいるから。

 困った時はいつでも頼れと、腕を広げて迎えてくれる……くまさんがいるから!

「そうか、やっぱり葉山が適任だな。早速、今から行けるか」
「今から……はい! 頑張ってきます」
「頼んだぞ。君になら出来る」

  リーダから重大な任務を任せられたのも、くまさんに会えるのも、どちらも嬉しかった。
 
 
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