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小学生編

花びら雪舞う、北の故郷 15

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 スキー場への出発する直前、瑞樹が「せっかくだから、お店の前で写真を撮りたい」と言い出した。瑞樹からの積極的な声がけは珍しいので、皆、大きく頷いた。

 瑞樹が鞄から張り切って取り出したのは、あの大沼のペンションで眠っていた一眼レフだった。あれからずっと使っていたようで、慣れた手付きでカメラを構える姿が、決まっていた。

 新しくなった『フラワーショップ葉山』は、コンクリート剥き出しでひび割れていた外壁も綺麗に塗装され、明るい色クリーム色になっていた。

 宗吾が作ってくれたポスターも輝いて、店前には色とりどりの花が綺麗に並んで、見違えるようだ。

「じゃあ、撮るよ! みんなもう少し寄って」

 俺の最愛の妻みっちゃんと愛娘の優美。大切な母さんと弟。宗吾と芽生坊。そして俺が、ギュッと集まった。収まり来たらない程、家族が増えたことを実感する。

 カシャッ――

「次は、瑞樹も入れ」
「あ、うん、三脚で撮るよ」
「それがいい」

 家族全員集合だ!


 

「兄さん。今日は僕が運転するよ」
「大丈夫なのか」
「任せて! 久しぶりに雪道を運転したいんだ」
「気をつけろよ」
「うん、安全運転を心がけるよ」

  俺は助手席に座り、後部座席には宗吾と芽生坊が仲良く並んでいる。

「じゃあ、母さん、みっちゃん、優美、行ってくるよ」
「楽しんで来てね」
「潤、頼んだぞ」
「了解」

 潤は、見たこともない大人びた表情を浮かべていた。

「潤、応援しているぞ。菫さんといっくんにも会いたいから、家にも連れて来いよ」
「ありがとう! 心強い言葉だよ、兄貴」
「お前の幸せを祈ってる」
「俺も……兄貴、今までごめんな。オレさ、我が儘な弟で散々迷惑かけて」
「何言ってんだ? 弟なんて、そんなものだ。これからも期待してる」
「兄貴……」

 車が緩やかに動き出す。
 
「瑞樹と大沼に向かうのは二度目だな」
「うん……あの日は電車だったね」
「……そうだな」
 
 2年前、瑞樹が函館で傷を癒やしている時、突然「大沼に行きたい」と言い出して、母さんも潤も慌てたんだ。あの時は、またどんな飛び火があるかわからない。何かあったらどうするんだ。アイツは今は捕らわれているが、万が一部下に変な指示でも出していたらと思うと怖くなり、最大級に警戒していた。だから俺が1泊2日の旅行に同行したのだ。

「兄さんとまた旅行出来るなんて、嬉しいよ」
「俺もさ」

 運転しながらニコっと微笑む瑞樹につられて、俺もニカっと笑った。

 あぁいいな 相変わらず瑞樹の笑顔は陽だまりのように暖かくて優しい。
 
 ちらりと瑞樹の手を見ると、あの日怪我した傷痕がまだうっすら残っていたが、動かすのには何の問題もないようで、今更だが安堵した。

「瑞樹、あのさ、端正なアレンジメントを短時間で沢山作ってくれて、ありがとう」
「楽しかったよ」

 花に触れたばかりの瑞樹からは、新鮮な花の香りが強くした。

 あぁ……瑞樹はやっぱり花に愛されている。

 瑞樹が花に触れる姿を見る度に思うことだ。

「瑞樹は花だけでなく、人からも愛されている。そして瑞樹自身が、人を深く愛せるようになった。それが兄さんは嬉しいよ」
「照れるよ……でも本当のことだ」
 
 瑞樹の運転は彼の性格通り、とても優しかった。急発進や急停止をしないので、とても滑らかで乗り心地がいい。そのせいか後部座席に座る二人は、いつのまにかもたれ合って眠っていた。

「あれ、寝ちゃた?」
「芽生坊は早起きしたみたいだから、一度寝た方がいいかもな」
「宗吾さんは?」
「アイツは飲み過ぎだ」
「くすっ」

 瑞樹と二人だけの貴重な時間がやってくる。瑞樹も上機嫌で正確な運転をしながら、俺に話し掛けてくれる。

「兄さん、今年も忙しくなりそうだね」
「潤のことか、アイツは軽井沢に骨を埋めそうだな」
「そうだね。いつだったかな、潤がこんなことを言っていたよ」

……

「オレがいる軽井沢は自然が溢れていて、瑞樹も好きそうだ」
「僕もまた改めてゆっくり訪れたいよ」
「それでさ、いつかオレが軽井沢の外れに山小屋を建てたら遊びに来てくれるか」
「山小屋?」
「あぁその周りには沢山の花が咲いている予定だ。兄さんのために育てておくから、遊びに来たら、その花でアレンジメントを作ったりしたらどうだ?」
「素敵だね。必ず行くよ。その頃、潤はどうしているかな?」
「オレも結婚しているかもな」 
                  (さくら色の故郷 19-1より)

……

「アイツが、そんなことを?」
「その時は、まだ幼さが残る潤が結婚なんて夢の話だと思ったけれども、今はしっくりくるね」
「アイツ、すっかり父親の顔だったもんな」
「うん」

 俺は目を閉じて、潤の語る夢を想像してみた。まだ見ぬ菫さんといっくんと並んで歩いている姿を。野山に揺れる草花に身を委ねるように歩き、花の命を集めている姿が浮かんできた。たぶん瑞樹も同じ事を思っただろう。

「兄さん、なんだか僕たち……それそれの幸せが集まって、今は花束みたいだね」
「俺も今、それを思ったよ。俺たち三兄弟は見事に花開いたな」
「うん!」

 少しあどけない瑞樹の返事に、彼が今とてもリラックスした状態で運転していることが分かり、兄として心から安堵した。

「兄さんも寛いで」
「可愛い弟と喋るのが楽しいよ」
「ふふっ」

 いつまでも続いて欲しい……和やかで愛おしい寄り道の始まりだ!

 













 
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