918 / 1,701
小学生編
降り積もるのは愛 16
しおりを挟む「そうだ、瑞樹、せっかくだからスキーウェアもどうだ?」
「え?」
ダウンコートを買ってお店を出ようとしたら、宗吾さんに呼び止められた。
「去年は一式レンタルしたが、これから毎年行くのなら、俺のは買った方がいいんじゃないか」
「それはそうですね」
「これなんて、どうだ?」
「レッドですか」
今流行のスタイルのスキーウェアだった。
確かに白銀の世界で、赤いスキーウェア姿の宗吾さんを見たいかも。
「どう思う?」
「それは……その」
「似合わないか」
「う……とても……」
「ん? 聞こえないぞ」
「あの……カッコイイと思います」
「ははっ、よしこれを買うぞ」
「あ、はい!」
本当にスキーにまた行けるんだ。
楽しかった思い出は、もう消えたりしない。
楽しい思い出を、こうやって積み重ねていけるのか。
そう思うと本当に嬉しい気持ちで一杯になった。
「いいなぁ~」
隣で芽生くんがキラキラな瞳でスキーウェアを見つめていた。芽生くんのスキーウェアは去年、潤の先輩のお子さんの物を借りたが、今年は軽井沢にいくわけではないしどうしようかな。
「瑞樹、芽生にも買わないか」
「でも……すぐにサイズアウトしてしまうから勿体ないですよ」
「そうかぁ? 君の姪っ子ちゃんと俺の姪っ子が着るかもしれないし、そう無駄にはならないと思うが」
「あ……確かに、そうですね」
そうか、お古って節約するだけではないのか。僕たちが芽生くんと作る楽しい思い出は、彩芽ちゃんや優美ちゃんにも引き継がれていくのかも。そう考えると、とても嬉しいな。
あ……もしかして……函館のお母さんもそんな気持ちで、いつも広樹兄さんの服を僕に着せていたのかな? 広樹兄さんの匂いが染み付いた服を着ると、血の繋がらない僕なのに、家族の一員になれた気持ちがして嬉しかったよ。
「あの、そうなると……この黄色いのなら性別に関係なく可愛いのでは?」
「だな。パンツはブルーだし。芽生、どうだ?」
「いいねぇ~ イエロ-&ブルーレンジャーになれるね!」
「よし、芽生、一緒に試着しようぜ」
「うん!」
試着室から出てきた二人はとても決まっていて、僕は思わずパチパチと拍手してしまった。
「すごい! 二人とも格好よすぎです!」
スキーウェアまで買ったので、いよいよ大荷物だ。モコモコのダウン二着にスキーウェア二着。これは電車で帰るのが、大変そうだな。
「瑞樹、心配するな。ここはアウトレットモールだ。まとめて送ればいい」
「送るんですか」
宗吾さんの頭の中は、いつだって柔軟で感心してしまうよ。
「そうだよ。そうだ。送るついでに、特売のショートパスタも買っていこう」
「あ、はい」
宗吾さんがアウトドアショップの白い大きな手提げに、パスタの5kgの大袋を軽々と持って、スタスタと歩いて行く。
「僕も持ちます」
「いいから、いいから、君は芽生と手を」
「はい」
「お兄ちゃん、ボクのパパは力もちなんだよ。朝顔だってひょいってね。ほら、お兄ちゃんのことだって、ヒョイって」
「めめ……芽生くん、それはちょっと……」
****
一緒に歩いている瑞樹が、真っ赤になってしまった。
確かに瑞樹だってれっきとした男だ。人前でそれは恥ずかしいよな、すまん!
「イテテ……パパ、さっき転んだからかな、尻が痛くなってきた」
「ええ? 大丈夫ですか」
「あぁ瑞樹、ダウンの袋は君が持ってくれるか」
ウインクして渡すと、瑞樹が心から嬉しそうに笑ってくれた。
「はい! もちろんお持ちします」
「ボクもおてつだいする~」
「じゃあ小さい方を持ってね」
「うん!」
アウトドアショップの白い大袋を抱えた俺たちは、まるでサンタのようだ。
なんでもない買い物も、三人で体験すればワクワクな出来事に生まれ変わる。
結局、日々起きる出来事をどう感じるかは、俺たちの感情次第なのだな。
「そうだ、せっかくだ。お揃いのダウンを着て帰るか!」
「わぁ~ たきざわチームだもんね!」
「そうだな」
宅配の配送受付で、俺たちはコートを着替えた。
紅茶色のダウンの俺と白色の芽生、そしてミルクティー色の瑞樹。
ダウンは似たようなデザインが多いから、お揃いでも目立たない。
「瑞樹、俺たちペアルックみたいだな」
「あ……そ、そうですね」
瑞樹が恥じらいながら甘く微笑む。
耳を赤くする。
控えめな君に大胆なことをさせるのに萌えるんだよ!
それにしても、せっかくお揃いのコートに着替えたことだし。このまま真っ直ぐ帰るのが勿体なくなってきた。
「宗吾さん、あの、帰りもシャトルバスにしますか」
「いや、電車にしよう! マリンサイドラインというモノレールに似た電車が走っているんだ」
「わぁ、電車?」
電車好きの芽生がワクワクと目を輝かす。
「ついでに、寄り道をしていかないか」
「え? どこへですか」
「右に行けば帰る駅だが、左に七駅乗ると『七景島マリンパラダイス』というレジャー施設に行けるんだ。君は行ったことあるか」
「いえ……ないです」
「よし! 君の初めてを、またもらえたな! 新年早々幸先のよいスタートだな。じゃあ行こう!」
俺と芽生と瑞樹は、マリンサイドラインに飛び乗った。
決められたレールを走るのだけでなく、たまには寄り道や引き返してもいいのではないか。
休む間もなく、前へ前へ進むことばかり考えているのでは、息切れしてしまうだろう。
「大人の寄り道だな」
「宗吾さん……あの……寄り道って、いいですね。ワクワクしてきます」
「あぁ、思い出が転がっているからな」
10
お気に入りに追加
824
あなたにおすすめの小説
【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される
鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。
レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。
社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。
そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。
レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。
R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。
ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。
婚約者を追いかけるのはやめました
カレイ
恋愛
公爵令嬢クレアは婚約者に振り向いて欲しかった。だから頑張って可愛くなれるように努力した。
しかし、きつい縦巻きロール、ゴリゴリに巻いた髪、匂いの強い香水、婚約者に愛されたいがためにやったことは、全て侍女たちが嘘をついてクロアにやらせていることだった。
でも前世の記憶を取り戻した今は違う。髪もメイクもそのままで十分。今さら手のひら返しをしてきた婚約者にももう興味ありません。
王子が何かにつけて絡んできますが、目立ちたく無いので私には構わないでください
Rila
恋愛
■ストーリー■
幼い頃の記憶が一切なく、自分の名前すら憶えていなかった。
傷だらけで倒れている所を助けてくれたのは平民出身の優しい夫婦だった。
そして名前が無いので『シンリー』と名付けられ、本当の娘の様に育ててくれた。
それから10年後。
魔力を持っていることから魔法学園に通う事になる。魔法学園を無事卒業出来れば良い就職先に就くことが出来るからだ。今まで本当の娘の様に育ててくれた両親に恩返しがしたかった。
そして魔法学園で、どこかで会ったような懐かしい雰囲気を持つルカルドと出会う。
***補足説明***
R18です。ご注意ください。(R18部分には※/今回は後半までありません)
基本的に前戯~本番に※(軽いスキンシップ・キスには入れてません)
後半の最後にざまぁ要素が少しあります。
主人公が記憶喪失の話です。
主人公の素性は後に明らかになっていきます。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
【完結】俺が一目惚れをした人は、血の繋がった父親でした。
モカ
BL
俺の倍はある背丈。
陽に照らされて艶めく漆黒の髪。
そして、漆黒の奥で煌めく黄金の瞳。
一目惚れだった。
初めて感じる恋の胸の高鳴りに浮ついた気持ちになったのは一瞬。
「初めまして、テオン。私は、テオドール・インフェアディア。君の父親だ」
その人が告げた事実に、母親が死んだと聞いた時よりも衝撃を受けて、絶望した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる