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小学生編
湘南ハーモニー 20
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「芽生坊、すっきりしたか」
「うん!」
「そうだ、新しいパンツにしないとな。葉山を呼んでくるよ」
「だいじょうぶだよ。ボク、きがえの場所、ちゃんとわかるもん」
「そうか、じゃ、パパの所に行こう」
芽生坊が泊まっている部屋に行くと、宗吾さんは布団からはみ出て、大の字でグーグーと眠っていた。
「ああん……パパってば、ボクのおふとんにまで」
「くくっ、芽生坊のパパは面白いな」
「ボクのパパは、おもしろくないよ?」
「ん? 違うのか」
「カンノくんにはトクベツに教えてあげるね」
「なんだろう?」
子供特有の『特別にね』という台詞に、ワクワクした。
「あのね、絶対にナイショだよ」
「OK!」
「じつはね『ヘンタイ』さんなの!」
「へ、へへへ……変態だとぉ~」
ヤベッ、漢字に変換すると、そうとう危ないヤツだ! 無垢で可憐な葉山は、無事か!
「そ、そうなんだ……葉山は無事なのか」
「それがね、お兄ちゃんもサイキンとってもヘンタイさんなの」
「えぇ~‼」
驚き過ぎて声が裏返ったぜ! 花の妖精のように清楚で慎ましい葉山が、まさかの変態に? おっ、おそろしい宗吾さんパワーの強さだな。
気を取り直しておねしょで濡れた布団を新しい物に取り替えてやり、俺だけ階段を下りると、台所から話し声がした。
あれ? 葉山と母の声? 一体何を話しているんだ?
会話の内容に、驚いた。
母がまさかそんな心配をしていたなんて。
同時に大学時代に出逢った知花《ともか》を、久しぶりに思いだした。
母には詳しく話していないが、本当は、付き合う前から彼女が不治の病だって分かっていたのさ。サークルで出逢った俺を慕い、俺に恋してくれた思いを受け止めようと決心したのは、この俺だ。
付き合えたのは、たった1年だった。
あの恋愛に後悔はないが、知花の限られた命は、若い俺の想像を超える儚さだった。
彼女は花屋さんになることを夢見て、俺によく花の話をしてくれた。
『良介くん、私ね、将来はフローリストになるのが夢よ。人に幸せを贈りたいの、花を介して……』
俺の実家は江ノ島の土産物。人に旅の思い出を売る商売だったので通じるものがあり、彼女の夢に素直に寄り添えた。そこからどんどん花に興味が湧いて、ついには自分で花を扱ってみたくなったのさ。
いつの間にか志半ばで亡くなった知花の悲しみは、俺の夢に変わっていった。
俺の人生の急カーブが、母さんにそんなに心配をかけていたのかと思うと胸が痛くなったが、続く葉山の言葉に救われた。
『菅野は心から花を愛しています。悲しみも呑み込んで、もっと高い所に辿り着いています。彼は今、彼の人生をちゃんと生きています。僕は彼の親友だから分かるんです』
葉山……お前はすごいよ。そこまで理解して、断言してくれるなんて。
花屋に就職した俺が出逢った最初の同期が、葉山だった。
初めて見た時、葉山の澄んだ瞳にドキッとし、死を受け止めたことのある哀しい瞳だと悟った。
放っておけなかったよ、葉山のこと。
彼が何を抱えて、何に怯え生きているのか、知りたくなった。だが葉山のガードは堅く、なかなか気を許してくれなかった。それでも注意深く観察して、葉山が優しくて情に脆い、清楚な人間なのが分かった。
だから俺はずっと傍で見守って、葉山が心から素直に笑える日がやって来ることを願い続けた。
やがて出逢いと別れを経て、葉山にも転機が訪れた。それは筆舌に尽くしがたい悲惨な事件と引き換えだったが、とにかく彼は変わった。
彼を変えてくれたのは、滝沢宗吾さんと息子の芽生坊だった。
最近、俺をようやく『親友』と呼んでくれるようになった葉山は、いつの間に俺をこんなに理解してくれていたのか。
本当に感激だ。
さぁ、もう少し、家族の時間を楽しんでくれよ。
俺の大事な親友くん!
****
「宗吾さん、起きて下さい」
「瑞樹……どこにも行くなよ」
寝惚け眼で目の前の影を抱きしめると「あっ」と小さな声がした。
「宗吾さん、駄目ですってば」
「少しだけ……」
「ふっ、もう」
瑞樹は抵抗するのをやめて、俺の胸にカタチの良い頭をのせてじっとしてくれた。
「芽生は?」
「また眠ってしまいました」
「さっき起きてたのか。あーごめんな、俺……眠気に負けた」
「……実はオネショしてしまって、泣いていました」
「え? くそっ、また気付けなかった。俺には父性が足りないのか」
反省していると瑞樹の方が、俺を抱きしめてくれた。
「宗吾さん、役割分担が出来るっていいですね。僕にも役割があるのが嬉しいです。不謹慎ですが、芽生くんが困った時に頼ってくれるのが嬉しいんです」
「……瑞樹、君は優しいな。ところで……いいムードのところ悪いが、もう少し離れてくれないか」
「え?」
俺の下半身、どう考えても兆しているよな~! 瑞樹の花のような香りに過敏に反応する身体になってしまったんだよ。あぁ、我ながら節操ない。
「あっ、こんなに? だ、駄目ですって……もうっ、どうして朝からそんなに元気なんですか」
瑞樹は俺を見上げ『毎回懲りない人ですね』と、くすっと笑った。
その君の笑顔が可憐で、また大きくなる。(おいおい、駄目だって!)
「あの……僕がシテあげましょうか」
「え? いいよ。ここは君の友人宅だ。煩悩は頑張って静めるよ」
「ふふっ」
「何を笑う?」
「いえ……こんな時、あの月影寺の人達だったら、お経を唱えるのかなって」
「そうだなぁ、いかにもやりそうなのは……」
「翠さん!!」
「翠さんでしょうね」
瑞樹と声が揃って、笑ってしまった。
「宗吾さん、あの……無理に萎えさせなくていいですよ。僕……汚さないように出来ますから」
「そっ、それは駄目だ!」
まさかの積極的なお誘い。
俺は瑞樹にシテやるのは大好きだが、自分にシテもらうのは照れ臭いんだよ。変な声が出そうで、絶対にヤバい!
「み、瑞樹、この部屋って……結構広いな」
こうなったら話題を変えて、気を逸らすしかない!
「うん!」
「そうだ、新しいパンツにしないとな。葉山を呼んでくるよ」
「だいじょうぶだよ。ボク、きがえの場所、ちゃんとわかるもん」
「そうか、じゃ、パパの所に行こう」
芽生坊が泊まっている部屋に行くと、宗吾さんは布団からはみ出て、大の字でグーグーと眠っていた。
「ああん……パパってば、ボクのおふとんにまで」
「くくっ、芽生坊のパパは面白いな」
「ボクのパパは、おもしろくないよ?」
「ん? 違うのか」
「カンノくんにはトクベツに教えてあげるね」
「なんだろう?」
子供特有の『特別にね』という台詞に、ワクワクした。
「あのね、絶対にナイショだよ」
「OK!」
「じつはね『ヘンタイ』さんなの!」
「へ、へへへ……変態だとぉ~」
ヤベッ、漢字に変換すると、そうとう危ないヤツだ! 無垢で可憐な葉山は、無事か!
「そ、そうなんだ……葉山は無事なのか」
「それがね、お兄ちゃんもサイキンとってもヘンタイさんなの」
「えぇ~‼」
驚き過ぎて声が裏返ったぜ! 花の妖精のように清楚で慎ましい葉山が、まさかの変態に? おっ、おそろしい宗吾さんパワーの強さだな。
気を取り直しておねしょで濡れた布団を新しい物に取り替えてやり、俺だけ階段を下りると、台所から話し声がした。
あれ? 葉山と母の声? 一体何を話しているんだ?
会話の内容に、驚いた。
母がまさかそんな心配をしていたなんて。
同時に大学時代に出逢った知花《ともか》を、久しぶりに思いだした。
母には詳しく話していないが、本当は、付き合う前から彼女が不治の病だって分かっていたのさ。サークルで出逢った俺を慕い、俺に恋してくれた思いを受け止めようと決心したのは、この俺だ。
付き合えたのは、たった1年だった。
あの恋愛に後悔はないが、知花の限られた命は、若い俺の想像を超える儚さだった。
彼女は花屋さんになることを夢見て、俺によく花の話をしてくれた。
『良介くん、私ね、将来はフローリストになるのが夢よ。人に幸せを贈りたいの、花を介して……』
俺の実家は江ノ島の土産物。人に旅の思い出を売る商売だったので通じるものがあり、彼女の夢に素直に寄り添えた。そこからどんどん花に興味が湧いて、ついには自分で花を扱ってみたくなったのさ。
いつの間にか志半ばで亡くなった知花の悲しみは、俺の夢に変わっていった。
俺の人生の急カーブが、母さんにそんなに心配をかけていたのかと思うと胸が痛くなったが、続く葉山の言葉に救われた。
『菅野は心から花を愛しています。悲しみも呑み込んで、もっと高い所に辿り着いています。彼は今、彼の人生をちゃんと生きています。僕は彼の親友だから分かるんです』
葉山……お前はすごいよ。そこまで理解して、断言してくれるなんて。
花屋に就職した俺が出逢った最初の同期が、葉山だった。
初めて見た時、葉山の澄んだ瞳にドキッとし、死を受け止めたことのある哀しい瞳だと悟った。
放っておけなかったよ、葉山のこと。
彼が何を抱えて、何に怯え生きているのか、知りたくなった。だが葉山のガードは堅く、なかなか気を許してくれなかった。それでも注意深く観察して、葉山が優しくて情に脆い、清楚な人間なのが分かった。
だから俺はずっと傍で見守って、葉山が心から素直に笑える日がやって来ることを願い続けた。
やがて出逢いと別れを経て、葉山にも転機が訪れた。それは筆舌に尽くしがたい悲惨な事件と引き換えだったが、とにかく彼は変わった。
彼を変えてくれたのは、滝沢宗吾さんと息子の芽生坊だった。
最近、俺をようやく『親友』と呼んでくれるようになった葉山は、いつの間に俺をこんなに理解してくれていたのか。
本当に感激だ。
さぁ、もう少し、家族の時間を楽しんでくれよ。
俺の大事な親友くん!
****
「宗吾さん、起きて下さい」
「瑞樹……どこにも行くなよ」
寝惚け眼で目の前の影を抱きしめると「あっ」と小さな声がした。
「宗吾さん、駄目ですってば」
「少しだけ……」
「ふっ、もう」
瑞樹は抵抗するのをやめて、俺の胸にカタチの良い頭をのせてじっとしてくれた。
「芽生は?」
「また眠ってしまいました」
「さっき起きてたのか。あーごめんな、俺……眠気に負けた」
「……実はオネショしてしまって、泣いていました」
「え? くそっ、また気付けなかった。俺には父性が足りないのか」
反省していると瑞樹の方が、俺を抱きしめてくれた。
「宗吾さん、役割分担が出来るっていいですね。僕にも役割があるのが嬉しいです。不謹慎ですが、芽生くんが困った時に頼ってくれるのが嬉しいんです」
「……瑞樹、君は優しいな。ところで……いいムードのところ悪いが、もう少し離れてくれないか」
「え?」
俺の下半身、どう考えても兆しているよな~! 瑞樹の花のような香りに過敏に反応する身体になってしまったんだよ。あぁ、我ながら節操ない。
「あっ、こんなに? だ、駄目ですって……もうっ、どうして朝からそんなに元気なんですか」
瑞樹は俺を見上げ『毎回懲りない人ですね』と、くすっと笑った。
その君の笑顔が可憐で、また大きくなる。(おいおい、駄目だって!)
「あの……僕がシテあげましょうか」
「え? いいよ。ここは君の友人宅だ。煩悩は頑張って静めるよ」
「ふふっ」
「何を笑う?」
「いえ……こんな時、あの月影寺の人達だったら、お経を唱えるのかなって」
「そうだなぁ、いかにもやりそうなのは……」
「翠さん!!」
「翠さんでしょうね」
瑞樹と声が揃って、笑ってしまった。
「宗吾さん、あの……無理に萎えさせなくていいですよ。僕……汚さないように出来ますから」
「そっ、それは駄目だ!」
まさかの積極的なお誘い。
俺は瑞樹にシテやるのは大好きだが、自分にシテもらうのは照れ臭いんだよ。変な声が出そうで、絶対にヤバい!
「み、瑞樹、この部屋って……結構広いな」
こうなったら話題を変えて、気を逸らすしかない!
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