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小学生編
【芽生小学生編】スモールステップ 1
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こんにちは。志生帆海です。
今日は最初にご挨拶をさせてくださいね。
『幸せな復讐』を終え、物語は一旦完結させました。
その後いろいろな場所から、読者さまからの『続編リクエスト』の声が届き、嬉しかったです。本当にありがとうございます。
『まだまだこの3人を見守りたい』
『小学生になった芽生を見たい』
そんな……熱いご要望を受けて、本日から【芽生小学生編】として再スタートします。
私の書きたい気持ちが続く間は、いつものように出来たら毎日更新したいです。どうぞよろしくお願いします。完結マーク、本日外させていただきます。
*****
「宗吾さん、宗吾さん、そろそろ起きてください」
「パパーってば、おねぼうだねぇ」
「えっ!」
目を開けると、もう洋服に着替えた二人が笑っていた。
「おっと、俺だけ寝坊?」
「いえ、僕たちが早起きしたんですよ」
芽生と顔を見合わせて笑う瑞樹は、すっきりとした表情を浮かべていた。
昨日抱き潰す程抱いてしまったので、朝起きれないのではと心配したが、無事のようだな。
昨夜……最後に感極まって泣いてしまった瑞樹を胸に抱いて眠った。
可愛かった。愛おしい存在だと改めて思ったよ。
「ところで、瑞樹はどうしてそんなに元気なんだ?」
「え? それは……昨日お昼寝をし過ぎたので、その……無事でした」
無事って? つまり抱き潰されなかったってことか。
「それより宗吾さん遅刻しちゃいますよ、また!」
「ヤバイ!」
そうか、今日は瑞樹は休みだったな。俺だけ会社か。ううう、俺も一緒に休みたい。そんな訳にはいかないが、純粋にいいなと思った。
「はい、靴下ですよ」
きちんと畳まれた靴下を渡されると、我が家に瑞樹が帰ってきたのだなと実感した。
「サンキュ」
つい、いつもの調子でおはようのキスが欲しくなり瑞樹を引き寄せると、芽生と目があった。そうか……もう芽生も小学生だ。子供の前でキスはまずいのか。そろそろ気をつけないとな。
瑞樹も困った顔で、首をふるふると横に振っていた。
うーむ、今朝はお預けか。いや、後でもらう! (俺は諦めない男だ)
顔を洗って食卓に向かうと、トーストやコーヒーなどが並んでいた。
「瑞樹が用意してくれたのか」
「いつも宗吾さんがしてくれるので……僕はあまり凝ったものは出来ませんが」
こんな何気ない会話にも、君が家にいてくれる幸せを感じるよ。
「宗吾さん、花が咲いていました」
「ん?」
「窓辺のカモミールに、可憐な花が咲いていて……蕾が朝になって開いているだけでも幸せになりますね」
「そうだな、どれ? あれか。へぇ……可愛い花だな」
窓の向こうの向こうに、白い花びらの可愛い花が春風に揺れていた。
芽生と二人の時はこんな会話をする余裕なんて皆無だった。毎日は昨日みたいな調子だった。特に最初は幼稚園のバス停に親子でボロボロの姿で駆け込む日々だったぞ。俺は皺くちゃなワイシャツに、緩んだネクタイ。芽生の幼稚園の制服にもシミがついたりして、今、思い出すとかなり悲惨だった。
そこから母に特訓を受け、なんとかなるようになったが、俺には情緒がなくて……結局、いつもバタバタだった。
「ごちそうさん。今日は何をして過ごす予定?」
「そうですね。お天気がいいので公園に行って、あと小学校入学の準備をします」
「もうあと4日だもんな。持ち物一覧を再チェックしておいてもらえるか」
「はい。やっておきますので、お仕事頑張ってきてくださいね」
ううう、可愛い。
瑞樹は本当に優しくて可憐で……いい男だ!
「じゃあ行ってくるよ」
「パパーお見送りする」
「おう!」
玄関まで、二人揃って見送りに来てくれる。
ううう、俺も残りたい。
いや、ここは父親らしくビシッと行くべきだ。
情けない葛藤で揺れるので、せめて瑞樹から栄養をもらおう。
「おっと、忘れ物だ。芽生、ソファからパパのスマホを持ってきてくれるか」
「はーい!」
芽生がパタパタとリビングに向かった隙に、瑞樹を一度ギュっと抱きしめ、キスを4回した。
「お・は・よ・う!」
「あ……も、もう」
瑞樹は目元染めて、口に手をあてて恥ずかしがる。
不意打ちのキスは恥ずかしいか。俺は美味しかったぞ!
「パパー、はい! もう忘れものはない?」
「大丈夫だよ」
「ううん、あるよ! 」
芽生の瞳がキラキラ輝く。
「え? もうないぞ?」
「ううん、たいせつなことだよ。いつもみたいに、おにいちゃんに行ってきますの、チュウをしないの?」
「お……お前……知って」
「えへへ、ボクもパパにしたいなぁ。おにいちゃんもいっしょにしようよ」
「う……うん」
玄関でしゃがむと、芽生が左の頬に瑞樹が右の頬にチュッとしてくれた。
ヤバイ、俺……しあわせだ。
「パパだけ会社だけど、ファイトだよー!」
芽生が応援してくれるので、ガッツポーズで応えた。
「宗悟さん、いってらっしゃい!」
「あぁ、二人に会いたいから、早く帰るよ」
今日は絶対に早く帰ろう!
そう決めた!
****
「お兄ちゃん、お手伝いするよ」
「ありがとう」
洗濯物を干していると、芽生くんが近づいて来た。
「ふたりですると、はんぶんのじかんでおわるね」
「わ、えらいね。よくわかったね。だからお手伝いって助かるんだよ」
「そうしたらボクと遊べる時間もふえるよね?」
「うん、そうだよ。今日は何して遊ぼうか」
「あのね……お願いがあるの」
「なんだろう?」
芽生くんのお願いは、小学校までひとりで行く練習をしてみたいということだった。
4月6日が小学校の入学式だから、あと4日で、いよいよ芽生くんは小学生になるのだ。出会った時はまだ4歳と小さく、今より出来ることもずっと少なくて、言葉もたどたどしかったのに、何もかも、しっかりしてき。でも同時にまだたった6歳なのだ。新しい世界に羽ばたくといっても、まだまだ親のケアが必要な年齢だ。
というわけで、朝の掃除を終えてから僕たちは散歩がてら、これから通う小学校までのルートを確認することにした。そうだ、ついでに交差点など危ない場所を確認しておこう。
「お兄ちゃん、そろそろ行く?」
「ちょっと待ってね。テレビを消さないと」
リモコンを持ってテレビを消そうとした時、テロップに嫌な文字が並んだ。
『速報です。小学生の登校の列に乗用車が突っ込んで、二名の男子児童が死亡……』
朝からとても悲しいニュースに、背筋がゾクッとした。なんの非がなくても巻き込まれることがあるのが現実なのだ。
「お兄ちゃん? どうしたの?」
「あぁ……ごめんね」
「あのね……お兄ちゃん、やっぱりさいしょは手をつないでいっしょに行ってくれる? その次は後をあるいて、それで……ご、ごめんね。やっぱりちょっとこわくなっちゃった」
「うん、そうしよう! 僕もそうしてほしい」
芽生くんの成長を応援するのが僕の役目なのに、駄目だな。
でも……最初は手を繋いで一緒にと言ってもらえて、嬉しかった。
人生は何がおこるか分からない。それをイヤというほど痛感している僕だけれども、だからといって怖がって何もしないわけにはいかない。それでは前にも後にも進めない……かつての僕になってしまう。
芽生くんは、しっかり明るい未来に向かって歩いて欲しい。
芽生くんだって、いきなりひとりで公道を歩くのは、怖い。でも、いざ小学校に入学したらひとりで行くのだから、ここは僕が背中を押してあげないと。
「さぁ、行こう」
「お兄ちゃん、最初はいっしょだよ」
「うん、ありがとう」
僕と芽生くんはギュッと手をつないで、歩き出した。
これは一歩、一歩、輝く未来に向かう道だ。
芽生くんの成長に、僕も心を寄せていこう。
ずっと乗り越えられなかったものも、芽生くんと一緒に。
スモールステップ。
小さな達成感を積んでいこう。
今日は最初にご挨拶をさせてくださいね。
『幸せな復讐』を終え、物語は一旦完結させました。
その後いろいろな場所から、読者さまからの『続編リクエスト』の声が届き、嬉しかったです。本当にありがとうございます。
『まだまだこの3人を見守りたい』
『小学生になった芽生を見たい』
そんな……熱いご要望を受けて、本日から【芽生小学生編】として再スタートします。
私の書きたい気持ちが続く間は、いつものように出来たら毎日更新したいです。どうぞよろしくお願いします。完結マーク、本日外させていただきます。
*****
「宗吾さん、宗吾さん、そろそろ起きてください」
「パパーってば、おねぼうだねぇ」
「えっ!」
目を開けると、もう洋服に着替えた二人が笑っていた。
「おっと、俺だけ寝坊?」
「いえ、僕たちが早起きしたんですよ」
芽生と顔を見合わせて笑う瑞樹は、すっきりとした表情を浮かべていた。
昨日抱き潰す程抱いてしまったので、朝起きれないのではと心配したが、無事のようだな。
昨夜……最後に感極まって泣いてしまった瑞樹を胸に抱いて眠った。
可愛かった。愛おしい存在だと改めて思ったよ。
「ところで、瑞樹はどうしてそんなに元気なんだ?」
「え? それは……昨日お昼寝をし過ぎたので、その……無事でした」
無事って? つまり抱き潰されなかったってことか。
「それより宗吾さん遅刻しちゃいますよ、また!」
「ヤバイ!」
そうか、今日は瑞樹は休みだったな。俺だけ会社か。ううう、俺も一緒に休みたい。そんな訳にはいかないが、純粋にいいなと思った。
「はい、靴下ですよ」
きちんと畳まれた靴下を渡されると、我が家に瑞樹が帰ってきたのだなと実感した。
「サンキュ」
つい、いつもの調子でおはようのキスが欲しくなり瑞樹を引き寄せると、芽生と目があった。そうか……もう芽生も小学生だ。子供の前でキスはまずいのか。そろそろ気をつけないとな。
瑞樹も困った顔で、首をふるふると横に振っていた。
うーむ、今朝はお預けか。いや、後でもらう! (俺は諦めない男だ)
顔を洗って食卓に向かうと、トーストやコーヒーなどが並んでいた。
「瑞樹が用意してくれたのか」
「いつも宗吾さんがしてくれるので……僕はあまり凝ったものは出来ませんが」
こんな何気ない会話にも、君が家にいてくれる幸せを感じるよ。
「宗吾さん、花が咲いていました」
「ん?」
「窓辺のカモミールに、可憐な花が咲いていて……蕾が朝になって開いているだけでも幸せになりますね」
「そうだな、どれ? あれか。へぇ……可愛い花だな」
窓の向こうの向こうに、白い花びらの可愛い花が春風に揺れていた。
芽生と二人の時はこんな会話をする余裕なんて皆無だった。毎日は昨日みたいな調子だった。特に最初は幼稚園のバス停に親子でボロボロの姿で駆け込む日々だったぞ。俺は皺くちゃなワイシャツに、緩んだネクタイ。芽生の幼稚園の制服にもシミがついたりして、今、思い出すとかなり悲惨だった。
そこから母に特訓を受け、なんとかなるようになったが、俺には情緒がなくて……結局、いつもバタバタだった。
「ごちそうさん。今日は何をして過ごす予定?」
「そうですね。お天気がいいので公園に行って、あと小学校入学の準備をします」
「もうあと4日だもんな。持ち物一覧を再チェックしておいてもらえるか」
「はい。やっておきますので、お仕事頑張ってきてくださいね」
ううう、可愛い。
瑞樹は本当に優しくて可憐で……いい男だ!
「じゃあ行ってくるよ」
「パパーお見送りする」
「おう!」
玄関まで、二人揃って見送りに来てくれる。
ううう、俺も残りたい。
いや、ここは父親らしくビシッと行くべきだ。
情けない葛藤で揺れるので、せめて瑞樹から栄養をもらおう。
「おっと、忘れ物だ。芽生、ソファからパパのスマホを持ってきてくれるか」
「はーい!」
芽生がパタパタとリビングに向かった隙に、瑞樹を一度ギュっと抱きしめ、キスを4回した。
「お・は・よ・う!」
「あ……も、もう」
瑞樹は目元染めて、口に手をあてて恥ずかしがる。
不意打ちのキスは恥ずかしいか。俺は美味しかったぞ!
「パパー、はい! もう忘れものはない?」
「大丈夫だよ」
「ううん、あるよ! 」
芽生の瞳がキラキラ輝く。
「え? もうないぞ?」
「ううん、たいせつなことだよ。いつもみたいに、おにいちゃんに行ってきますの、チュウをしないの?」
「お……お前……知って」
「えへへ、ボクもパパにしたいなぁ。おにいちゃんもいっしょにしようよ」
「う……うん」
玄関でしゃがむと、芽生が左の頬に瑞樹が右の頬にチュッとしてくれた。
ヤバイ、俺……しあわせだ。
「パパだけ会社だけど、ファイトだよー!」
芽生が応援してくれるので、ガッツポーズで応えた。
「宗悟さん、いってらっしゃい!」
「あぁ、二人に会いたいから、早く帰るよ」
今日は絶対に早く帰ろう!
そう決めた!
****
「お兄ちゃん、お手伝いするよ」
「ありがとう」
洗濯物を干していると、芽生くんが近づいて来た。
「ふたりですると、はんぶんのじかんでおわるね」
「わ、えらいね。よくわかったね。だからお手伝いって助かるんだよ」
「そうしたらボクと遊べる時間もふえるよね?」
「うん、そうだよ。今日は何して遊ぼうか」
「あのね……お願いがあるの」
「なんだろう?」
芽生くんのお願いは、小学校までひとりで行く練習をしてみたいということだった。
4月6日が小学校の入学式だから、あと4日で、いよいよ芽生くんは小学生になるのだ。出会った時はまだ4歳と小さく、今より出来ることもずっと少なくて、言葉もたどたどしかったのに、何もかも、しっかりしてき。でも同時にまだたった6歳なのだ。新しい世界に羽ばたくといっても、まだまだ親のケアが必要な年齢だ。
というわけで、朝の掃除を終えてから僕たちは散歩がてら、これから通う小学校までのルートを確認することにした。そうだ、ついでに交差点など危ない場所を確認しておこう。
「お兄ちゃん、そろそろ行く?」
「ちょっと待ってね。テレビを消さないと」
リモコンを持ってテレビを消そうとした時、テロップに嫌な文字が並んだ。
『速報です。小学生の登校の列に乗用車が突っ込んで、二名の男子児童が死亡……』
朝からとても悲しいニュースに、背筋がゾクッとした。なんの非がなくても巻き込まれることがあるのが現実なのだ。
「お兄ちゃん? どうしたの?」
「あぁ……ごめんね」
「あのね……お兄ちゃん、やっぱりさいしょは手をつないでいっしょに行ってくれる? その次は後をあるいて、それで……ご、ごめんね。やっぱりちょっとこわくなっちゃった」
「うん、そうしよう! 僕もそうしてほしい」
芽生くんの成長を応援するのが僕の役目なのに、駄目だな。
でも……最初は手を繋いで一緒にと言ってもらえて、嬉しかった。
人生は何がおこるか分からない。それをイヤというほど痛感している僕だけれども、だからといって怖がって何もしないわけにはいかない。それでは前にも後にも進めない……かつての僕になってしまう。
芽生くんは、しっかり明るい未来に向かって歩いて欲しい。
芽生くんだって、いきなりひとりで公道を歩くのは、怖い。でも、いざ小学校に入学したらひとりで行くのだから、ここは僕が背中を押してあげないと。
「さぁ、行こう」
「お兄ちゃん、最初はいっしょだよ」
「うん、ありがとう」
僕と芽生くんはギュッと手をつないで、歩き出した。
これは一歩、一歩、輝く未来に向かう道だ。
芽生くんの成長に、僕も心を寄せていこう。
ずっと乗り越えられなかったものも、芽生くんと一緒に。
スモールステップ。
小さな達成感を積んでいこう。
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