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成就編
幸せな復讐 18
しおりを挟む食事をだいたい終えると、芽生が、瑞樹に甘え出した。
最近はそこまでグズらなかったのに、今日は珍しいな。日々成長していく頼もしい芽生だが、こういう時はまだたった6歳の子供なのだと実感する。
俺は……それをつい忘れそうになるから駄目だ。芽生相手に張り合ったりして、大人げない時も増えてきたしな。
それにしても今日、芽生がここまで瑞樹に甘えるのは、子供心に無意識に何かを感じているのかもしれない。
瑞樹がここに何をしに来たのか、ここで何をしたのか。縁あった男性の存在。
話さなくても、少しだけ違うことに不安になるものだ。
だから芽生が寝付くまで、俺は空気になろうと努めた。
『役割』
きっとこれが俺の父親としての役割なのだ。
俺の親父の時代は 『地震・雷・火事・親父 』という諺通り、「父親」は子どもにとって怖い存在だった。俺も父には絶対に逆らえないという思いを持って過ごしてきた。父親は仕事一筋で、子供と遊ぶことも殆どなかったので、どこか遠い存在だった。
芽生が寝付くのを待つ間、窓際に置かれた籐の椅子に座って、夜空を見上げた。
瞬く星は亡くなった人の輝きとも言われている。
親父、元気にしているか。俺は……俺らしい父親を目指してみるよ。
同性の瑞樹と芽生を育てていく覚悟は、お互いに出来ている。ならば、そこで必要なのは役割分担だろう。何度も考えたことだが、俺と瑞樹には得手不得手がある。それを補い合っていきたい。
俺はじっと芽生を根気よく寝かしつけることが、どうにも苦手で、すまない。こんな時痛感するよ。だから俺は「行動する」道標となろう。瑞樹が花の名前を教えるのが得意なら、俺は虫の捕り方を、体を使って教えよう。
また「頼りになる存在」でもありたいな。それは日常の些細なことから実践していきたい。高い所の物を取ったり、瓶の蓋を開けるとか、そういうのは得意だ。俺がいることで家族が安心できれば嬉しいよ。
やがて……芽生は思春期反抗期を迎えるだろう。そんな時は、ガツンと言える存在でもありたいな。何でも許すのではなく、時には叱ったり、諭したりという大切な役割を担いたい。俺が壁を買って出よう。
「おにいちゃん……おまつり……わたあめ……たべたい」
「ん……また行こうね。宗吾さんと僕と……家族で……」
優しく甘い会話……俺が守りたい人たち。
どうやら、もう少しかかりそうだな。せっかく部屋に掛け流しの温泉があるのだから、また入るか。
そう思って静かに移動し、湯に浸かった。
いい湯だ……きめ細やかに肌にまとわりついてくる。
優しく――包まれていく。
瑞樹を抱いている時の心地と似ているな。
この先もずっとずっと瑞樹を大切にしよう。
『いつもありがとう。助かってるよ』と折に触れて伝え、瑞樹に安らぎを感じて欲しい。瑞樹の控えめな優しさは、母性と似ている部分がある。彼のその特性を余すことなく芽生に伝えて欲しいから、君に甘えるが、君も俺と同じ男性だということは絶対に忘れない。
俺は男の瑞樹が好きなのだ。
そこまで思うと、急に瑞樹の肌が恋しくなった。
じっと我慢だ。今は――
きっと瑞樹はここに来てくれる。
目を閉じて瞑想した。
瑞樹がここに来てくれたら……
その先にはふたつの道があった。
7年付き合った相手がいる傍で君を抱くのは酷か。今日は大人しく寝た方がいいか。彼との付き合った年月の長さを思うと、少しだ妬いてしまう自分がまだいた。
情けないな。
それとも、今の瑞樹をありのまま受け止めれば、今宵ここで君を求めるのは不自然なことではない。むしろ自然なことだ。
どちらに転ぶのか……
そんなことを考えていたら、瑞樹が静かにやってきた。
「宗吾さん……あの」
「あぁ、芽生を寝付かせてくれてありがとう。芽生は眠い時は相変わらず瑞樹にべったりになるな」
瑞樹を労うと、花が咲くように微笑んでくれた。
俺の息子を心から愛おしくんでくれる瑞樹が……本当に可愛い。
「かわいいです。いつまでも小さいままでいてくれないのが分かっているので、余計に今が愛おしくなります」
可愛いから、自然と強請ってしまった。先ほどまでの迷いは吹っ飛んで。
「そうだよな。じゃあ、そろそろ俺の時間か」
熱い視線を送ると、なんと! 瑞樹自ら浴衣の帯を解いてくれた。
「あの……一緒に、入っても」
「もちろんだ。待っていた」
はらりと潔く浴衣を足元に落とすなんて、清楚な瑞樹にしては大胆な行動だ。
「少し緊張してきた……この旅館内で君に手を出していいのか、少し悩んでいたんだ。前の彼氏がいる場所で……君を抱くのを許してもらえるのだろうか」
がっつきすぎている自分を制するために、瑞樹に確認を取ってしまった。
すると……瑞樹は返答の代わりに、そのまま湯に足をいれ、そのまま俺に抱きついてきてくれた。
「宗吾さん……好きです!」
君からの口づけを受けて、求める心は一つなのだと噛みしめた。
「抱いてもいいか」
「……はい」
俺の前に膝立ちになった瑞樹が、恥ずかしそうに俯いた
白い肢体が照明を落とした浴室に浮き上がる。
その姿に、瑞樹の誕生花の「スズラン」の花姿が重なった。
『溢れ出る優しさ、希望……幸福の再来……純愛』
君が教えてくれた花言葉なら、全部覚えている。
どれも今の俺たちを表現するだ言葉だ。
まるでパズルのピースのように、俺たちの間に生まれた感情と当てはまっていく。
真っ白な釣り鐘のような花が、下向きになって咲く様子を、人は『君影草』と呼んだ。
俺の前で白い体を晒し、俯く君はまさに『君影草』のようだ。
この花を守り、この花の蜜を吸い、この花と生きていく。
細い腰に手を回し、ほっそりとしなやかな体を抱きしめる。
「瑞樹……ありがとう」
今、ここにいてくれて。俺と巡り会ってくれて……
そのまま胸の飾りを口に含み、花の蜜を吸うように扱うと、君は湯の中で震えた。
「ん……っ、あっ……」
花を咲かせる太陽であり、風であり、大地でありたい。
君を灯す星にも月にもなりたい。
俺にしてはロマンチックな思いが溢れてくる夜の逢瀬。
熱い湯の中で繰り広げていく、二人だけの甘い夜の始まりだ。
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