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成就編
幸せな復讐 3
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「良い旅になるよ、大丈夫」
それはまるで、おまじないのような言葉だった。
宗吾さんの言葉を信じよう! 僕は大丈夫だ。
ちゃんと落ち着いて、アイツと対面出来るはずだ。
「瑞樹、もうすぐ着くぞ。シートベルトを締めておけ」
「はい!」
飛行機が下降していく。間もなく大分空港に到着する。
北海道生まれの僕には、一馬が生まれ育った大分・湯布院は、あまりに遠く、未知の世界だった。
本当は何度が誘われたのだ。
『瑞樹、お盆に北海道に帰省しないのなら、一緒に来ないか。湯布院の温泉はいいぞ。とろんとした湯が最高だ。親父もお袋も、大学の友人を連れて帰るかもと話したら、喜んでいたよ』
『い……いいよ。僕は……行かない。バイト、沢山入れちゃったし、無理だ。ごめんな』
本当はいつだって怖かった。一馬との恋にはいつかきっと終わりがあると、最初から思って付き合っていた。だから僕は人目に触れてはいけない、存在を残してはいけないと。
そんな覚悟で付き合っていたくせに、いざ、終わりを告げられると、かなり凹んだ。
寂しかった。独り残されるのは、とても苦手で、とても嫌だと悟った。
1分1秒でも長く僕の傍にいて……別れはちゃんと受け入れから。
寂しいから……ギリギリまで傍にいて欲しい。
そんな言葉で……、一馬を結婚当日まで縛った。
今、考えれば、お嫁さんに申し訳ないことをしてしまった。
僕は一馬と、人恋しさと人寂しさを、埋める恋をした。
僕の過去を掻き消すような轟音と共に、飛行機は無事に大分空港に着陸した。
「わー着いたね。今度はどんなところだろうね? ボク、きゅうしゅうってはじめてだよ」
「僕もなんだ」
「お兄ちゃん、もう大丈夫? あれれ……まだおてて、つめたいね」
「瑞樹、すっかり冷えちまったな。あ、そうだ!」
グイグイと手を引かれて、連れて行かれた。
「あ、あの……どこへ?」
「バスの時間まで、時間を潰すぞ」
「は、はい!」
空港の中を突っ切ると、空港施設の一番隅に『足湯』があった。
「え! 空港に温泉があるんですか」
「そうなんだ。源泉掛け流しの足湯を無料で利用出来るんだ。最高だぞ」
「びっくりしました」
「ほら、入ろう」
宗吾さんの行動力には、いつも感謝だ。
機内で両親の会話を思い出した僕は少しナーバスになり、更に一馬との7年間を振り返ったりして、ギリギリの精神状態だった。
「瑞樹、なぁ、少し落ち着こう」
「は、はい」
僕たちは湯上がりタオルを購入し、靴と靴下を脱ぎ、ズボンをたくし上げた。足を熱々のお湯に浸けてみると、一気に体内の血液が温まり、とても寛いだ気分になってきた。
「はぁ……ホッとしますね」
(色っぽい声だな)
「え!」
宗吾さんにぼそっと呟かれて、ポンと顔まで赤くなる。
「お兄ちゃん、ポカポカだね~」
「う、うん。芽生くん。あっ……あんまり足をバタバタしたら駄目だよ。それに滑って落っこちないようにね」
「うん! あー! お兄ちゃんのお顔、またアチチになってるよ」
「そ、そうかな」
お湯の中に、芽生くんの小さな足、僕の足、宗吾さんの足がゆらゆらと見える。
今の僕はちゃんと生きているから、大地に根付く足になったな。
裸足の足を見て、そう思った。
「宗吾さん、あの……僕は……小さい時、とても人見知りな子供だったんです」
宗吾さんには何でも話しておきたい。拾ってきた過去の思い出は、宗吾さんと共有したい。
もっともっと……僕を知って欲しい。
「そうか」
「だから、いつも……なかなか友達が出来なくて、大変でした。僕の両親は僕の性格を理解してくれていて、いつも気長に待ってくれ、時には背中を押してくれました」
「愛されていたんだな、瑞樹」
「はい……でも急に心の支えだった両親がいなくなり、それで僕……とても困ってしまって、もう、どうしたらいいのか分からなくなって」
「瑞樹は、人より馴染むのに少し時間がかかるだけさ。さっきも機内で話したが、馴染んでしまえば、どこまでも優しくていい子だ」
「あ……」
宗吾さんからの言葉は、いつもストンと心に届く。
「函館の家族も大好きなんです。僕がもっと早く馴染めていれば、もっと違う形になっていたのにと、後悔しています」
「おいおい、過去を振り返るのは良いが、あまり引きずられるなよ。瑞樹はここ2年……函館の家族と歩み寄ろうと努力して、いい結果が出ているじゃないか。そっちを見ろよ。それから……これから会いに行く彼とのこともそうだ。彼と付き合った年月は確かに長いが、問題は深さだ。どこまで信頼しあえ、未来を共に見ていけるかなら、俺は負けていないぞ」
力強い言葉……グイグイ僕を押し上げてくれる人。それが宗吾さんだ。
「ありがとうございます。そろそろ時間ですね。バスに乗りましょう。そして行きましょう。湯布院へ!」
僕の方から立ち上がり、宗吾さんに手を差し出した。
「おう! そうだ。その調子だ。芽生、行くぞ」
「うん! エイ・エイ・オー! だね」
「くすっ」
大分空港から湯布院温泉郷までは、直通バスで1時間の旅だ。
もう、目的地は目の前に迫っている。
それはまるで、おまじないのような言葉だった。
宗吾さんの言葉を信じよう! 僕は大丈夫だ。
ちゃんと落ち着いて、アイツと対面出来るはずだ。
「瑞樹、もうすぐ着くぞ。シートベルトを締めておけ」
「はい!」
飛行機が下降していく。間もなく大分空港に到着する。
北海道生まれの僕には、一馬が生まれ育った大分・湯布院は、あまりに遠く、未知の世界だった。
本当は何度が誘われたのだ。
『瑞樹、お盆に北海道に帰省しないのなら、一緒に来ないか。湯布院の温泉はいいぞ。とろんとした湯が最高だ。親父もお袋も、大学の友人を連れて帰るかもと話したら、喜んでいたよ』
『い……いいよ。僕は……行かない。バイト、沢山入れちゃったし、無理だ。ごめんな』
本当はいつだって怖かった。一馬との恋にはいつかきっと終わりがあると、最初から思って付き合っていた。だから僕は人目に触れてはいけない、存在を残してはいけないと。
そんな覚悟で付き合っていたくせに、いざ、終わりを告げられると、かなり凹んだ。
寂しかった。独り残されるのは、とても苦手で、とても嫌だと悟った。
1分1秒でも長く僕の傍にいて……別れはちゃんと受け入れから。
寂しいから……ギリギリまで傍にいて欲しい。
そんな言葉で……、一馬を結婚当日まで縛った。
今、考えれば、お嫁さんに申し訳ないことをしてしまった。
僕は一馬と、人恋しさと人寂しさを、埋める恋をした。
僕の過去を掻き消すような轟音と共に、飛行機は無事に大分空港に着陸した。
「わー着いたね。今度はどんなところだろうね? ボク、きゅうしゅうってはじめてだよ」
「僕もなんだ」
「お兄ちゃん、もう大丈夫? あれれ……まだおてて、つめたいね」
「瑞樹、すっかり冷えちまったな。あ、そうだ!」
グイグイと手を引かれて、連れて行かれた。
「あ、あの……どこへ?」
「バスの時間まで、時間を潰すぞ」
「は、はい!」
空港の中を突っ切ると、空港施設の一番隅に『足湯』があった。
「え! 空港に温泉があるんですか」
「そうなんだ。源泉掛け流しの足湯を無料で利用出来るんだ。最高だぞ」
「びっくりしました」
「ほら、入ろう」
宗吾さんの行動力には、いつも感謝だ。
機内で両親の会話を思い出した僕は少しナーバスになり、更に一馬との7年間を振り返ったりして、ギリギリの精神状態だった。
「瑞樹、なぁ、少し落ち着こう」
「は、はい」
僕たちは湯上がりタオルを購入し、靴と靴下を脱ぎ、ズボンをたくし上げた。足を熱々のお湯に浸けてみると、一気に体内の血液が温まり、とても寛いだ気分になってきた。
「はぁ……ホッとしますね」
(色っぽい声だな)
「え!」
宗吾さんにぼそっと呟かれて、ポンと顔まで赤くなる。
「お兄ちゃん、ポカポカだね~」
「う、うん。芽生くん。あっ……あんまり足をバタバタしたら駄目だよ。それに滑って落っこちないようにね」
「うん! あー! お兄ちゃんのお顔、またアチチになってるよ」
「そ、そうかな」
お湯の中に、芽生くんの小さな足、僕の足、宗吾さんの足がゆらゆらと見える。
今の僕はちゃんと生きているから、大地に根付く足になったな。
裸足の足を見て、そう思った。
「宗吾さん、あの……僕は……小さい時、とても人見知りな子供だったんです」
宗吾さんには何でも話しておきたい。拾ってきた過去の思い出は、宗吾さんと共有したい。
もっともっと……僕を知って欲しい。
「そうか」
「だから、いつも……なかなか友達が出来なくて、大変でした。僕の両親は僕の性格を理解してくれていて、いつも気長に待ってくれ、時には背中を押してくれました」
「愛されていたんだな、瑞樹」
「はい……でも急に心の支えだった両親がいなくなり、それで僕……とても困ってしまって、もう、どうしたらいいのか分からなくなって」
「瑞樹は、人より馴染むのに少し時間がかかるだけさ。さっきも機内で話したが、馴染んでしまえば、どこまでも優しくていい子だ」
「あ……」
宗吾さんからの言葉は、いつもストンと心に届く。
「函館の家族も大好きなんです。僕がもっと早く馴染めていれば、もっと違う形になっていたのにと、後悔しています」
「おいおい、過去を振り返るのは良いが、あまり引きずられるなよ。瑞樹はここ2年……函館の家族と歩み寄ろうと努力して、いい結果が出ているじゃないか。そっちを見ろよ。それから……これから会いに行く彼とのこともそうだ。彼と付き合った年月は確かに長いが、問題は深さだ。どこまで信頼しあえ、未来を共に見ていけるかなら、俺は負けていないぞ」
力強い言葉……グイグイ僕を押し上げてくれる人。それが宗吾さんだ。
「ありがとうございます。そろそろ時間ですね。バスに乗りましょう。そして行きましょう。湯布院へ!」
僕の方から立ち上がり、宗吾さんに手を差し出した。
「おう! そうだ。その調子だ。芽生、行くぞ」
「うん! エイ・エイ・オー! だね」
「くすっ」
大分空港から湯布院温泉郷までは、直通バスで1時間の旅だ。
もう、目的地は目の前に迫っている。
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