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成就編
白銀の世界に羽ばたこう 15
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ルームサービスのハンバーグ弁当には、バスケット一杯の焼きたてのパンが添えられていた。
「わぁ……すごく美味しそうですね」
「あぁ、流石だ。良いサービスだな」
「はい!」
すっかり遅くなった夕食だったが、3人でパクパクと美味しく食べ始めた。
「おにいちゃん、パンたべたいなぁ」
芽生くんが小さな手を机に伸ばす。
「うん、どれがいいかな」
「えっとね、ロールパンと……あれ? おにいちゃん、ジャムとかバターがないねぇ」
「あ……本当だ」
「うーなにもつけないと……ちょっとたべにくいよ」
確かに、とてもシンプルなパンなので、ジャムなど添えたらもっと美味しそうだ。僕たちはハンバーグのソースでいいが……芽生くんは慣れていない。
「よし、じゃあ、ホテルの人に頼んでみよう」
宗吾さんが、すぐに客室に備え付けの電話機に向かう。
でも、特別対応をしてもらった上に、これ以上は申し訳ない。
あっ、そうだ。僕たちは良い物を持っている!
「宗吾さん、潤がくれたアレを……早速食べてみませんか」
「えっ? アレは、大事な夜の……アイ……」
まただ。もうっ、宗吾さんは懲りない人だな。
「の、はず、ありません! さぁ、たっぷり塗って食べちゃいましょう!」
宗吾さん、今は家族旅行ですよ。多少のお遊びは……家でなら僕も付き合いますが、ここでは駄目ですよ(こんな風に考えること自体、思考回路が宗吾さん化しているような気もするが)
心の中で伝えると、宗吾さんは実に無念そうだった。大袈裟にがっかりするのだから、大人げない人だ。(そういう所も好きなんです)
「あー、俺の夢と希望がぁ~」
「もうっ」
「パパってばぁ、これは、ただのジャムだよ? またヘン‼ だよ」
「本当にね」
僕とメイくんはにっこり微笑みあって、練乳クリームとジャムをたっぷり塗ったパンを頬張った。
「むむむ、だが俺にはまだ希望が残っているさ」
冷蔵庫の缶ビールを直に飲みながら、宗吾さんは上機嫌で鞄の中からアレを……探し出した。
「パパ、みてみて~、ボク、今日これをして、ねむってもいい?」
すると既にメイくんがアイマスクを持って、にっこり笑っている。
くすっ、またもやですね。
「あー、それ、芽生が使うのか~」
「だって、これはボクがもらったんだもん!」
「そうだよね」
その晩は夕寝をしてしまったせいで、三人とも、なかなか寝付けなかった。
ようやく芽生くんが眠った時には、ボクも宗吾さんも、もう限界で……目が閉じそうだった。
「瑞樹……悔しいが、もう駄目だ。明日に備えて、今日はもう眠るぞ」
「はい……おやすみなさい。宗吾さん」
芽生くんはアイマスクをして、すやすや眠っていた。口元が笑っているようで、可愛いな。
「……瑞樹……せめて、お休みのキスをしないか」
「はい」
宗吾さんと淡く唇を重ねて、そっと心の中で感謝した。
さっきは、嬉しかったです。僕を置いていかないでくれて……ありがとうございます。
宗吾さんも芽生くんも、目が覚めたら、僕を迎えに来てくれた。もう心配するのはやめよう。この二人は僕を置いていかない。だからもう……『僕を置いていかないで!』と心の中で叫んだり、泣かなくていい。
いい旅だ。
豪華なレストランもいいが、家族だけの空間で、パジャマ姿での和やかな食事も、とてもよかった。
「ん……、あっ」
宗吾さんはいつの間にか僕をベッドに押し倒し、キスを深めていた。
「ん……、も、もう駄目ですよ。芽生くんがいるし」
「芽生ならアイマスクをしているから、大丈夫だ」
いや……、そういう問題では……
「でも、明日は早起きしないと。スキー楽しみたいんです」
「うーむ、確かにそうだな。俺もちゃんと眠って置かないと、体力が心配だな」
「そうですよ。きっと、かなり疲れるかと……」
「分かった。君になさけない姿は見せたくないしな。今日はもう寝るぞ」
「はい……おやすみなさい」
宗吾さんが、僕を胸元に抱き寄せてくれる。だから僕は子供のように彼の広い胸にくっついて目を閉じた。
ここはいい……宗吾さんとお付き合いし出してから、僕はこんな風に眠るのが好きになった。
好きな人の温もりを感じながら、明日という未来を楽しみに眠る。
そして良い夢を見る。
気が付けば……もう怖い夢も寂しい夢も、見なくなっていた。
****
兄さん、もう眠ったか……今頃、良い夢を見ているか。
軽井沢は、あの忌々しい現場に、一番近い場所だ。兄さんが嫌な記憶を、思い出していないといいが。
無事に過去から逃げ切っていて欲しい。
今日は頑張ったな。お疲れさん……
明日はもう軽井沢から抜け出そう!オレたちの故郷を彷彿させる大自然が広がる白馬に連れて行くから、待っていてくれよ。
明日はさ……オレとも思い出を作って欲しい。
オレがオレを乗り越えられるように、手助けして欲しい。
兄さん、兄さん、兄さん……甘えてもいいか。
弟の頼みを聞いてくれるか。
おやすみ、兄さん。
オレに会いに来てくれて、ありがとう。
「わぁ……すごく美味しそうですね」
「あぁ、流石だ。良いサービスだな」
「はい!」
すっかり遅くなった夕食だったが、3人でパクパクと美味しく食べ始めた。
「おにいちゃん、パンたべたいなぁ」
芽生くんが小さな手を机に伸ばす。
「うん、どれがいいかな」
「えっとね、ロールパンと……あれ? おにいちゃん、ジャムとかバターがないねぇ」
「あ……本当だ」
「うーなにもつけないと……ちょっとたべにくいよ」
確かに、とてもシンプルなパンなので、ジャムなど添えたらもっと美味しそうだ。僕たちはハンバーグのソースでいいが……芽生くんは慣れていない。
「よし、じゃあ、ホテルの人に頼んでみよう」
宗吾さんが、すぐに客室に備え付けの電話機に向かう。
でも、特別対応をしてもらった上に、これ以上は申し訳ない。
あっ、そうだ。僕たちは良い物を持っている!
「宗吾さん、潤がくれたアレを……早速食べてみませんか」
「えっ? アレは、大事な夜の……アイ……」
まただ。もうっ、宗吾さんは懲りない人だな。
「の、はず、ありません! さぁ、たっぷり塗って食べちゃいましょう!」
宗吾さん、今は家族旅行ですよ。多少のお遊びは……家でなら僕も付き合いますが、ここでは駄目ですよ(こんな風に考えること自体、思考回路が宗吾さん化しているような気もするが)
心の中で伝えると、宗吾さんは実に無念そうだった。大袈裟にがっかりするのだから、大人げない人だ。(そういう所も好きなんです)
「あー、俺の夢と希望がぁ~」
「もうっ」
「パパってばぁ、これは、ただのジャムだよ? またヘン‼ だよ」
「本当にね」
僕とメイくんはにっこり微笑みあって、練乳クリームとジャムをたっぷり塗ったパンを頬張った。
「むむむ、だが俺にはまだ希望が残っているさ」
冷蔵庫の缶ビールを直に飲みながら、宗吾さんは上機嫌で鞄の中からアレを……探し出した。
「パパ、みてみて~、ボク、今日これをして、ねむってもいい?」
すると既にメイくんがアイマスクを持って、にっこり笑っている。
くすっ、またもやですね。
「あー、それ、芽生が使うのか~」
「だって、これはボクがもらったんだもん!」
「そうだよね」
その晩は夕寝をしてしまったせいで、三人とも、なかなか寝付けなかった。
ようやく芽生くんが眠った時には、ボクも宗吾さんも、もう限界で……目が閉じそうだった。
「瑞樹……悔しいが、もう駄目だ。明日に備えて、今日はもう眠るぞ」
「はい……おやすみなさい。宗吾さん」
芽生くんはアイマスクをして、すやすや眠っていた。口元が笑っているようで、可愛いな。
「……瑞樹……せめて、お休みのキスをしないか」
「はい」
宗吾さんと淡く唇を重ねて、そっと心の中で感謝した。
さっきは、嬉しかったです。僕を置いていかないでくれて……ありがとうございます。
宗吾さんも芽生くんも、目が覚めたら、僕を迎えに来てくれた。もう心配するのはやめよう。この二人は僕を置いていかない。だからもう……『僕を置いていかないで!』と心の中で叫んだり、泣かなくていい。
いい旅だ。
豪華なレストランもいいが、家族だけの空間で、パジャマ姿での和やかな食事も、とてもよかった。
「ん……、あっ」
宗吾さんはいつの間にか僕をベッドに押し倒し、キスを深めていた。
「ん……、も、もう駄目ですよ。芽生くんがいるし」
「芽生ならアイマスクをしているから、大丈夫だ」
いや……、そういう問題では……
「でも、明日は早起きしないと。スキー楽しみたいんです」
「うーむ、確かにそうだな。俺もちゃんと眠って置かないと、体力が心配だな」
「そうですよ。きっと、かなり疲れるかと……」
「分かった。君になさけない姿は見せたくないしな。今日はもう寝るぞ」
「はい……おやすみなさい」
宗吾さんが、僕を胸元に抱き寄せてくれる。だから僕は子供のように彼の広い胸にくっついて目を閉じた。
ここはいい……宗吾さんとお付き合いし出してから、僕はこんな風に眠るのが好きになった。
好きな人の温もりを感じながら、明日という未来を楽しみに眠る。
そして良い夢を見る。
気が付けば……もう怖い夢も寂しい夢も、見なくなっていた。
****
兄さん、もう眠ったか……今頃、良い夢を見ているか。
軽井沢は、あの忌々しい現場に、一番近い場所だ。兄さんが嫌な記憶を、思い出していないといいが。
無事に過去から逃げ切っていて欲しい。
今日は頑張ったな。お疲れさん……
明日はもう軽井沢から抜け出そう!オレたちの故郷を彷彿させる大自然が広がる白馬に連れて行くから、待っていてくれよ。
明日はさ……オレとも思い出を作って欲しい。
オレがオレを乗り越えられるように、手助けして欲しい。
兄さん、兄さん、兄さん……甘えてもいいか。
弟の頼みを聞いてくれるか。
おやすみ、兄さん。
オレに会いに来てくれて、ありがとう。
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