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発展編
花の行先 16
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「お兄ちゃん、何を着て行けばいいかなぁ」
「そうだね」
子供部屋の洋服タンスを覗いてみると、服がぐちゃぐちゃに詰め込まれていた。洗濯物は綺麗に畳んで渡しているのに、やっぱりはまだまだ難しいんだなと勉強になった。
「えへへ……ボク、パパに、にたのかなぁ。おかたづけ、へただよね」
「くすっそうだね……もう少しだけ綺麗にしまった方が、着る時に気持ちいいいよ」
「うん!やってみるね!」
素直で可愛いな。
取り急ぎ、芽生くんには水色の襟付きのシャツと紺色のズボンを選んであげた。
「これにするといいよ。自分で着られるかな?」
「うん! おにいちゃんもはやくしないと」
「わっ、そうだね」
アレンジメントを作っていたので、僕もまだジーンズにTシャツというラフな格好だった。
僕は若草色のリンンシャツとベージュのチノパンを選んだ。これならちゃんとした場所でもカジュアルな場所でも大丈夫かな。それにしても……どこに連れて行ってもらえるのかな。家族で休日デートだなんて、楽しみだ。
シャツに袖を通しボタンを留めようとしたら、芽生くんがひょっこりとドアの隙間から覗いていた。
「どうしたの?」
「んっ……とね、これ、ちょっと首がきついの」
「どれ?」
あれ? あぁそうか……確かにこのシャツ、もうサイズがギリギリだ。
芽生くん……この1年で背が伸びたんだな。
「今度一緒に服を買いに行こうね」
「うん!」
気づいてあげられなくて、ごめん。
そういえば、函館の家では広樹兄さんのお下がりが、いつも僕の服だった。兄さんと僕とでは背も体格も違いすぎて……中学、高校と私服にはだいぶ苦労したのが、懐かしい。
だいたい兄さんは衣類の扱いも雑で、Tシャツなんて、ただでさえ大きいのに襟元が伸びていて、胸元がガバガバで恥ずかしかったな。
よく考えたら覗けば……胸元丸見えだったかも?
こんな話を宗吾さんにしたら、またとんでもない方向に行ってしまいそうなので秘密だ!
楽しく考えていると、芽生くんが僕の事をじっと見ていた。
「芽生くん、どうしたの?」
「よかったぁ!」
「何が?」
「今日はおにいちゃん、おケガしてないね」
「えっ……」
「ほら、お風呂ではこことかここにたくさんケガしてたよね。あのときは赤くなっていて、いっぱいしんぱいしたんだよ~」
「あっあぁ……それね……」
丸見えになっていた胸元!
まだ釦を留めていないシャツを、思わず掻き抱いてしまった。
芽生くんって時々際どい発言をするから、呆気に取られてしまうよ。
あの日のようなキスマークは、今は付けられていない。(宗吾さんは毎回つけたそうにするが「絶対にダメです!」とキツクお願いしているのもあっての成果だ)
でも実は……先日とうとう、もっと際どい所に一つ所有の証の痕を丹念に残されたとは、絶対に言えないよなぁ。
「あー!おにいちゃんってば、ボタンずれてるよ」
手元を見ると、見事に掛け違えていた。
はっ、恥ずかし過ぎだ!
「うぅ……恥かしいよ」
「おにいちゃんも、かわいいねぇ」
「うっ……」
しっかりしろ、瑞樹。
これじゃまるで僕が幼稚園生みたいだ。
でも同時に隙を見せられる相手がいるって、いいなとも……
芽生くんの無邪気な人懐っこさが、僕の心を程よく緩めてくれる。
****
「パパ、ちょっと待っていてね」
「あぁ渡しておいで」
芽生が大事そうにフラワーボックスを持って、玲子の店に入っていく。
瑞樹がすぐ横に付き添っているので、安心だ。
ごめんな……瑞樹に負担かけているよな。
俺さ、器用な男じゃないから……こういうシチュエーションってダメなんだよ。情けないが……瑞樹のことしか見えていない。
繊細な心を持つ瑞樹は、いつだって俺の心の隙間を埋めてくれる。
ガラス越しに芽生が、玲子に母の日の花を渡す光景が見えた。
玲子は少し驚いた後、すぐに箱の蓋を開いて眼を細くした。
あぁ……ちゃんと母の顔を浮かべている。
玲子の腹の中には新しい命が宿っているのか。
そう思うと……感慨深く見つめてしまった。
その後、瑞樹と一言二言何かを交わして、瑞樹が丁寧にお辞儀した。
そろそろ……早くこっちに戻って来いよ!
そう願っていたら、その逆のことが起きた!
瑞樹の髪に、玲子が手を伸ばした。
ンン? おい、待てよっ!
なんで玲子が触れる? 俺の瑞樹に!!
瑞樹の長めの前髪を、玲子が指先で持ち上げたりして弄っている。
やばいな! 俺は……元妻にも嫉妬だ!
瑞樹もガラス越しに。かなり困惑した顔を浮かべているのが伺えた。
そして一旦店を出て、慌てた様子で俺の方に戻ってきた。
「どうした? また何か言われたのか」
「あっ……違いますよ。大丈夫ですが……その、この後向かう場所って、時間が決まっていますか」
「まだ1時間程は余裕があるが」
「あの……実は二階の美容室で……玲子さんの旦那さんが僕と芽生くんの髪をカットをしてくれるそうなんですが」
「えぇ?」
「僕も……そろそろ美容院に行かないとって思ってたので……甘えても?」
瑞樹が慎重に伺うように聞いて来る。
「そっ、そうか。俺はここで待っているよ」
「いえ、一緒に来てもらえませんか」
「何故だ?」
「その……僕は宗吾さんの好みの長さにしたいんです」
かっ可愛い……可愛すぎだろ!その発言!
さっきまでの蟠りは消え、いそいそと瑞樹と並んで店内に入ると、玲子にふふんと笑われてしまった。
「宗吾さん好みにしてもらうといいわよ。瑞樹くん」
そう声を掛けられ……図星だった瑞樹は赤面してしまった。
素直な瑞樹はすぐ顔に出る。
そんな分かりやすい体質も……愛おしくて、全部可愛いよ。
「そうだね」
子供部屋の洋服タンスを覗いてみると、服がぐちゃぐちゃに詰め込まれていた。洗濯物は綺麗に畳んで渡しているのに、やっぱりはまだまだ難しいんだなと勉強になった。
「えへへ……ボク、パパに、にたのかなぁ。おかたづけ、へただよね」
「くすっそうだね……もう少しだけ綺麗にしまった方が、着る時に気持ちいいいよ」
「うん!やってみるね!」
素直で可愛いな。
取り急ぎ、芽生くんには水色の襟付きのシャツと紺色のズボンを選んであげた。
「これにするといいよ。自分で着られるかな?」
「うん! おにいちゃんもはやくしないと」
「わっ、そうだね」
アレンジメントを作っていたので、僕もまだジーンズにTシャツというラフな格好だった。
僕は若草色のリンンシャツとベージュのチノパンを選んだ。これならちゃんとした場所でもカジュアルな場所でも大丈夫かな。それにしても……どこに連れて行ってもらえるのかな。家族で休日デートだなんて、楽しみだ。
シャツに袖を通しボタンを留めようとしたら、芽生くんがひょっこりとドアの隙間から覗いていた。
「どうしたの?」
「んっ……とね、これ、ちょっと首がきついの」
「どれ?」
あれ? あぁそうか……確かにこのシャツ、もうサイズがギリギリだ。
芽生くん……この1年で背が伸びたんだな。
「今度一緒に服を買いに行こうね」
「うん!」
気づいてあげられなくて、ごめん。
そういえば、函館の家では広樹兄さんのお下がりが、いつも僕の服だった。兄さんと僕とでは背も体格も違いすぎて……中学、高校と私服にはだいぶ苦労したのが、懐かしい。
だいたい兄さんは衣類の扱いも雑で、Tシャツなんて、ただでさえ大きいのに襟元が伸びていて、胸元がガバガバで恥ずかしかったな。
よく考えたら覗けば……胸元丸見えだったかも?
こんな話を宗吾さんにしたら、またとんでもない方向に行ってしまいそうなので秘密だ!
楽しく考えていると、芽生くんが僕の事をじっと見ていた。
「芽生くん、どうしたの?」
「よかったぁ!」
「何が?」
「今日はおにいちゃん、おケガしてないね」
「えっ……」
「ほら、お風呂ではこことかここにたくさんケガしてたよね。あのときは赤くなっていて、いっぱいしんぱいしたんだよ~」
「あっあぁ……それね……」
丸見えになっていた胸元!
まだ釦を留めていないシャツを、思わず掻き抱いてしまった。
芽生くんって時々際どい発言をするから、呆気に取られてしまうよ。
あの日のようなキスマークは、今は付けられていない。(宗吾さんは毎回つけたそうにするが「絶対にダメです!」とキツクお願いしているのもあっての成果だ)
でも実は……先日とうとう、もっと際どい所に一つ所有の証の痕を丹念に残されたとは、絶対に言えないよなぁ。
「あー!おにいちゃんってば、ボタンずれてるよ」
手元を見ると、見事に掛け違えていた。
はっ、恥ずかし過ぎだ!
「うぅ……恥かしいよ」
「おにいちゃんも、かわいいねぇ」
「うっ……」
しっかりしろ、瑞樹。
これじゃまるで僕が幼稚園生みたいだ。
でも同時に隙を見せられる相手がいるって、いいなとも……
芽生くんの無邪気な人懐っこさが、僕の心を程よく緩めてくれる。
****
「パパ、ちょっと待っていてね」
「あぁ渡しておいで」
芽生が大事そうにフラワーボックスを持って、玲子の店に入っていく。
瑞樹がすぐ横に付き添っているので、安心だ。
ごめんな……瑞樹に負担かけているよな。
俺さ、器用な男じゃないから……こういうシチュエーションってダメなんだよ。情けないが……瑞樹のことしか見えていない。
繊細な心を持つ瑞樹は、いつだって俺の心の隙間を埋めてくれる。
ガラス越しに芽生が、玲子に母の日の花を渡す光景が見えた。
玲子は少し驚いた後、すぐに箱の蓋を開いて眼を細くした。
あぁ……ちゃんと母の顔を浮かべている。
玲子の腹の中には新しい命が宿っているのか。
そう思うと……感慨深く見つめてしまった。
その後、瑞樹と一言二言何かを交わして、瑞樹が丁寧にお辞儀した。
そろそろ……早くこっちに戻って来いよ!
そう願っていたら、その逆のことが起きた!
瑞樹の髪に、玲子が手を伸ばした。
ンン? おい、待てよっ!
なんで玲子が触れる? 俺の瑞樹に!!
瑞樹の長めの前髪を、玲子が指先で持ち上げたりして弄っている。
やばいな! 俺は……元妻にも嫉妬だ!
瑞樹もガラス越しに。かなり困惑した顔を浮かべているのが伺えた。
そして一旦店を出て、慌てた様子で俺の方に戻ってきた。
「どうした? また何か言われたのか」
「あっ……違いますよ。大丈夫ですが……その、この後向かう場所って、時間が決まっていますか」
「まだ1時間程は余裕があるが」
「あの……実は二階の美容室で……玲子さんの旦那さんが僕と芽生くんの髪をカットをしてくれるそうなんですが」
「えぇ?」
「僕も……そろそろ美容院に行かないとって思ってたので……甘えても?」
瑞樹が慎重に伺うように聞いて来る。
「そっ、そうか。俺はここで待っているよ」
「いえ、一緒に来てもらえませんか」
「何故だ?」
「その……僕は宗吾さんの好みの長さにしたいんです」
かっ可愛い……可愛すぎだろ!その発言!
さっきまでの蟠りは消え、いそいそと瑞樹と並んで店内に入ると、玲子にふふんと笑われてしまった。
「宗吾さん好みにしてもらうといいわよ。瑞樹くん」
そう声を掛けられ……図星だった瑞樹は赤面してしまった。
素直な瑞樹はすぐ顔に出る。
そんな分かりやすい体質も……愛おしくて、全部可愛いよ。
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